現在、東京都と大阪府が、公立・私立ともに、高校の授業料を実質無償化しています。近隣の都道府県に住む人たちの中には、無償化を理由に引越しを考えた人もいるのではないでしょうか。
しかしもうその必要はなくなるでしょう。

2026年度から、国の支援制度として所得制限をなくし、私立高校の授業料が実質無償化される見込みです。本記事では、高校授業料無償化の拡充内容を解説するとともに、今後の影響や注意点についてもお伝えします。

「高校授業料無償化」段階的に拡充

まずは、現行の就学支援制度を確認しておきましょう。

現行では、世帯年収の目安として910万円未満であれば、公立私立問わず年間11万8,800円の支援が受けられます。さらに、世帯年収が590万円未満で私立高校に通う場合は、支援金が加算され、年間39万6,000円まで支援が受けられます。

今回、2025年度予算が成立したことで、今年度から公立私立問わず年間11万8,800円の支援金の所得制限が撤廃され、公立高校は実質無償化となりました。

自民・公明・維新の3党協議では、2026年度から、私立高校の上乗せされる支援金についても所得制限を撤廃し、上限額を45万7,000円(私立高校の授業料の全国平均)に引き上げることで合意しています。

以上の内容をわかりやすく図にしてみました。
<高校授業料無償化の拡充イメージ>

青色部分がこれまでの支援であり、黄色部分が今後拡充される支援となります。

私立高校の授業料実質無償化が決まれば、全国の高校生がいる世帯すべてが支援を受けられることになり、公立、私立の枠に囚われない学校選択ができるようになります。
東京都ではどんな影響があった?

国に先行する形で、2024年度から公立私立問わず高校授業料を実質無償化している東京都では、どのような変化があったのでしょうか。


東京都の教育委員会によると、2025年の全日制の都立高校入試の公募倍率は平均1.29倍で、現在の制度で募集が始まった1994年度の入試以降最も低くなりました。また、倍率が1倍を下回った定員割れの学校数は62校となり、前年より15校増えたということです。

これまで授業料の高さがネックとなり選択肢に入らなかった私立高校も、授業料無償化によって選択肢に入れられるとなれば、独自の教育方針があり、設備も充実したところが多い私立高校に流れるのは致し方ないことかもしれません。

私立高校の実質無償化により、私立の中高一貫校を目指しやすくなったことから、中学受験の競争が激化する可能性もあります。実際、都内の大手学習塾では、私立中学の受験対策を希望する家庭が増えているということです。

高校授業料の無償化によって、進学先の選択肢が広がるのは大きなメリットですが、その一方で、公立離れが進むのは避けられない現象のようです。
授業料以外の費用にも目を向けよう

高校の授業料が無償化されてもタダで学校に通えるわけではありません。無料になるのは授業料のみ、その他にも多くの費用がかかります。また、私立高校の授業料は学校によってさまざまであり、全国の私立高校の平均額である45万7,000円を超える場合は保護者の負担となります。

文部科学省の「令和5年度子どもの学習費調査」から、公立・私立ごとの高校の教育費の年間支出を見てみましょう。

学校教育費とは、学校に納付するお金や学校で使うものを購入するための費用です。PTA会費や寄附金、制服代なども含みます。


学校外活動費は塾代やその他の習い事の費用などを合計したものです。

授業料を除いた学校教育費は、公立で30万6,000円、私立では53万3,000円となっています。この金額に学校外活動費を加えると、公立で55万2,000円、私立で79万7,000円になります。

私立高校に進学した場合、授業料が無償化されても、学校関連の費用だけで年間50万円以上の出費を想定しておかなければならないでしょう。学校によってはさらに多くの費用がかかる場合があります。

表に示した金額は全国平均であり、特に都市部の学校では高くなる傾向があります。中には、修学旅行の行き先が海外だったり、夏休みに短期留学を実施したりする学校もあります。入学後に予想外の出費に驚かないよう、事前に学校のホームページなどで在学中にかかる費用を確認しておきましょう。
まとめ

高校授業料の無償化は、子育て世帯にとって大きな恩恵であることは間違いありません。しかしその先には、教育費の中でも最も負担が大きい「大学の学費」が控えています。無償化によって家計に余裕ができた分を、しっかり貯蓄に回すことができれば、将来の資金繰りがぐっと楽になります。

とはいえ、実際問題として、家計に余裕ができる状況はなかなかやってこないのが子育て世帯です。
その理由の一つは、教育費には"かけようと思えばいくらでもかけられる"という側面があるからです。無償化によって安易に私立に流れるのもその一端かもしれません。

無償化によって、これまで選択肢になかった学校にも目を向けやすくなり、将来の目標や学びたいことに応じて、フラットに学校選びができるようになるのは大きなメリットです。そして、もしその結果として教育費の出費が多くなるとしても、納得のいく選択であれば問題はないでしょう。

ただし、多くの場合高校は通過点であり、教育費のゴールは大学まで続くので、将来を見据えた資金計画を立てることが大切です。余裕のあるなしにかかわらず、自動で積み立てる「先取り貯蓄」で準備するのがおすすめです。毎月少しずつでも積み立てていきましょう。

石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら
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