2023年10月15~20日の6日間、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイの交通網は猛烈な渋滞に見舞われた。車で片道約20分の道のりを1時間半以上かけて移動するほどだ。
現地のタクシー運転手も「こんなことはめったにない」と、ため息まじりの不満を漏らしていた。
中東・アフリカ最大のIT見本市「GITEX」とは?

この6日間、中東・アフリカ最大のIT見本市「GITEX」がドバイで開催された。ドバイ世界貿易センターが主催し開催場所となっている年次イベントで、今年で43回目を迎えた。世界180カ国以上から18万人以上が来場し、6000社以上が出展、講演者は1500人以上にものぼる。

41ホールにわたる巨大な会場で行われ、総展示面積は約25万1000平方メートルと東京ビックサイトの2倍以上の広さだ。また250以上もの政府機関が参加し、投資家も1000人以上来場した。本記事では写真をふんだんに使って、同イベントの様子をお届けしていく。

GITEXが展示している技術はAI(人工知能)やビックデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、5G、デジタルシティ、エネルギー、ブロックチェーン、フィンテック、エドテック、メタバース・WEB3.0など多岐にわたる。

メインステージで開かれた基調講演では、ドバイ・デジタル経済会議所会長 兼 UAE デジタル経済・人工知能・リモートワーク担当国務大臣のオマル・スルタン・アルオラマ氏が登壇。同氏は世界で初となる「AI大臣」だ。世界中で注目されている生成AIの技術にも触れ、「AIを過剰に規制しない。反動的な政府の例にはなりたくない」と、積極的に同技術を活用していく方針を示した。


1800社以上のスタートアップが集結する「Expand North Star」

今年のGITEXは新たな試みとして、10月15~18日にスタートアップに特化した展示会「GITEX Expand North Star 2023」を開催した。第1回目となる同イベントは最大700隻のヨットやボートが停泊できるドバイ・ハーバーで行われた。

100カ国1800社以上の世界中のスタートアップ企業が出展し、約1兆ドル(約149兆7550億円)の資本を運用する投資家が900人以上来場した。9ホールにわたる会場で展示されドバイ・ハーバーは異様な光景に包まれた。そして、500人以上の専門家がステージで講演を行った。

また、GITEX Expand North Star 2023には日本から18社のスタートアップが参加した。日本貿易振興会(JETRO:ジェトロ)が同イベントにジャパンパビリオンを設置し、経済産業省が運営するスタートアップ育成プログラム「J-Startup」に選出されているKotozna(AIを搭載した多言語DXソリューション開発)やエレファンテック(電子回路のプリント基板開発)をはじめとした、注目の日本のスタートアップ18社への出展支援を行った。

そのほか、AIモデル精度維持機能を提供するAWLや、筆者も普段大変お世話になっているモバイルバッテリーのシェアリングサービス「ChargeSPOT」を運営するINFORICHなどが出展していた。

賞金総額3200万円!? 3分間のプレゼン「Supernova」

またGITEX Expand North Star 2023では18日、世界トップのスタートアップピッチコンペティション「Supernova Finals」が開催された。521件のエントリーの中から選ばれたファイナリスト27名が登壇して、自社サービスのプレゼンを行った。チャンピオンは優勝賞金10万ドル(約1500万円)を手にする。

1人の持ち時間は、プレゼンが3分、審査員4名による質疑応答が2分、合計わずか5分だった。
時間を気にするあまり早口になって観客と審査員を置いてけぼりにしてしまう人、代打で急きょプレゼンをすることになりしどろもどろに自社サービスを紹介する人など、十人十色のプレゼンを聞くことができた。登壇者の緊張感が会場全体に漂っていた。

また、コスメティックサービスの効果を最大限理解できるアプリを開発する日本スタートアップのAvatarも同コンペに参加していた。

見事チャンピオンに輝いたのは、ブロックチェーン技術を活用し検証可能な文書や情報を発行するサービスを手がけるシンガポールのAccredify。CEOのサイモン・ゴードン氏は「Supernovaは素晴らしい経験で、優勝したことはいまだに信じれられない。スタートアップ企業にとって中東地域、特にUAEにはチャンスがたくさんある。この賞金を使って中東地域での存在感を拡大することに興奮している」と感嘆した。

さらに、米国、インド、UAE、韓国、フランス、英国、ナイジェリア、スイス、中国、バングラデシュを代表する部門優勝者13名が賞金8000ドルをを手にし、女性創設者賞の受賞者には1万ドルが贈られ、同コンペは総額21万4000ドルもの賞金を提供した。残念ながら日本企業の受賞はなかった。
「世界を見るためにドバイにやって来る」

GITEXは1980年に初めて開催された。当初は中東地域の技術企業や業界関連向けに設置され比較的小さな規模だったという。その後、徐々に規模を拡大させ、世界中の最新技術のハブともいえる国際的なプラットフォームへと成長したとのこと。


また今年は、展示総面積を前年比で40%拡大させたり、持続可能性技術革新やESG戦略をテーマにした「GITEX Impact」や、スマートシティやデジタルガバメントをテーマにした「Future Urbanism(未来都市論)」など新たに5つのブースを新設したりと、イベントの規模拡大を加速させている。

また2023年5月には、中東・アフリカや欧州文化が交錯するモロッコの観光都市マラケシュで「GITEX AFRICA」が開催された。アフリカ大陸では初めての開催だったとし、90カ国以上から参加者があり、900を超える出展が行われた。250人以上の国際的な投資家が参加し、250人以上の各国政府やビジネス界の代表者が登壇した。2024年5月に第2回目が開催される予定だ。

そして、マラケシュに続き、2025年5月にはドイツの首都であるベルリンに初進出する。今回のGITEXの調印式で「GITEX EUROPE」を発表された。ドバイ、アフリカに続きヨーロッパにおいて、経済や技術のハブになっていくことを目指す考えだ。

調印式後、GITEXの運営を手がけるドバイのKAOUN International CEOのトリクシー・ローミルマンド氏は、TECH+の独自インタビューに応じた。
○なぜ、このような規模のイベント開催が実現できているのでしょうか?

ローミルマンド氏:私たちが毎年一貫して提供してきたことが、この規模のイベントを実現できている要因だと思います。GITEXは世界中を巻き込んだパンデミック中でも中断することのなかった世界で唯一のテクノロジーイベントです。常に将来を見越し、クライアントのための新しい機会やパートナーシップを探し、彼らのための新しいテクノロジーアジェンダを見つけてきました。
その関係性とテクノロジーアジェンダのネットワークが、急速に拡大した要因だと考えています。

来場者は世界を見るためにドバイにやって来ます。ドバイを見るためにドバイに来ているのではありません。私たちはそこに焦点を合わせ続け、世界とコミュニケーションをとるよう努めています。それが市場が成長させ、どんな人にもビジネス機会が提供される場所になると確信しています。

○日本において「GITEX」の認知度は高いとは言えません。日本に対して今後どのようなアプローチをとっていく考えでしょうか?

ローミルマンド氏:私たちは常に日本を含むアジアのクライアントを探しています。しかし、アジアの一部では、言語や文化の違いからつながりづらいといった側面もあります。韓国や日本のテック企業にも積極的にアプローチをとっていきたいですが、一晩で成し遂げられる戦略ではありません。

しかし、ヨーロッパでの開催は、ドバイ開催時より多くの日本企業からの注目を集めるかもしれません。アフリカ、ヨーロッパ、ドバイのようなトライアングルハブがヨーロッパに集結すれば、より多くの日本企業がGITEXに注目し始めるでしょう。

初めて参加するドバイのビックイベントに圧倒された筆者。
ローミルマンド氏の言う通り、そこにはドバイではなく世界の技術が集結していた。2024年は5月にマラケシュで「GITEX AFRICA」が、10月にドバイで「GITEX 2024」が開催される。世界の最先端を覗いてみたい人は、かなり遠いが足を運んでみてもいいかもしれない。
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