日産自動車の代名詞的モデル「GT-R」(現行型)は2007年に登場して以来、改良を重ねつつもフルモデルチェンジすることなく販売が続くスーパーカーだ。このクルマ、やはり熱狂的なマニアが走りを楽しむためだけのモデルなのか、それとも通勤や買い物にも使える万能型なのか。
最新の2024年モデルに乗って検証してみた。

○熟成期間16年! 乗り味は?

「GT-R」という車名は「スカイライン」のグレードのひとつだった「スカイライン GT-R」から独立したものだが、その実態はスカイラインとはまったく異なる車種として開発が行われた新型車だ。現行型「NISSAN GT-R」(以下、R35型)は2007年に発売となった。クーペスタイルや丸形の4灯テールランプなどは、スカイラインの意匠を継承したデザインだ。

R35型には8つのグレードがある。最も安価なモデルは「GT-R Pure Edition」で1,375万円。
最も高価なモデルは「GT-R NISMO Special Edition」で2,915万円と、価格だけでも1,500万円以上の開きがある。グレードごとの詳細なスペックはここでは割愛するが、いずれにしても一般庶民にとって手軽に購入できるクルマではない。そんな高額モデルであっても、買い物などに普通に使えるのか。趣味のためだけに買うのはかなりハードルが高いので、そのあたりがかなり気になっていた。

試乗したモデルは「GT-R Premium Edition T-spec」で、価格は1,896万円強。サイドエアバッグやプライバシーガラス、日産オリジナルドライブレコーダー、フロアカーペットなど総額約50万円分のオプションが付いて、総額2,000万円に迫る高額モデルとなっていた。


一般的に、1,000万円を超えるようなスーパーカーともなると走り(動力性能)に特化したモデルがほとんどで、乗り心地などは二の次になりがちだ。ともすれば、買い物や街乗りなどの普段使いには適さないクルマも多い。しかし、日産の開発担当者はGT-Rの2024年モデルを「R35史上最高の洗練された乗り味」と評している。この言葉を筆者は、乗り心地がよくなっていると解釈した。では、実際に乗ってみると?

○根っからのファンは物足りないかも?

運転席に座って真っ先に感じたのは、シートの心地よさだ。フィット感が高く、それでいて窮屈ではない絶妙なホールド感を実現している。
これなら、長時間座っていても疲れにくい。

次にエンジンをかけて感じたのは、想像以上の静かさだ。大音量で吹け上がると思っていると拍子抜けするかもしれない。騒音規制に対応するための改良により、静粛性が意外なまでに向上しているのだ。エンジン音は高音域よりも、低音域をカットすることで騒音とされる音の数値を下げることができる。そのため、2022年モデルからマフラーを変更し、エンジン音を抑えているとのことだ。


走り出しはかなりなめらか。アクセルを優しく踏み込めばスムーズに動き出してくれる。徐々に速度を上げていっても、ギアの変速時に感じがちな、いわゆるガチャガチャした振動がまったくない。路面の轍(わだち)やマンホールのちょっとした段差も気にならない。もちろん、セダンのようなふわふわした感じではなく、それなりに振動を感じるのだが、スーパーカーにしてはかなりショックが抑えられている。道路沿いのコンビニやガソリンスタンドに入るために縁石に乗り上げても、衝撃が少ない。
根っからのGT-Rファンには物足りないのではないかと余計な心配をしてしまうほどだ。

このなめらかでショックの少ない乗り心地は、T-spec専用サスペンションによるところが大きい。すべてのグレードで電子制御サスペンションの制御具合を変更し、乗り心地を重視しているという(最上位グレード「GT-R NISMO」は除く)。T-specの「T」には「トラクションマスター」という意味があるそうだが、さすがにトラクション性能は高いようで足回りはしなやか。それでいてガチガチな走りではなく、快適に走行できるよう絶妙にチューニングされている。

サーキットへ持ち込んで本格的な走りを楽しみたい場合は、トランスミッションのモード切り替えが役に立つ。
シフトレバーが「A」にあるとき、「Rモード」に入れれば超高速走行時でも適切なギアポジションを自動で選択してくれる。

実際にRモードにしてゆるやかなワインディングを走行してみたが、切り替えた瞬間にエンジン音が高音でうなり出し、アクセルのレスポンスがよりダイレクトになった。加えて、ショックアブソーバーのモードを「Rモード」に切り替えれば、減衰力(路面からの振動を収束する力)を固定し、乗り心地が硬くなる。モードを切り替えることで、スポーツ走行に最適な特性を備えた尖った走りを堪能できる。

ちなみに、街乗り中心の運転であれば、トランスミッションモードは「SAVEモード」にし、ショックアブソーバーモードは「COMFモード」にするのがおすすめだ。SAVEモードには、余分なエンジン出力を抑えて燃費を向上させるほか、エンジンレスポンスをゆるやかにし、アクセル操作を楽にしてくれる効果もあるという。COMFモードでは減衰力を制御し、乗り心地の良さを重視してくれる。こうしたモード変更によって、サーキット走行と街乗りの両立を実現しているのだ。

○クルコンは改良の余地あり

試乗して気になった点も挙げておこう。まず、後席の狭さだ。スポーツカーの場合「後席はあってないようなものだ」といういわれ方をする。その言葉の通り、179cmの筆者では窮屈すぎて座れなかった。前席との間がほぼなく、足を入れて座れない。頭がリアガラスに当たりかなり苦しい姿勢となった。炎天下のときには、直射日光が後頭部を直撃しそうだ。

そもそもが2007年のクルマであるため、このあたりは仕方がないのかもしれないが、運転支援システムの「クルーズコントロール」(クルコン)からはやはり古さを感じた。

クルコンはアクセルペダルを踏まなくても一定の速度で走行できるシステムだが、車間制御が行われないため、前を走るクルマに接近しても減速やブレーキ制御などは作動しない。クルコンは高速道路で使う機能だが、前方に急な割り込みがあっても減速せず、そのままの速度で進行を続けてしまうため注意が必要だ。

試乗車の内装はグリーンの本革で統一され、高級感がただよっていた。一方で、ナビやインパネの操作周りからは若干の古さを感じてしまった。2007年の発売当初に比べれば大幅に進化し、「Apple CarPlay」などにも対応しているようだが、最新の日産車と比べてしまうと見劣りする印象は否めない。

○結論:普段使いには向いているか

いくつかの欠点を挙げたが、普段使いにも適したクルマかという今回の検証については、ほぼ完璧と断言できる。座り心地、視界の良さ、車内の静かさ、いずれの点においても満点。中でも、トランクスペースの広さには驚かされた。積載物のサイズにもよるが、ゴルフバッグなら3つ、大型トランクでも2つは余裕で積める。長期間の旅行はもちろん、大型ショッピングモールでの買い出しなどでも大活躍しそうだ。それでいて、サーキットに持ち込めば本格的なスポーツ走行ができてしまう。これまで、このようなクルマが存在しただろうかと考え込んでしまうほどだ。

購入する価値は大いにありそうだが、GT-Rは毎回、決まった台数がディーラーに割り当てられるクルマなので、誰でも買えるモデルかといえばそうではない。実際のところ、2024年モデルもこれから新車で購入することはできないそうだ。欲しければ中古車が出てくるのを待つしかないが、定価より高いプレミア価格での購入は覚悟しておこう。

日産はR35型を「GT-Rの集大成」だとしている。確かに、乗ってみると熟成の度合いが極限に達しているような印象だった。GT-Rの2025年モデルが登場するかどうかは未定だが、全てのクルマが電気自動車になってしまう前に、こういうクルマに乗っておくというのは最高の贅沢なのではないかという気がした。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら