●オブラートに包まれていたものが剥がされていく
WOWOWで7月7日から放送&配信スタートする『連続ドラマW 完全無罪』(毎週日曜 22:00~ WOWOWプライム/WOWOWオンデマンド 全5話 ※第1話は無料放送。WOWOWオンデマンドでは、第1話終了後に全5話を一挙配信)。


作家・大門剛明による、慟哭の冤罪同名ミステリー小説(講談社文庫)を原作に、『星の子』や『MOTHER マザー』(ともに2020年公開作品)の大森立嗣監督が、広瀬アリス主演で連続ドラマ化した本作。21年前の少女誘拐事件の冤罪再審裁判の担当に抜てきされた弁護士・松岡千紗(広瀬)が、自らもその事件で監禁された被害者の1人であるという境遇を抱えながらも、自身を殺めたかもしれない容疑者・平山(北村有起哉)と対峙する。

再審裁判を中心に真相究明への切実な探究心を持つ、彼女にしかできない弁護を展開していく。事件の真相に迫る本格ヒューマンミステリーとなっている。千紗を演じた広瀬と、千紗の相棒を務める同郷の弁護士・熊弘樹を演じた風間俊介に、本作の見どころや、撮影の舞台裏について語ってもらった。

――超豪華キャストによる重厚なミステリー作品となりますが、撮影現場はどのような状況だったのでしょうか?

風間:千紗は、名優たちとのトーナメント方式のタッグマッチみたいだったよね。

広瀬:あれはすごかった。しかも、クランクインしてからわずか1週間のうちに、私にとってめちゃくちゃ重たいシーンの撮影が、全部一気にやって来たんですよ(笑)! 1話のラストの平山との接見室のシーンなんて、撮影が始まって3日目でしたからね。北村有起哉さんと「初めまして」の状態で真正面から向き合ったかと思えば、その2日後には、当時の事件を担当していた元刑事である奥田(瑛二)さんとも向き合って。そして、さらにその部下だった音尾(琢真)さんまで現れて……。毎日毎日、「カロリー高いな~」って(笑)、心が高揚してました。

風間:俳優としての、5年分くらいのカロリーがあったんじゃない(笑)?

広瀬:まさに(笑)。
それくらいの密度で、最初の1週間を過ごしました。専門用語ばかりが並ぶ漢字だらけの台本にもかかわらず、大森監督は基本的にワンシーンワンカットの一連で撮ることが多いので、一瞬たりとも気が抜けないし、セリフも絶対噛めないですし……クランクインのかなり前から台本を読み続けていたのですが、言いなれないセリフばかりでなかなかしっくりこなくて……自分の身体の中にセリフを落とし込むまで、すごく時間がかかった気がします。

風間:僕が演じる熊は、タッグマッチが繰り広げられているところに、「何の話?」みたいな感じで時々フラッとやって来てくれる。 「こ、これは……! 広瀬アリスが、いまものすごいことをやってるぞ!」って思いながら見守ってました。

――先程話題になった接見室のシーンでは、千紗自身、自らの過去を全部吐き出すことで、平山の信頼を得るところもありますね。

広瀬:そうですね。言葉にしながら、自分の頭の中で整理している感覚がすごくありました。回想シーンはそれまでも出てくるんですが、千紗が自分自身で話すのは、その場面が初めてなので。自分でもどうしていいかわからない感情が湧いてきて。まわりの音が全く聞こえなくなった上に、すぐ近くにあったカメラさえ見えなくなって。本当に平山さんと2人だけで向き合えた瞬間で、カットがかかった後、すごく頭がジンジンしてました。北村さんの"分からなさ"も奥田さんの"説得力"もすごすぎて、毎話、「どっちが言ってることが正しいんだろう……」って。
信じるという気持ちが激しく揺さぶられてしまうんです。

風間:これはあくまでも個人的意見なんですが、「信じる」って言葉はすごく健やかだから、思わずそこにすがりつきたくなってしまうけど、見方を変えると、信じることって実は思考停止している瞬間でもある気が僕自身はするんですよね。千紗が、真実と向き合おうとすればするほど、いったい何が本当なのかわからなくなっていく。その様子がつぶさに描かれているのがこのドラマのリアルで怖いところであり、オブラートに包まれていたものが剥がされていくのがこのドラマの魅力でもあるんですが、千紗のようにわざわざ自分の心のかさぶたを剥がして、そこに泥を塗り込むようなことは、僕にはできない気がします。

広瀬:私も無理です。誰よりも諦めが早い人間なので。絶対にあそこまで向き合えない。

風間:そもそも人間って、自分の信念みたいなものと本気で真っ向から向き合うと、心身共に壊れてしまうから、それをやったらダメなはずなんですよ。きっと千紗自身もそれまでは適度に自分をいなしながら生きてきたんだと思うんですけど、平山の弁護を担当することになったことで、「さすがにもう逃げられない」ってところまで来て、腹を括って正面から受け止めることになる。それこそ「誰かを信じる」というより、「信じる」と決めた自分自身を裏切らないように生きていくことでもあるからめちゃくちゃシンドイことですし、アスリートなら筋肉痛になったり筋断裂したりするくらい千紗は満身創痍だったはず。

広瀬:たしかに心はズタズタでしたね。

風間:だからこそ、千紗はとてつもない輝きを放つとも言えるわけだけど。
演じる広瀬さん自身、あの状況でメンタルが削られていないわけがない。これはちょっと意地悪な言い方に聞こえるかもしれないけど、それも"本当"かもしれないし、きっと全部が"本当の広瀬アリス"だとは思うんだけど、撮影の前後やメイク中なんかは本来、千紗みたいなヘビーな役を演じているときは、「現場で一言も喋らない役者」でいても全然OKなはずなのに、どんなときでも広瀬さんは自分から率先して周りに声をかけていて……まさに「みんながいてほしい広瀬アリス」がそこにいるんですよね。「すげぇ人だな」と思って見てましたね。

ロマンスのかけらもない


――広瀬さんから見た風間さんはいかがでしたか?

広瀬:風間さんとは、以前パラリンピックのお仕事で何度かご一緒したことがあったので、「熊役は風間さんです」って聞いて、とてもしっくりきたんです。熊さんと風間さんのキャラがリンクしてるというか、風間さん自身すごく話しやすくて、安心感があって。私の体調面とかもいろいろ気に掛けてくれるし、親戚のお兄ちゃんみたいな感じなんです。

風間:いやいや、僕の立場からすると、全然親戚なんかじゃないんですよ! なのに、熊と千紗のあいだには、ロマンスのかけらもないっていうのが、またね……(苦笑)。

広瀬:お芝居をしていると「気持ちがいい間」みたいなものってそれぞれあるとは思うんですけど、今回、北村さんをはじめ、奥田さんや音尾さんを相手に千紗が"戦う"場面では、「あえてそのリズムを崩すことで自分を追い込みたい」という変なモードに入っていたんです。でも、熊さんと一緒にいるシーンだけは、リズムを合わせられるし、千紗の心の中の重いものがフッと軽くなる瞬間でもあったので、私にとってはものすごく心地がよくて。

風間:僕個人としては、広瀬さんが、この作品が持っている暗い部分や辛い物語を慈しめるところも、明るさと表裏一体にある魅力だと感じていたので、今回の現場で"陰と陽"の広瀬アリスを同時に見ることができたことも、僕にとってはすごく贅沢で幸せな時間でした。ただ、ある時、控室のドアが半分開いているのに、僕のことなど全く気にせず広瀬さんが着替えようとしたことがあって……きっとそれも親戚みたいだからなんでしょうね。

広瀬:風間さんって、一緒に居てもまったく違和感がないんです。


風間:ロマンスって、その違和感から生まれるものなのに、風間俊介には違和感がない。シームレス!

広瀬:まさに、それ(笑)!

風間:それで喜んでるようじゃダメなんだけど、でも、それも含めて僕なんですよ(笑)。そういえば、香川で僕らが宿泊していたホテルにスーパー銭湯が併設されていて、「ご宿泊の方は無料でご利用いただけます」ってアナウンスがあって。さすがに僕は行かなかったんですが、広瀬さんは入りに行ったっていうんですよ! 広瀬アリスが地元のスーパー銭湯に普通に現れたら、さすがにビックリしますよね? 衝撃で、香川が揺れたらしいですから。

広瀬:アハハ(笑)! あそこの足つぼマッサージのお姉さん、めちゃくちゃ腕が良かった!

風間:これですよ! 広瀬アリスが人々に愛される理由は。このエピソードにすべて詰まってる(笑)。

――(笑)。お二人とも「大森組」に参加されるのは今回初めてですが、大森監督の演出はいかがでした?

広瀬:大森さんに「いまのだとお芝居になっちゃってるから、もっと力を抜いてやって」って言われて、最初は「えっ!?」と思ってかなり混乱していたんです。でも実際に力の抜けている状態の北村さんを見て、「あ、こんな感じか!」って学ばせていただきました。

風間:右に同じく(笑)。熊としては、キツく結ばれた物語の紐を緩める"コメディリリーフ"的な役割を果たせたら……みたいな下心が僕のなかにはあったんですが、「あ、大丈夫。そういうのはいらないから」って、大森さんにはかなり早い段階で見抜かれて(笑)。


広瀬:自分で観ていてよく分かるんですが、その場で私たちが体感していたリアルな緊張感が画面越しにも伝わってくるんです。そういうのが大事なんだって気づかされました。

風間:実際に会話してるときは、次に誰が喋り出すのかなんて本当はわからないもんね。

広瀬:そうそう。咄嗟に言葉が出なくて少し間があいたりするのも、逆にすごくリアルだし。役者同士の駆け引きや息遣いまで、そのまま本編に乗ってる感じも私は好きですね。

風間:「たまたま居合わせた人」のような視点で観られるドラマになっていて驚きました。

―——最後に、ドラマを楽しみにしている方々にメッセージを!

広瀬:「何が真実で、何が正義なのか」ということより、「信じるとは、どういうことなのか」というところに行きついたことが、自分にとってはものすごく大きくて。観終わった後、「果たして本当にこれで幸せだったのかな……」ってしばらく余韻に浸ってしまいました。皆さんの心のなかにもそんな余韻が少しでも生まれたら、挑戦した甲斐があります。決して明るい話ではないですが、各話ごとにめいっぱい心を揺さぶられてほしいです。

風間:いろんな意味で、すごく「面白い作品」に仕上がっているんじゃないかと思います。
それこそ「何も考えずに気楽に楽しめる」という意味での「ライトで面白い作品」は、世の中にたくさんあって。もちろんそれも僕は大好きなんですが、今回の『完全無罪』の場合は、思わず低い声で「面白い……」と唸ってしまうような、そんな作品になっていますので、ぜひとも楽しみにしていて下さい!
編集部おすすめ