今回のテーマは質問力の続きです。前回説明したように、質問には2つのパワーがあります。
1つはコミュニケーションで発揮されるパワー、もう1つはイノベーションや問題解決で発揮されるパワーです。本稿では、イノベーションや問題解決で発揮される質問のパワーについて記載します。
質問にひそむイノベーションのパワー
イノベーションのジレンマで有名はクレイトン・クリステンセン氏は、「質問を変えれば世界を変えられる。カギは、世界を新鮮な目で見るために、常により良い質問を生み出すことだ」と述べています。
古くは、ピーター・ドラッカー氏が書籍『現代の経営』で、「戦略的な意志決定では、範囲、複雑さ、重要さがどうあろうとも、初めから答えを得ようとしてはならない。重要なことは正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである」と書いています。
それほど、イノベーションや意思決定、問題解決には、質問力が大事だということです。ついつい答えを探してしまいますが、質問によって見方を変えることが、探索のスタートです。
質問は英語では「Question」です。Questionはラテン語のquaerereに由来し、これは「探す」とか、「探し求める」という意味を持ちます。Quest(探索する)という言葉にもつながっています。
次の図は、書籍『イノベーションのDNA』(翔泳社 著者:クレイトン・クリステンセンら)で記載されているイノベーションに必要な7つのDNAに、筆者がコメントを追加したものです。
図から分かるように、質問力がアイデアの探索の呼び水になります。探索したアイデアを結合することで、イノベーションが創造されるということです。
「知らないことを知らない」がイノベーションにつながる
皆さんは、「知らないことを知らない」というヘンテコな定義を知っていますか?これは、自分が知らない知識があることを知らないという意味です。ここにイノベーションや問題解決のヒントがあると言われています。
知っている知識だけでは新しいことが生み出しにくいですし、自分に知らない知識があることを知っていれば、それを簡単に拝借することもできます。やっかいなことに、現在の情報化社会では知っていることをさらに増幅させますが、情報が多すぎて「知らないことを知らない」に到達しにくくなっているのです。
ここを、正しい質問であぶり出すのです。ただし、「知らないことを知らない」を「知らないことを知る」に変えることは不快なことで、結構エネルギーが必要です。
有名な正しい質問には、アイザック・ニュートンの「どうしてりんごは落ちるのか?」があります。ここから万有引力の法則の探索が始まったのです。また、Michael Dell氏がDell社を創業するときにパソコンを分解して計算してみたら、合計600ドルしかかかっていないことを知りました。
そしてDell氏は、「なぜパソコンは3000ドルもするのか?」と問うたと言われています。高い価格は流通にお金がかかっていたためで、パソコンのオーダーでのダイレクト販売を思いついたのです。受注生産というやつです。問題の本質を理解するための深い質問は、効果的な解決策を導き出すのに役立ちます。
この正しい質問をするためには、2つのポイントがあります。まずは、初心者の目で見ることです。必要としている深い知識を得るには、探るような質問をして、その答えを注意深く聞くことです。「前提」「先入観」こそが、私たちを革新的なアイデアから遠ざけます。
次に、根本的な質問をすることです。誰もが当然と思っていること、変えられないと思っていることについて質問することです。まぁ、それができれば苦労はしないのですが......。
正しい質問を出すには、以下のようなやり方がいいかと思います。
まずは、創造したい、または、解決したいテーマを決めます。そして、テーマに関連することを疑うことから始めるのです。なんか性格が悪くなった気にもなりますが、気にしないでください。疑うとは次のようなことです。
・当然と思っている日常の物事を疑う
・ビジネスや業界の暗黙のルールを疑う
・経験からの推測を疑う
・過去にうまくいったことが現在もうまくいくとは思わない
・今の製品やサービスが、今の見込顧客に受け入れられるとは思わない
疑うと、質問が出てきますよね。ざっとブレインストーミングで洗い出すことをお勧めします。そしてその後、時間を決めて、数名で質問をできるだけ多く出します。例えば、次のような質問です。10分程度でいいと思います。答えは不要です。
・なぜこの問題を解く必要があるのか?
・そもそも、どうしてこのやり方なのか?
・問題を言い換えることはできないのか?
・われわれの仕事のルールは何か?ルールを破ったらどうなるのか?
・この状態から何が推測できるか?
そして、それを観察して、ヒントになる質問を「なぜなぜ分析」で深掘っていきます。なぜなぜ分析とはトヨタ自動車で生み出された分析方法で、生産において問題があれば「なぜ?」を5回繰り返して改善へとつなげる方法です。
有名なやり方です。
「なぜ問題が起こったのか?」「それはなぜか?」と何度も掘り下げることで、真の原因を見つけ出し、効果的な解決策や再発防止策の策定へと導くことができます。質問力を上げるフレームワークとして、幅広く使うことができます。
これらの質問は、どちらかというと内省に近いのだと思います。それで、「知らないことを知らない」からヒントを得るのです。成功して踊り場に来ているビジネスの場合でも、これから新しい事業を開発したい場合でも、業務を改善したい場合でも、この質問力が有効です。ぜひ試してください。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。
書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら
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