すでに何回か扱った東プレのREALFORCE RC1だが、結局、3Dプリンタを導入して、キートップを自作することにした(写真01)。これまでの記事でも解説したが、筆者は、文字入力に親指シフトを使うとともに、変換操作を、スペースキー、変換キーに集中させて、高速に入力する方法を使う。
筆者の入力方法や親指シフト入力では、左右の親指でそれぞれ単一キーのみを使う。親指シフトでは、これを「親指シフトキー」と呼ぶ。左右の親指は、常に左右の親指シフトキーの上にあり、他のキーを押すためには使わない。このため、キーボードのホームポジションに手を置いたときに、自然と親指が置かれる場所に親指キーがなければならない。
具体的にいうと、最下段でFキーの縦の中心線よりも右側にスペースキーが、同じく最下段でJキーの中心線よりも左側に変換キーが存在している必要がある。
これを実現しているのが、かつて富士通が販売していた「親指シフトキーボード」であり、最近のものでは、REALFORCE R3HI17(R3 セパレートスペースキーモデル。過去記事参照。写真02)である。また、一部機種、たとえば、LenovoのThinkPad X1(写真03)シリーズや、LogicoolのK380(写真04)などが、この条件を満たす。
残念ながら、REALFORCE R3HC22やRC1(C1HJ13)は、変換キーの位置がJキーよりも右にあり、条件を満たさない。これまでは、キーの入れ替えや、HHKB用のカラーキートップセットを使って、キーを切断するなどして対応してきた(窓辺の小石(61)「かしだし」REALFORCEを改造)。
RC1への対応に当たって、3Dプリンタを導入して、キートップを自作することにした。
東プレが発売している「カラーキーキャップセット」を購入して改良した方が、コストも低く、おそらく作業時間も短い。
マーケッティングで著名な格言に「顧客はドリルが欲しいのではなく穴を開けたいのだ」という主張がある。しかし「オタクは、ドリルを所有し楽しみたいからドリルが欲しい」のである。やれ、「タイパ」や「コスパ」だと、結果を安易に求めても、何も面白くない。もちろん、目的は、親指シフトキーを実現することだが、その過程も楽しみたい。それが趣味である。そういうわけで、3Dプリンタを導入することにした。
さて、3Dプリンタを使う場合、手順としては
0. 3Dプリンタを購入して設置する
1. 形状定義に必要なパラメーターを測定などで得る
2. 3D CADソフトで形状を定義する
3. 完成した形状をSTLなどの共通フォーマットでエクスポート
4. 3Dプリンタの制御ソフト(スライサー。写真05)でインポート
5. 制御ソフトのパラメーター設定(基本的はデフォルトでOK)
6. 3Dプリンタでの造形(写真06)
となる。
購入した3Dプリンタは、Bambu LabのA1 miniという機種。知り合いに聞いたところ、評判が良かったので、これを選んだ。少なくとも、キートップ作成という作業では特に問題は生じていない。
使い始めるのに難しいことはないが、プリントを開始する前にフィラメントのロードを行っておく必要がある。常識なのかもしれないが、手順としてドキュメントなどに記載がなかった。フィラメントを押し込みながら、プリンタ本体の液晶パネルにある「フィラメント」から「ロード」を選択して、フィラメントのロードを行わせる。ちゃんとフィラメントが出てくればOKである。
キートップを作るので、実物をノギスなどで測定して必要な寸法を出す。これは、ドローソフト(Libre OfficeのDraw)にキートップの写真を貼り付け、寸法線を入れて記録した(写真07)。
3D CADソフトは、いくつかあるが、3Dプリンタを利用している知人の意見を聞き、AutodeskのFusion(写真08。旧Fusion 365)を選択した。制限はあるものの、個人利用の場合には、無料で利用できる。今回、キートップの作成に使った範囲では、制限が問題になることはなかった。
ただ、始めて使うアプリケーションなので、慣れるまでに半日ぐらいかかり、最初の造形にたどり着くまでほぼ2日を使った。その後、微調整などを行うベストな方法を見いだすのにさらに1日、3日後には、パラメーターを変更しつつ、複数の造形を行うことができた。
数値で設計するとはいえ、「実物合わせ」的なところもある。東プレの静電容量キーボードのキートップは、背面にピンが出ている。このピンは円柱を2つに割った形状をしているのだが、その角度をキートップ裏から見て、垂直にしたが、実際に装着してみるとなぜか真っ直ぐにならない。このため、-2度角度を付けることになった。次回は、このあたりを含め、3D CADアプリ(Fusion)を概観したい。
今回のタイトルネタは、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.の「The Only Neat Things to Do」(邦題 たったひとつの冴えたやりかた)である。この作品米国でも評価は低くない(1986年にローカス賞を受賞している)が、日本の方が人気が高いのは、そのストーリーゆえか。
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