Uber Japanと日本郵便、石川県加賀市は、国土交通省の「ドライバーシェア推進協議会」の方針に沿い、ライドシェアドライバーによる貨客混載の実証事業をこの3月から開始する。

本取り組みを通じて、ライドシェアドライバーは待機時間中に「ゆうパック」を配達できるようになり、収入増加と稼働効率の向上が期待される。


2月27日には記者発表会が開催され、Uber Japan代表の山中志郎氏、日本郵便執行役員の指宿一郎氏、加賀市長の宮元陸氏らが登壇。日本初となる本取り組みの実施背景や詳細について説明した。
○貨客混載の3つの利点

昨年3月、加賀市は北陸新幹線の敦賀延伸や訪日外国人観光客の増加に伴う二次交通の不足に対して交通自家用有償旅客運送の制度を活用。Uberアプリを配車に活用した公共ライドシェア「加賀市版ライドシェア」を開始した。

一般社団法人加賀市観光交流機構が実施主体となる「加賀市版ライドシェア」は、タクシー会社「加賀第一交通」に運行管理を委託。現在、7時~19時までの間は加賀温泉駅など市内の主な観光地を運行するほか、19時~23時(金・土は19時~翌2時)までの間は市内全域を運行している。

利用者や飲食店、観光業界からの要望を受けて、この2月7日に運行時間を延長。運行エリアも加賀市内発着に限って市外(小松市の一部)へと拡大され、運賃はタクシーの8割の運賃で運行されている。

「加賀市版ライドシェア」は現在、15名の2種免許の取得者も含む35名のドライバーが登録されており、地元住民や観光客向けに周知が進められた結果、配車件数が順調に増加。一方で平日の昼間など、観光客が少ない時間帯や季節による需要の変動により、ドライバーの待機時間が発生する課題があった。

Uber Japan、日本郵便、加賀市の3者によって実施される今回の貨客混載実証事業は、日本郵便が「加賀市版ライドシェア」のドライバーにゆうパックの配達を委託。乗客とのマッチングを待つ時間を有効活用したいドライバーが、その待機時間を活用して配達を行うと、日本郵便から配達委託手数料がドライバーに支払われる仕組みだ。


本実証事業についてUber Japan代表の山中志郎氏からは、「ドライバーの収益向上」「ライドシェアサービスの供給安定化」「日本郵便の配達リソースの多様化」という3つの利点が紹介された。

「ドライバーは配車リクエストが少ない時間帯でも、ライドシェアドライバーはゆうパックの配達によって追加収入を得られ、ドライバーの1時間当たりの平均収入が増加することで、より安定した稼働が可能です。ドライバーが時間をより有効活用できるようになり、収益が向上することで、ドライバーのオンライン時間やドライバー希望者の増加も想定されます」(山中氏)

結果的に配車リクエストのマッチング率など利用者の利便性が向上し、ライドシェア利用者の需要を取りこぼしが減るなど、「加賀市版ライドシェア」の利便性の向上も期待される。

ドライバーへの報酬は配達した荷物の個数に応じて支払われ、今回の実証では貨客混載によって、時間当たりのドライバーの収入や稼働時間が具体的にどの程度増えるのかといった効果を確認していく。
○「より効率的なモノと人の流れを」

今回の加賀市での取り組みを通じて、Uber Japanは地域の交通と物流の連携強化、持続可能なモビリティの推進、さらなる協業の可能性を検討する枠組みを構築。全国の地域交通や物流の課題解決に向けた展開も今後の視野に入れて考えていくという。

本発表会には、昨年8月にドライバー不足への対応を検討する「ドライバーシェア推進協議会」を設置した国土交通省から、大臣官房参事官(企画・電動化・自動運転)・髙本仁氏も来賓として参加。

「さまざまな取り組みの成果、課題や論点を抽出していただき、同様の悩みを抱えていらっしゃる地方部への横展開と、さらなる広がりを求めていただきたいと思っています。国土交通省といたしましても、制度面の改善につなげていければと考えており、全面的に協力差し上げたいと考えている次第です」と、今回の実証事業への期待を述べていた。

ライドシェアドライバーが需要の少ない時間帯に加賀市内の郵便局から委託を受けて、ゆうパックの配達を行う今回の取り組み。
ゆうパックの配達中もライドシェアの利用客からの乗車リクエストは受け付けられるが、ライドシェアの利用者が乗車中はゆうパックの配達を行わない方針で、時間指定の荷物については委託しないことも想定して検討を進めているという。

加賀市長・宮元陸氏は、二次交通などの移動手段の確保が全国の地方自治体において喫緊の課題となっている現状を訴えた。


「加賀市は消滅可能性都市と言われて久しく、その人口減少は非常に深刻な状況です。当市は観光地ですが、お客様をお招きしてもタクシーの予約・配車すらままならない状況が続いています。

eコマースの普及によるEC物流も増加しており、貨物も旅客も人手不足で運転手が少なくなっているという状況です。地方の生き残りでは、より効率的なモノと人の流れをつくり出していくことが大きな課題となっています」(宮元)

貨客混載の実証事業ではドライバーへの研修を3者で連携しながら実施。ドライバーの点呼などの運行管理は、ライドシェア事業と同じく「第一交通」が行う。35名のライドシェアドライバーのうち、5名のドライバーが自家用有償貨物運送の許可を取得しており、今年3月から本事業に携わるそうだ。

また、配達する荷物は乗客の目に触れないように配慮され、長時間の稼働を避けるため、加賀市観光交流機構がライドシェアと荷物・配達双方の稼働時間を把握する体制を整える。

最後に宮本市長は「貨客混載の新しいモビリティサービスを一日も早く実現しなければ、地方の旅客/物流は行き詰まってしまいます。この問題や今回の取り組みをより多くの全国の皆さまに知っていただければ」と、メッセージを送っていた。

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。
毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら
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