コンテンツが王様である理由
なぜコンテンツが重要なのか、そこには2つの理由があります。それは、コンテンツがマーケティング活動の中心であることと、マーケティング組織の存在意義についてです。以下、詳しく説明していきます。
海外ではマーケティング活動、すなわちアクティビティのことを「Vehicle(車両)」ともいいます。メッセージをコンテンツとして、車のようにターゲットのペルソナにお届けすることに由来しています。要するに、ターゲティング、メッセージングが出発地点であり、それが決まって初めて広報・宣伝を含むアクティビティを設計する必要があるということです。実際に筆者が以前勤めていた外資のIT企業では、キャンペーンプランに、ターゲット、メッセージ、コンテンツのプラン、そしてアクティビティの順序で記載されていました。
国内のマーケティングの活動を見ていると、PR、イベント、セミナー、デジタル広告などのアクティビティに集中している例が多いです。先日、とある大手広告代理店の提案を受けましたが、いまだに広報・宣伝の支援が中心であり、古臭いと少し衝撃を受けてしまいました。
もう一つ重要なことがあります。それは、アクティビティはかなりの部分を広告代理店に外注できる、ということです。マーケティング部門の人が広告代理店と同じ仕事をしていると、「君は不要だね」となりかねないです。さらに、生成AIが発達してくると、このあたりの自動化も進みます。筆者が今勤めている会社では、製品開発から広告展開までを自動化できないか研究をしています。
なんといっても事業会社の醍醐味は、コンテンツを作ること、作成を企画することであり、それが存在価値にもなります。ある外資企業では、コンテンツマーケティングのチームが本社におり、キャンペーンのテーマと連動させたコンテンツを内製と外注で作っていたこともあります。
コンテンツが多く作成できれば、Webサイトでストック型のマーケティングも実施できます。ある外資企業での経験で、年間100個くらいのコンテンツを根性で作ったことがあります。そうするとSEOやデジタル広告でWebトラフィックが倍近く増え、問い合わせ件数からの案件作成が進捗しました。
コンテンツの作成方法
コンテンツを作成する際に、まずは、実施するマーケティングキャンペーンのテーマを決める必要があります。ターゲットのペルソナは誰で、そのペルソナはどのような課題と達成すべきKPIを持っているかを仮定します。そして、その課題やKPIに響くようなテーマを決めます。
できれば、そのテーマはペルソナが所属している業界のトレンドにするのがよいです。トレンドは興味を持ってもらえる可能性が高いからです。例えば製造業であれば「サステナビリティ」「後継者不足」「サイバーセキュリティ」などが考えられます
次に、そのキャンペーンの心理的な購買プロセスを考えます。マーケティング活動は心理戦です。認知されていない状態から認知へ、認知から興味へ、興味から欲求へと、ペルソナの心理状態を変化させる必要があります。ですから、その心理的な購買プロセスで、どのステージでのキャンペーンかを意識します。
認知されていない状態から認知への移行は、かなり難しいです。人間は興味がないと簡単に無視をします。
それは、世界のトレンドなど知らないことをセミナーやホワイトペーパーで教えてあげることかと思います。海外ではこのステージの活動を「Thought Leadership」と呼び、リーダーの心に響くようなコンテンツを作り上げます(実際はその世界でのリーダーシップを訴求)。
市場調査を実施して、それをコンテンツにするのもよいかと思います。事例セミナーなんかもいいですね。認知から興味へは、顧客事例をうまく使いながら、どのように問題解決ができるかをイメージしてもらうことかと思います。興味から欲求へは、ROIの調査や実顧客での結果などを紹介するコテンツもいいかもしれません。想像力をはたらかせてください。
コンテンツの種類は、以下のようにさまざまあります。
・ホワイトペーパー
・eBook
・製品カタログ
・事例カタログ
・調査レポート
・インフォグラフィック
・デモビデオ
・事例ビデオ
・OnDemand Webinarの録画
・Blog
・プレスリリース
日本人はスライドを綺麗にしたeBookを好むように思えます。欧米は文字を読む文化があるのでホワイトペーパーが好まれます。
筆者の定番は、まずはWebinarやセミナーで内容を固めます。スライドのノート欄も作るといいです。そして、それを実施した後は、録画してOnDemand Webinarのコンテンツを作成します。さらにスライドを綺麗に編集して、eBookを作ります。こうすることで、3種類のコンテンツを作成できます。また、市場調査を実施して、その結果をプレスリリース、ホワイトペーパー、インフォグラフィック、そしてセミナーへと展開する場合もあります。
自社ではコンテンツを作る能力がない場合も多いと思います。コンテンツを外注する場合でも、上記のことをよく練ってから発注する必要があります。みなさんも王様を大事にしてください。ただし、将来、王様は生成AIになるかもしれません。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら