第73期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は藤井聡太王座への挑戦権を争う挑戦者決定トーナメントが佳境に入っています。6月4日(水)には伊藤匠叡王―永瀬拓矢九段戦が東京・将棋会館で行われました。
対局の結果、千日手指し直しとなった一局を105手で制した伊藤叡王がベスト4に進出、4度目となるタイトル挑戦に向け大きく前進しました。
○あいさつ代わりの千日手
先日まで行われた藤井聡太名人との名人戦七番勝負では2度の千日手を経験した永瀬九段。対する伊藤叡王も昨年2月の棋王戦五番勝負でいわゆる「持将棋定跡」を披露するなど、棋界最先端の定跡を開拓している両者の対局となりました。振り駒が行われた本局は、後手となった伊藤叡王が角換わり腰掛け銀へ誘導。ともにかなりのハイペースで指し手を進めます。
対局開始から1時間が経つころ、銀交換をめぐる攻防が続いた盤上は永瀬九段が妥協する形で千日手が成立。先後を入れ替え始まった指し直し局は伊藤叡王が先手番の利を生かす展開となりました。左美濃に組んだ後手に対して、先手の伊藤叡王が早繰り銀の要領で颯爽と仕掛けたのがその始まりで、2筋の桂を狙う手裏剣の歩も交えて自然と手が続く格好です。ここからは激しい攻め合いに。
○窮地しのいで攻め込み快勝
歩頭に角を打ち込む激しい攻めは永瀬九段の研究範囲。形勢は互角ながら先手が駒得を、後手が自陣竜の手厚さを主張する難解な中盤戦が続きます。形勢が大きく動いたのは夕食休憩直後のことでした。
桂を取って穏やかに局面を収めた永瀬九段ですが、この手を後悔することに。代えては怖くても一手違いの斬り合いに持ち込むよりなかったとの結論に。
窮地をしのいだ伊藤叡王の指し手が冴え始めます。後手陣にできた金3枚のカベを崩すために連続で放ったタタキの歩が厳しい手筋。堅そうに見えた永瀬九段の防波堤は見る影もなく崩されました。終局時刻は21時52分、最後は自玉の寄りを認めた永瀬九段が投了。中盤、一瞬のピンチをしのいでからは安定した指し回しを見せた伊藤叡王の快勝譜となりました。
勝った伊藤叡王はベスト4に進出、次戦で広瀬章人九段と対戦します。
水留啓(将棋情報局)
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