「7月5日大災害説」はなぜここまで拡散されたのか? 月刊「ムー」編集長が分析する“異様な盛り上がり”の正体
「7月5日大災害説」はなぜここまで拡散されたのか? 月刊「ムー」編集長が分析する“異様な盛り上がり”の正体

7月5日に大災害が起きる――。そんな予言の日が近づくにつれて、雑誌やウェブメディア、テレビでも大きく取り上げられるようになっている。

なぜ、騒がれるようになったのか。その真相に迫る。 

『私が見た未来』には何が描いてある?

「7月5日大災害説」の発端は、1999年に発売されたたつき諒氏の『私が見た未来』(朝日ソノラマ)というマンガである。

同作の表紙の絵に「大災害は2011年3月」との文言があったことで、「東日本大震災を的中させた」としてインターネット上で話題となった。

2021年10月2日には、本人による夢日記などの解説が加筆された復刻・改訂版『私が見た未来 完全版』(飛鳥新社)が発売され、現在までに100万部を突破している(出版社調べ)。

そんな『私が見た未来 完全版』には、たつき氏が「2025年7月に日本を襲う大津波」の夢を見たことが記されている。「日本とフィリピンの中間あたりの海底がボコンと破裂(噴火)」「太平洋周辺の国に大津波が押し寄せました」との表現があり、帯には「夢を見た日:2021年7月5日 4:18 AM」と書かれている。

なぜ、「7月5日大災害説」はここまで流布され、拡散されていったのか? その背景を、スーパーミステリー・マガジン「ムー」(ワン・パブリッシング)の三上丈晴編集長に聞いた。

大災害よりも恐ろしい「なりすまし」

「同作にはさまざまな予知夢が描かれていますが、20年ぶりに復刻版が出されることになったきっかけは、『2021年8月の富士山の噴火』を予言していたからです。表紙に『大災害は2011年3月』という文言と、富士山噴火のイラストが描かれていたことで、同作はインターネット上で大きな話題を呼びました。ただ、実際の本には富士山噴火については触れられていません」

2011年から『私が見た未来』が話題を集めるようになると、「不思議探偵社.」というオカルトブログに「たつき諒」が登場。Twitter(現・X)のアカウントを開設して「2021年8月の富士山噴火」など新たな予言を発信するようになった。

そして2021年7月17日には、「8月に富士山が噴火する」というSNS上の盛り上がりに合わせて、飛鳥新社から『私が見た未来 完全版』が発行される予定だった。

「ところが、同社が出版契約を締結しようとしている中、別の“たつき諒”氏から電話がかかってきたそうです。

本人はその時すでに60代後半で、年齢的にもネットの世界には関わっていませんでした。そんな中、姉から『復刻本を出すんだね』と言われ、疑問に思ったたつき氏本人が問い合わせたことで、『なりすまし』の存在が発覚したのです」

慌てた飛鳥新社は、発売直前の6月25日に本の発売延期と偽アカウントを発表。「たつき諒」を名乗っていたアカウントは削除され、予定より3カ月ほど遅れてたつき氏本人による解説が加筆された『私が見た未来 完全版』が発売されるに至った。

そして、その完全版に新たに加筆されたのが、「7月5日大災害説」である。

「99年に朝日ソノラマから出版された『私が見た未来』は、霊感のあるたつき氏が見た“予知夢”が描かれており、作中では津波が襲ってくるシーンが含まれています。そのため、世間では『この津波は東日本大震災を指している』と解釈されていました。

ところが、2021年の完全版では、たつき氏が『夢の中でみんな夏服を着ていたため、東日本大震災ではない』といったことを記しています。そこから、『災難が起こるのは2025年7月』という説が新たに広まったのです」

PV数目当ての自称・霊能者たち

こうして「平成の予言書」にたつき氏本人による新たな予言が書き加えられたことで、ネットを中心に「7月5日大災害説」は盛り上がりを見せるようになる。

「2021年10月からの4年間、いわば“カウントダウン”が始まったわけですが、1999年の『ノストラダムスの大予言』や、マヤ文明の『2012年人類滅亡説』のように、日付を区切った予言は人々の関心を集めやすいのです。さらに、こうした終末論には“13年周期説”があり、1999年、2012年、そして2025年というリズムが存在します」

『私が見た未来 完全版』では7月5日に地震と津波が発生すると記されているが、それだけではなく「7月5日大災害説」を紹介しているYouTubeの動画やSNS、ブログなどでは、地球に小惑星が衝突して壊滅的な被害が出るという「隕石説」や、富士山の噴火によって首都圏が崩壊するという「大噴火説」まで、実に多くの説が飛び交っている。

「『私が見た未来 完全版』が発売される前後で、たつき氏のほかにも7月5日に関する様々な説をとなえる人たちが出てきました。例えば、隕石が落ちるという説は、ノートルダム清心女子大学名誉教授・保江邦夫氏が、2人の人物から別々に聞いた説がもとになっています。

また、7月5日はアメリカ時間で言うところの7月4日、独立記念日にあたります。実はこれについても、アメリカと中国が手を組み、人工衛星をフィリピン海域に落として津波を発生させ、フィリピン・台湾・日本が被害を受けている最中に台湾へ侵攻するのでは、などというトンデモ話まで、まことしやかに囁かれているのです」

このように、これまで個人が語っていた予言や証言が、たつき氏の予知夢をきっかけに結びつけられるようになり、「7月5日大災害説」は肥大化していった。

「インターネット上には、霊能者や占い師を名乗る人たちも多数存在しており、『私が見た未来』をきっかけにさまざまな話が出てきましたが、正直なところ『後付け』で語っている印象が強いです。それでも、『7月5日大災害説』は再生回数やPV数を稼げるため、多くの人がこぞって取り上げたのです」

こうして多くのメディアで取り上げられるようになった「7月5日大災害説」。もちろん、「ムー」でも何度も取り上げられている。

ただ、「総力特集 最終警告‼ 2025年7月 日本壊滅の大災難予言‼」と銘打たれた「ムー」の最新号では、7月9日発売の次号予告が掲載されている……。編集部としては、7月5日には「何も起きない」と見込んでいるのだろうか?

「7月4日から6日まで連日、イベントに参加して、翌週には振替休日を取得する予定です。当然のことですが、霊能者たちもみんながみんな、7月5日に何かが起きるとは言っておらず、『何も起きない』と予言する者もいます。この世に『確実に当たる予言』というものは存在しないのです」

くれぐれも、誤った情報に振り回されず、冷静に日常生活を送ってほしい。7月5日はきっと、その日、誕生日を迎える大谷翔平のニュースで埋め尽くされて終わるはずだ。

PROFILE 三上丈晴(みかみ たけはる)●1968年生まれ、青森県弘前市出身。 筑波大学自然学類卒業。

1991年、学習研究社(学研)入社。『歴史群像』編集部に配属されたのち、入社半年目から「ムー」編集部。2005年に5代目編集長就任。2021年6月24日より、福島市の「国際未確認飛行物体研究所」所長を務める。UFOはじめ超常現象についてのご意見番としてメディア出演多数。著書に『オカルト編集王 月刊ムー編集長のあやしい仕事術』(Gakken)。趣味は翡翠採集と家庭菜園。

取材・文/千駄木雄大

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