すごい笛を買った。
カナダ製のFOX40『ソニックブラスト CMGホイッスル』、Amazonで2000円弱だった。

この笛、思い切り吹くと120デシベル超の音を出す能力を持っている。
○■破格の大音量が鳴り響く笛を、ネットで続け様に2個購入

120デシベルとは、電車走行時のガード下や、飛行機のエンジン近く、自動車のクラクションに匹敵する音量。
一般的な防犯アラームの音量は85~95デシベル程度というから、破格の爆音なのだ。

男子たるものいくつになっても、この類のオーバースペックアイテムを入手すると気分が高揚する。
ワクワクしながらパッケージから引っ張り出し、さっそく試し吹きしてみたところ、すぐに「あ、これはヤバいやつだ」と理解した。

耳をつんざくようなその音は、かなり遠くにいる人を振り向かせることもできそうな威力。

求めていた通りの爆音で満足だが、吹く場所や時間、シチュエーションを誤ったら、周囲の人から顰蹙(ひんしゅく)を買うのは間違いない。
一発の試し吹きでそう察したので、本番で使うときまでとりあえず封印しておくことにした。

さて。
そんな爆音ホイッスルなんて、一つありゃ十分だと思われるかもしれないが、僕はもう一個、同種の商品を追加購入してしまった。
FOX40を見つけるために使っていた検索エンジンが、“うちのダンナは今、バカでかい音の笛を求めている”と理解したようで、次々とモンスターホイッスルをレコメンドしてくるようになったからだ。
FOX40以上のパワフルなブツが存在することを知ってしまった僕は、居ても立ってもいられず、ついそちらもポチリ。

アメリカ製のSTORM『セイフティホイッスル』、Amazonで1300円だった。

普通の笛と比べるとだいぶサイズが大きく、いかにもやり手な感じがする。パッケージには「World's Loudest Whistle!」と、自信満々の謳い文句がプリントされていた。
こちらもさっそく試し吹きしてみたところ、案の定すさまじい。
何しろ、吹いている自分の耳がキーンとなってしまい、思わず手で塞ぎたくなるほどだったのだ。

スペック的にはFOX40と同じく「120デシベル」となっているが、両者を吹き比べてみると、音質や音の広がり方が違うのか、STORMの方がより迫力を感じた。

だけど当然こちらもやたらと吹き鳴らせる代物ではないので、とりあえず封印。

両ホイッスルともに汎用性の高いシンプルな道具なので用途は様々だが、FOX40はサッカーの審判がよく用い、STORMはアメリカの海軍特殊部隊や沿岸警備隊でも採用されているのだとか。
○■激増する野生グマの目撃例と襲撃被害。備えあれば憂いなし

僕がこれらの爆音ホイッスルを次々と買い求めた理由は、ズバリ“クマ対策”である。
ニュースで頻繁に取り上げられているのでご存知の通り、ここ数年で目撃例がどんどん増えていたクマが、今年は特に多数出没。
大きな問題となり、先日は環境大臣が異例の直接コメントを出して国民に注意を呼びかけた。

今年度のクマによる人身被害は、18道府県で少なくとも180件にのぼっていて(10月末まで、環境省による速報値)、過去最悪ペースなのだという。

野生グマと人間との接触が増えた理由については、今まさに専門家が頑張って調べているはずだから、素人がいたずらに憶測すべきではない。
山林の荒廃によって本来の生息域を追われ、人里に出没するようになったという従来より唱えられている説から、逆に近年の十分な自然保護施策によって山が豊かになり、棲みやすくなったため個体数が増加、山からはみ出すようにテリトリーを拡大しているという説もあるようだ。
いずれ客観的で正確な調査結果が示され、有効対策も立てられるだろうが、理由がはっきりしない今のところは、個人レベルでできるだけ警戒し、備えなければならない。

とはいえ、日本人の大半は“クマ対策”なんて大袈裟なことと思っているはずだ。
いくら目撃例や被害が増えているといっても、その数は交通事故なんかと比べると桁違いの少なさ。
町で普通に暮らしていれば、まず出会うことはないし、ましてや襲われるなんて…と考えるのが普通だ。
ニュースに踊らされて慌てて笛を買うなんて、間抜けなやつだと思われても仕方がない。

でも僕の場合、切実な事情があり、大まじめに対策しているのだ。
というのも、僕は普段メインで暮らしている東京の家のほか、山梨県・山中湖村の“山の家”で過ごすことも多いデュアルライフ(二拠点生活)民だからだ。

我が“山の家”は山奥のポツンと一軒家ではないが、山との境界線はすぐそこ。ほんの5分も歩けば人家が途絶え、野生動物が闊歩する領域が広がっている。

クマとともに近年著しい増加が指摘されているシカは、いつもその辺を悠々と歩いているような土地である。

山梨県が集計している情報を見ると、我が“山の家”近くでも、今年に入ってからたびたびクマが目撃されている。
だから朝夕の静かな時間帯に犬の散歩をしているときなどは特に、近くの木陰からのそりと現れるんじゃないかと、少なからずドキドキしているのだ。

それに僕は最近、自力カスタムした軽バンでの車中泊一人旅を趣味としている。
山深い道を非力な車でトコトコ走り、森閑としたオートキャンプ場で車中泊したりしていると、「今クマが出たらどうしよう」と心配になる。

本当にツキノワグマに遭遇してしまったこともある。
昨夏、下北半島の山深い道を走っていた夜のことだった。先行車も後続車もなく、すれ違う車もほとんどない状況で、旧カーブを曲がった先の道の真ん中に、ヤツがドンと座っていた。
僕の車のライトに照らされて驚いたのか、そいつはすぐに道の脇の藪に走り去ったが、「いやあ、本当にいるんだなあ」としばらくドキドキが止まらなかった。

あと、僕は渓流釣りの趣味もあるし、ミネラルハンティング(鉱物採集)も近々始めてみたいと思って準備をしている。
そうした生活や趣味のため、クマとの不幸な接近遭遇もまったくあり得ると、真剣に心配しているのである。

○■さらに追加購入したクマよけグッズは、昭和レトロなおもちゃの◯◯◯◯

今回買った爆音ホイッスルは、クマよけといっても、今まさに襲撃してこようとするクマを追い払えるような力はなく、遭遇前にこちらの接近をお知らせするためのものだ。
自然の中を歩いていると、「あ、ここは出るかも」「なんか危ないな」と感じる場所があるものだが、そういうところで思い切り吹き鳴らし、こちらの存在をアピール。
クマさんには能動的に退去していただくという目的のものだ。

だが、歩行中に四六時中吹き続けるわけにはいかないので、ホイッスルとは別に、常時音が鳴るものも必要だ。
登山をする人は、クマよけベルをカバンや服につけ、常時カランカランと鳴らしている。
それでもいいのだが、僕はラジオを鳴らしながら歩こうと思っている。
普段から愛用しているトランジスタラジオ、ZHIWHIS『ZWS-700』は、コンパクトながらボリュームをかなり大きくできるので、クマよけにはうってつけだろう。

しかしこれだけで大丈夫かな? 
と思った心配性の僕はさらにもう一つ、クマよけグッズを買った。
8連のキャップ型火薬を使う、玩具ピストルである。
子供の頃によく遊んだ懐かしきこの昭和レトロおもちゃは、弾は出ず音が鳴るだけだが、最近は害獣対策の“音追いピストル”として、ネットやホームセンターで販売されているのだ。

やはり獣よけ用途でよく使われる爆竹と比べたらずっと可愛い音だけど、クマは破裂音や火薬の匂いを嫌うので、おもちゃと言えどもそれなりの効果があるらしい。
ホイッスルやラジオでのアピールも虚しく、互いの姿が見えるくらいまで接近してしまったら、おもむろに出して威嚇発砲しようと思っている。

それでも最悪の状況になり、いよいよ襲われそうになったら、最終的に有効なのはクマ撃退スプレーくらいしかないらしいが、今のところそこまでの準備はしていない。
今後、さらにクマ禍が深刻化していくようなら、スプレーも考えなければならないだろう。

北海道に生息するヒグマと比べると、本州のツキノワグマはずっと小型で、もし襲われても致命傷に至る可能性はそこまで高くない。
でもやつらが厄介なのは、一撃で大きなダメージを喰らわせようと、顔面や頭を中心に攻撃してくることだ。
実際、顔中ズタズタにされたり失明させられたりした例、また運悪く頸動脈を傷つけられて死亡した例もあるそうで、本当に勘弁してほしい。

フルフェイスのヘルメットをかぶり、首からホイッスルとラジオ、ポケットには火薬ピストルと爆竹、右のベルトにクマ撃退スプレー、左のベルトにはナタでも差しておけば万全だろうけど、そんな格好で近所を散歩したら色んな意味で危ない人なので、とりあえずラジオとホイッスル、おもちゃピストルで軽武装するのだ。 

文・写真/佐藤誠二朗

佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。2023年11月15日に新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売予定。 この著者の記事一覧はこちら