なぜLMが日本に?
日本では新型車として2023年10月にデビューしたレクサス「LM」だが、実は、世界的に見ると同モデルは2代目にあたる。初代LMは2019年4月の「上海モーターショー」に登場し、中国やアジアで販売されてきた。
これらの地域に行ったことのある人は知っているかもしれないが、現地ではトヨタ自動車のミニバン「アルファード/ヴェルファイア」(アルヴェル)の人気が絶大で、さらに上級な車種を望む人も少なからずいた。そこでレクサスは、先代アルヴェルをベースに初代LMを開発した。
現行型LMも初公開の場は上海モーターショーであり、中国やアジアがメインマーケットであることに変わりはない。プラットフォームを現行のアルヴェルと共用している点も同じだ。
それでは、なぜ今回は日本でも販売することにしたのか。
日本では近年、政治家や芸能人などが、アルヴェルを運転手付きで使うケースが増えている。特に東京都内では、非常に多く見かけるシーンだ。レクサスとしては、我が国にも(ミニバンの)さらなる上を望むユーザーがそれなりにいると判断したのかもしれない。
プレミアムブランドらしい格調の高さ
レクサスでは、ブランドのフラッグシップとなるラグジュアリークラスの車名に「L」を使ってきた。
実車に対面してまず感じたのは、大きなグリルと薄いヘッドランプの組み合わせがうまいということ。アルヴェルよりスムーズに処理してあるし、主張は控えめで、プレミアムブランドならではの格調の高さが伝わってくる。
ただしこれは、取材車のボディカラーが「ソニックチタニウム」と呼ばれるシルバー系だったためもある。ブラック系やレッド系を選ぶと、グリル内のシルバーのアクセントが主張してくるので、違う印象になるかもしれない。
ボディサイドはウィンドー下端のラインを水平基調とすることで落ち着きを出しつつ、下のパネルはキャラクターラインを入れてダイナミックさも表現している。アルヴェルとは明確に違うし、サイドウィンドー後端の処理はSUVの「RX」に近いなど、他のレクサスとの統一感も伝わってくる。
上下に薄く左右をつなげたリアコンビランプは近年のトレンドだ。そこに「LEXUS」のロゴを並べている。リアウィンドーがミニバンとしては傾いていることにも気がついた。ここからも他のレクサスとのつながりを感じるし、翼型のコンビランプで存在感をアピールしたアルヴェルよりシックで上品に思える。
中国やアジアでも、アルヴェルは「存在感の強さ」が評価されているという。LMはそれとは異なる方向性だ。レクサスブランドとしての統一感をしっかりと感じ取ることができた。
運転席まわりは仕事場っぽい?
LMは言うまでもなく後席が特等席だが、そのあたりは別稿でお伝えするとして、本稿では前席について詳細に見ていきたい。
まずインパネまわりについて書くと、メーターとセンターディスプレイは一体化しており、ミニバンとしてはそれらが高い位置にあることに気づく。やはり高めにセットされた幅広いセンターコンソールとともに、ミニバンというよりもSUVっぽい雰囲気となっている。
メーターとセンターディスプレイを黒くて四角いボックスに収めたような仕立ては、オフィスっぽくもある。オーナーは後席にいて、ショーファーが仕事として運転するという、このクルマのキャラクターが伝わってくる。
仕立ては2,000万円という価格からすると、すっきりしている。でも、ゴテゴテした装飾がないからこそ、仕立ての良さがストレートに伝わってくるし、ブロンズカラーのアクセントが絶妙に効いている。ゴールドやシルバーではなく、この色を選んだ見識に感心した。
4人乗り仕様は前席と後席空間との間にパーテーションがある。
ここまで見てきた限りでは、アルヴェルとの差別化は明確で、多くの人がレクサスブランドのミニバンと認識するのではないかと思った。
日本で販売しなかった先代LMは、グリルやリアコンビランプをレクサス風にモディファイした以外は先代アルヴェルそのままで、インパネも基本的に共通だった。さらに高級なアルヴェルが欲しいという要求にはそれで良かったのかもしれないが、新型は欧州などでも展開することになっている。それを考えればここまでの差別化は必須だっただろうし、その目的は十分以上に達成されていると感じた。
森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら