電気自動車(EV)の人気が高まる一方で、バッテリーの安全性が依然として懸念されており、普及の課題となっています。

EVは環境負荷を低減する大きな利点がありますが、バッテリーパックの大型化と高性能化に伴い、安全上の課題も顕在化しています。
この安全性リスクとそれに対応する技術のイノベーションを理解することは、消費者とメーカーの双方にとって極めて重要です。
EV火災の要因とは?

世界でEVの導入が進むにつれ、関連する火災の報告件数も増えています。消費者の航続距離のニーズに応えるため、バッテリーパックの大型化と高性能化が進む一方で、熱暴走(セルの急激かつ制御不能な温度上昇)のリスクも高まっています。

EVの発火事故はガソリン自動車の発火事故割合より少ないという論調がありますが、ガソリン自動車の発火事故は屋内や屋外での駐車中に発火する事故は多くありません。一方でEVは駐車中、特に充電中に発火するリスクがあり、ガソリン車より鎮火が難しく二次災害も大きくなります。発火原因を特定するのは困難で、安全性向上策を施し出火ゼロを目指す事が重要であり、内部短絡のコントロールは最優先事項と言えます。

バッテリーのエネルギー密度を改善するため、近年ではNMC811やNMC901などのニッケルリッチ正極材料が使用されています。これらの正極材料を使用したバッテリーは高いエネルギー密度を実現できますが、以下の理由から急激に過熱して火災を引き起こす可能性があります。

ニッケルリッチ正極材料は過充電、高温環境や内部短絡(ショート)などの状況下で分解しやすく、分解に伴い酸素を放出するため、発熱と分解の連鎖反応を加速させます(熱暴走)
バッテリーが劣化すると、リチウムデンドライト成長により内部短絡を起こしやすくなり、異常発熱につながります

デンドライトとは、バッテリーの負極で発生する樹枝状構造を持つリチウム金属体のことです。デンドライトが成長すると、負極と正極の間のセパレーターを突き抜けて内部短絡を引き起こす可能性があります。デンドライトはバッテリーの使用期間が長くなるに伴い成長するため、長期間使用により劣化したバッテリーでは安全性管理が一層重要になります。
安全性の課題を克服するためのアプローチ

火災リスクを低減するために、各社は様々なアプローチが模索しています。


より安全な正極材料:エネルギー密度は低くなるものの、結晶構造が安定しており熱暴走を起こしにくいLFP(リン酸鉄リチウム)やLMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)を正極に用いたバッテリーが注目されていますが、エネルギー密度がNMCより低く、車体重量が重くなる欠点があり、電池を大型化すると一概に安全とは言えません

パック熱設計:セルが発熱した場合でも、パック全体に熱が拡散するのを防ぐセル間断熱設計を備えた設計が施され、火を外部に出さないパッケージ材料が開発されていますが、熱暴走を止める根本的な解決策ではありません。

高度なバッテリー管理システム(BMS):最新のBMS技術により、バッテリーの状態をモニタリングし、温度や充電サイクルを管理して過熱と火災の防止を目的としていますが、セル内部の状況を把握して制御する事は出来ません

24M Technologiesが開発したImpervioセパレーターは、金属デンドライトによる内部短絡を根本的に防ぎ、内部短絡の危険性をモニターする事ができる技術です。過去、セルの内部短絡が発生した際に安全化する技術(セパレーターの遮断など)が提唱されましたが、熱暴走にいたるスピードは極めて早く、有効な手段を見出す事ができませんでした。Impervioセパレーターは、熱暴走の起点を防止する上、内部短絡をモニターする二重の安全機能を付与する事が出来ます。
未来のEVのために

ユーザーはEVに対し、より長い航続距離とより短時間での充電性能を求めています。こうした期待に応えるために開発されている大型でエネルギー密度の高いバッテリーは、製造コストの増加と安全性への懸念を伴います。

これらのコストと安全性という課題に取り組むためには、革新的なバッテリー技術が必要です。前述のImpervioセパレーター技術に加え以下のような技術イノベーションにより、より安全で手頃な価格、そして高性能なEVの実現が期待できます。

LiForever技術:電極をより厚くしてエネルギー密度が高めると同時に、コスト削減と安全性向上を実現する

ETOP技術:パックの充填効率を向上し、より安全で安価なLFPバッテリーを用いてNMCバッテリーと同等レベルのエネルギー容量を確保する

Impervioセパレーターを搭載したバッテリーは大量の金属コンタミ(1%)を起こしたセルでも内部短絡を起こす事なく、また、1時間の過充電でもショートやオーバーヒートなどの異常事象を起こさず、その安全性が実証されています。通常のセパレーターを使用した場合、同様の試験でバッテリーは内部ショートを起こし過充電試験では発火しました。

24MのLiForever技術は、半固体型電池製造プロセスを用いることで、従来高価で環境負荷の高い電池リサイクルプロセスを用いずに、電池のほぼ全ての材料を再利用できます。

また、24MのETOPパックコンセプトは、電極をバッテリーパックに直接効率よく組み込むことで、パックレベルで高いエネルギー密度を実現します。


EVの将来のためには、バッテリーの性能、コストと安全性の全てを改善する必要があります。従来のバッテリーの開発はコストと性能に重点を置いていましたが、EVの普及が進む中で、安全性も重視した技術イノベーションが重要となってきています。バッテリーの性能、コストと安全性が全て改善されることで、EVの普及がさらに進むでしょう。

太田直樹 おおたなおき 24Mテクノロジーズ プレジデント兼CEO。1990年大阪府立大学応用化学科卒業。長瀬産業にてリチウムイオン電池に関する新規事業開発グループを立ち上げ、1999年に渡米。衛星及び医療用リチウムイオン電池会社のQuallion設立に携わる。2005~2012年に、Ener1とEnerDelのCOOとCTOを兼任する間に、NASDAQへの上場を果たす。チタン酸リチウムのハイブリッド自動車用電池の開発で、アルゴンヌ研究所との共同研究でR&D100アワードを受賞。2012年、24MテクノロジーズにCTOとして加入し、2019年現職に就任。2024年、京セラとの共同開発において電気化学会技術賞(棚橋賞)受賞。 この著者の記事一覧はこちら
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