東京都八王子市にある東京都立八王子東高等学校では、「映像技術によるSTEAM教育推進」を謳った「映像制作で伝える力を養う勉強会」が、同校生徒を対象として、2024年8月~9月の期間に3回実施された。

「STEAM教育」は、社会に出た際に求められる「Science」「Technology」「Engineering」「Art」「Mathematics」を身に付けることを目的とした教育だが、学校教育の中で行うためには、予算面、スキル面で困難な部分が多い。
しかし今回、八王子東高校で行われた「映像制作で伝える力を養う勉強会」は、学校が主体ではなく、八王子東高校PTAが企画し、かつてPTAで活動した方で構成される八王子東サポーターズクラブ(後援会)が支援。NTT東日本グループの協力のもとで行われたのが大きな特徴となっている。

勉強会は、企画・構成についてのレクチャーからはじまり、編集アプリの操作方法などを解説。勉強会で学んだことをベースとして、実際に、文化祭および運動会を題材として、“八王子東高校を知らない人に魅力を伝える”ための動画を撮影・制作し、その発表会までがひとつのカリキュラムとして構成された。
○■子どもの成長のためにPTAとして貢献できること

PTAとして今回の勉強会を企画した経緯について、「まず、世の中的に、PTAは必要なのかという議論があって、実際になくなっているところもある」と話す、八王子東高校PTA 会長の佐々木理氏。「自分自身は必要だと思っている」と前置きしつつ、「その中で、どのように活性化していくかが大きな課題」であると認識。「やはり親にとって一番うれしいことは子どもの成長」であり、「子どもの成長のために、PTAとして何か貢献をしたいと考えたのが、今回の勉強会を企画した理由のひとつ」であるという。

その中で、今回「映像教育」に着目したのは、同校で実施されている「探究成果発表会」がきっかけ。生徒の行った探究活動を発表する場として設けられた檜舞台的な発表会だが、保護者は参加することができないため、「保護者の方から、その様子を見たいという声が非常に多かった」と佐々木会長は振り返る。そこで、発表会の様子を撮影し、保護者向けに配信を行ったところ、非常に反響が大きく、あらためて映像の力を実感。「これを生徒自らができるようになれば、さらに盛り上がるのでは」という想いが、今回の勉強会開催に繋がった。

佐々木会長から相談を受けた、八王子東サポーターズクラブ 理事長の田中茂氏は、「映像技術を学ぶこと、特に動画を編集するという技術を学ぶことは魅力的ですし、これからの若い人にとっては非常に大切」との考えから、特にコスト面での協力を約束。
「映像技術を学ぶことも重要ですが、何に注目して、何を取り上げるかといった視点が実は大事なことであり、それを学べることに価値がある」と今回の企画を評価した。

2024年2月に佐々木会長が話を持ちかけてから、約半年の準備期間を経て実施された勉強会だが、実際の授業を見学した感想として、「いわゆる通り一遍な研修ではなく、ちゃんと実機を使った授業で非常にわかりやすかったことに加えて、参加した生徒が少なかったこともあるのですが、たくさんの講師の方に来ていただき、ほぼマンツーマンのような形でみっちりと教えていただけたのは非常に良かった」という佐々木会長。田中理事長も「講師の方と生徒の世代が近かったこともあるのか、授業というよりも、会社におけるOJTのような感じで、とても良い雰囲気だった」と振り返る。

「普通の授業であれば、どうしても教える側と教えられる側で線が引かれてしまいますが、今回はそういうところもなく、実際に自分たちが社会に出て、後輩たちに仕事を教える際のメルクマールになる」と田中理事長。それを受けて、NTT-ME 東京ブロック統括本部 東京西エリア統括部 エリアプロデュース担当の田口真之氏は「その意味でも、“伝える力を養う”というところに繋がっていく」と続ける。

実際授業を担当した感想として、「授業では、自分のメッセージや想いをどうすれば動画で伝えられるかという点を中心に、絵コンテの切り方や撮影の仕方、編集ソフトの使い方などの基本的なことをレクチャーしたのですが、出来上がった映像を見せてもらうと、こんなところまで教えたかなと思うくらいクオリティが高かった」と話す。

一方、「本当に生徒さんたちがみんな活き活きとしていたのが印象的だった」というNTT-ME 東京ブロック統括本部 テクニカルリレーション部門 エリアプロデュース担当の鈴木翔太氏は、「今回の勉強会は、自ら参加したいと希望された生徒さんだけだったこともあって、非常にやる気が高く、休憩時間などは、我々が教えていないようなこともたくさん質問されましたし、いろいろなアイデアが生徒さんからも出てきたので、教える側としても非常に楽しかった」と、生徒側の積極性を高く評価する。

そして、出来上がった映像についても、「ほとんどの生徒が初めての動画編集だったのにも関わらず、すごくクオリティが高くて正直驚きました」という佐々木会長。今回の勉強会では、見る側の立場も考慮して、動画を1分間にまとめるという課題も与えられていたが、「この短い時間にうまくまとめられているのを見てビックリしたのですが、動画に慣れ親しんだ今の子どもたちならではなのかもしれないと思いました」との感想を述べる。

一方、「いろいろな人がいるので、権利関係などを気にされる方もいる」という田中理事長。「撮影したのは生徒だけど、映像の権利はどうなるのかという話にもなったのですが、そこは今後の課題として、とりあえずは生徒が頑張ったこと、保護者が喜んだこと、そういったことを評価したい」との見解を示した。
○■勉強会に参加した生徒の感想は?

PTA、そして後援会の想いから実現した今回の勉強会だが、実際に参加した生徒たちはどのように感じているのか。
勉強会の話を聞いて「すぐに参加したいと思った」という、八王子東高校2年の辻井龍之介さん。勉強会に参加するまで映像編集の経験はなく、「映像編集ができたら便利だろうとか、効率化が図れると思う場面がこれまでにもたくさんあったので、すごく良い機会だと思いました」と、勉強会に参加した理由を説明。一方、同校1年の神山あさひさんも「学校行事などで、自分が表現したいことが表現できなかったり、目の前にある仕事ができなかったりしたときに、すごくもどかしさを感じていたので、ぜひ学んでみたいと思いました」と振り返る。

辻井さんは、動画編集の基本はもちろん、撮影方法やカメラワーク、画面の作り方など、細かなテクニックを学べたことに感謝を述べる。神山さんは「動画を撮るときにも、何を意識するかとか、何を伝えたいかといった視点を持てるようになった」ことを勉強会の成果として捉え、「動画に限らず、様々な場面で重要になるのではないかと思います」との認識を明かした。

実際に動画編集を行ってみて、辻井さんは「作っているうちに、入れたい要素が増えてしまい、時間内に収めようとすると、何を言いたいのかがまったくわからなくなってしまう。その塩梅が非常に難しかった」と、事前にしっかりと構成を練っておくことの重要性を痛感。その点に強く共感し、神山さんは、今後に向けて、「自分が何を伝えたいかをもっと具現化できるようになりたい」との意気込みを明かした。

来年度も開催があれば「ぜひ参加したい」という辻井さん。来年は3年生ということで「余裕があればですが」と前置きしつつ、「参加すれば、また何か新しいものを得られるのではないか」と期待を寄せると、神山さんは「今度は後輩や友達にも参加を勧めたい」と、もっと多くの生徒に参加してほしいと声を上げる。

今回の勉強会に参加した生徒は初回が9名で、2回目が6名、最後の発表会に参加した生徒は4名に留まった。これは、模試や学校行事などが重なってしまったことが大きな理由となっており、実際、3回目の発表会には参加できなかったため、「だからこそ、来年はフルで参加したい」という辻井さん。
今回はTeamsによる告知しかなかったため、「クラス掲示などもっと事前の告知があれば、参加者も増えたのではないか」と周知活動の不足を指摘する。佐々木会長は「時間がなかったこともあって、告知が遅れてしまったことは、本当に申し訳なかった」と反省の弁を述べ、次回に向けての改善点とした。
○■映像には限らず生徒のニーズにあわせて

田口氏は「突き詰めるとキリがないのですが、やはりデザイン的なところをもう少し教えることができれば、さらにワンランク上の映像が作れたのではないか」と反省点を挙げると、「さらに欲を言えば、最後の発表会の後に、我々のフィードバックだったり、生徒さんたちの感想だったりを踏まえた動画を、あらためて作るところまでいければ、さらに良いサイクルが作れたのではないか」という鈴木氏。「どうしても時間との兼ね合いもあって、難しいところではありますが、そのあたりも今後の課題にしたい」との意気込みを明かす。

注目の次回開催だが、「本年度は映像をテーマとしましたが、生徒が学びたいことは映像だけではない」という佐々木会長。「AIを学びたい生徒もいれば、プログラミングを学びたい生徒もいる。もしかすると、お裁縫を学びたいという声があるかもしれない。そのあたりは学校とも相談しているのですが、アンケートなどで生徒のニーズを見極めつつ、進めていきたい」とし、「PTAとしては、とにかく学校を盛り上げていきたい」との想いを明かす。

一方、「学校という組織は、一年間にやらなければならないことが決まっているので、なかなか先生方も自由にできない」という現状を指摘する田中理事長。「その意味では、生徒が喜ぶ、保護者が喜ぶことを我々が手掛けるのは、学校としても歓迎すべきことだと思っています。これまでに経験のないことだけに、成果を積み重ねていけば、より良い方向に回していける」と、今回の勉強会に手応えを感じている様子。NTT東日本グループに対しても、「これから変わっていく地域社会の将来像、そして明るい未来を提示して、これからの日本を支えていく高校生にも強くアピールしてほしい」との注文を加えた。


それに対して、「NTT東日本グループは、地域に密着して、地域を活性化することに注力しています」という鈴木氏。「自治体、企業、教育機関、そういった様々なフィールドにおいて、DXを通じて、課題解決をしていく」ことを使命とし、「伴走支援といった、お客様に寄り添ったサービスを提供し、お客様とともに成長したり、活性化していくところが我々の強み。その意味でも、我々が率先してリードしながら、地域を盛り上げていけるように、これからも活動していきたい」と、今後のさらなる活動へ意気込みを明かした。
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