一次流通での価格改定や、トランプ関税の影響。高級ブランド市場は今、大きな転換期を迎えている。
以前は「投資」として人気を博していたロレックスやブランドバッグも、現在は動きが鈍化。

今、ブランド品を売るべきなのか、それとも保有を続けるべきなのか? 価格の変動要因から今後の展望まで、買取の最前線で見えてきたリアルな現状を、大手買取専門店「買取大吉」の鑑定士・木村健一さんに聞いた。

○ロレックス価格は下落中! 市場に広がる"損切り"ムード

――最近、ブランド品にもトランプ関税の影響が出ているというニュースがありましたが、買取相場にはどのような影響が出ているのでしょうか?

全体的に"物の価値"自体は高い水準を維持しているのですが、取引の動き自体が鈍ってきている状況です。

例えば時計の価格は、ピーク時と比べて今春には20%ほど全体的に下落し、現状もまだ下がり傾向にあって、じわじわと値下がりが続いています。

なぜかというと、動きがない、つまり「新しく買う人が減っている」状態が続いているからです。

――時計以外のブランド品はいかがでしょう?

ブランド品も含めて、全体的に不安定な状態が続いています。金(ゴールド)が順調な一方で、以前に比べて投資する人がだいぶ減っている印象です。ロレックスも、以前は投資目的で買う人がかなり多かったのですが、今はそれが減っていると思います。

――ロレックスは一時、かなり高騰しましたからね……。

業界の人と話しても、かなり下がっているという話は聞きますね。以前は、相場が良く動いていたので「買って、すぐに売る」という回転ができたんですが、今はそのスピードがなくなってしまっています。業者側からすると、高く買い取った商品がどんどん下がってきている状態ですから、「さすがにやばい」と思って損切りしている人も結構多いみたいです。


――今、損切りしている人も多いということは、今後もまだ下がるだろうと考えている人が多いということですか?

その通りですね。

○トランプ関税の影響で二次流通価格は再び上昇する可能性!

――ヴィンテージ品は比較的、価値が落ちにくいと聞いていますが、そちらはいかがでしょう?

例えばロレックスの「6263」、昔のデイトナなどは5年ほど前までは600~700万円だったのが、ここ数年で1500万円くらいまで上がったんです。ただ、この1~2年は高止まりのまま停滞しています。

――少なくとも現行品よりは安定しているということですか?

そうですね。現行品は数が多く流通しているので、どうしても値崩れが起こりやすい傾向にあります。ヴィンテージでもそういう状況なので、現行品はもっと厳しいですね。今値上がりしているブランド品はほとんどありません。高止まりしているか、下がっているか、といった状態です。

――ルイ・ヴィトンやシャネル、エルメスのバッグも同様ですか? かなり高騰していたイメージですが。

同じです。一時期グッと上がったんですけど、今は高止まりですね。

――トランプ関税によってラグジュアリーブランドの価格がまた上がるというニュースがありました。
そうなると中古品の需要が高まり、価格も上がる可能性はありますか?

その可能性はあると思います。二次流通の価格は、一次流通の価格がベースになっているからです。例えばルイ・ヴィトンの定番ボストンバッグ「キーポル」は、10年前なら中古で2~3万円、高くても5万円くらいで買えたのが、今では綺麗なものだと15~20万円します。プラダのナイロンリュックも、人気の「V135」モデルが昔は4~5万円でしたが、今は状態にもよりますがだいたい15万円以上はしますからね。

これは、正規価格が当時の3~5倍に上がっていることが影響しています。正規品が高いので「少しでも安く買いたい」という人は中古を選ぶ。だから二次流通も価格が上がる、という流れになります。

関税も加味すると、ブランドとして「価格を上げざるを得ない」という状況は想像できますし、下げることはおそらくありません。ブランディングもありますし、今後も価格改定は続くと思います。

――ちなみに今後、トランプ関税は買取市場にどんな影響を与えますか?

「金」には大きな影響があると思います。今、金相場は過去最高水準に近く、1グラムあたり17,000円くらい。ただ、「金を売りたい」と思う人は減ってきている印象です。


トランプ関税が経済にインパクトを与えた結果、株に投資していた人たちが金に流れてきたこともあって、「今売っても、まだ上がるかもしれない」といった心理が働き、手放しにくい状況になっているんだと思います。

――金以外に対するトランプ関税の影響はいかがでしょう?

先ほども言いましたが、まず「物の価値がどんどん上がる=価格が上がる」ということが起きると思います。それによって、買える人たちと買えない人たちの二極化が進んでいく。買えない人たちは今後、二次流通品を買うというケースがもっと増えていくんじゃないかなと感じてはいます。

いずれにせよ、「価格が下がる」ということはもうほぼほぼないんじゃないかと思うので、欲しいものは欲しいと思ったときに買った方がいいかもしれませんね。
○売るべきブランド、持ち続けるべきブランド。見極めのポイントとは?

――今、ブランド品を売ろうか迷ってる人は売ったほうがいいのか、ホールドしておいたほうがいいのか、どちらだと思われますか?

少し難しい話なんですけど、今は大きく分けて「持っていてもいいブランド」と「今売ったほうがいいブランド」があると思います。持っていてもいいブランドというのは、いわゆる"普遍的なブランド"です。

例えば、10年後、20年後も同じモデルが存在していそうなブランド。こういうブランドは、値段が落ちにくいんです。つまり、同じモデルが未来でも継続して販売されていれば、その価値が保たれやすいということです。

――具体的に言うと?

エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトンなどは、毎シーズン同じデザインの人気商品があるので、状態が良い状態で保有していれば、価値はむしろ上がっていく可能性もあります。

――逆に「今売ったほうがいいブランド」は?

ディオールやロエベ、セリーヌ、プラダ、グッチ……などですね。このあたりは、どちらかというと"デザイナーが頻繁に変わる"ブランドなんです。デザイナーが変わるたびに、ブランドの方向性やデザインが変わってしまうので、20年後には「古いデザインだよね」と思われてしまうリスクがあります。

――流行に大きく左右されるということですね。

そうです。だからトレンド系のブランドは、「古くなる前に早めに売った方がいい」と思います。最近も、ディオールのデザイナーがキム・ジョーンズからジョナサン・アンダーソンに変わるというニュースがありましたが、こういう変化が起こるたびに、ブランドの印象そのものが変わってしまうんですよね。

――資産的な価値を重視するなら、やっぱり普遍的なブランドのほうがいいんですね。

そうですね。エルメス、シャネル、ヴィトンの定番品は、おそらく20年後も存在していると思います。なので、極端なことを言えば、今新品で買って大切に保管しておけば、10年後、20年後に売っても利益が出る可能性がある。

でもそもそも、そういう定番品を"買うこと自体"が難しいんですよ。
ブティックではなかなか手に入らない。一部の常連客でないとかなり難しいので、狙うなら中古市場で状態の良いものを探すしかないかもしれません。

――なるほど。時計の場合はどうでしょうか?

時計も同じように、「普遍的なモデル」とそうでないものに分かれます。たとえば、ロレックス、パテックフィリップ、オーデマ・ピゲあたりは強いですね。

――具体的なモデルで言うと?

ロレックスでいえばエクスプローラーやデイトナ、オーデマ・ピゲならロイヤルオーク、パテック・フィリップならノーチラスなど、これらは多少デザインが変わっても、モデルそのものは今後も残る可能性が高いと思われます。

それに、時計の場合は「過去モデルの価値が上がる」という傾向がけっこうあるんですよ。ファッションと違って「前のモデルのほうがいい」と感じる層が一定数いるんです。

――だから時計はより価値が落ちにくい、と。

そうですね。むしろ、希少性が高まって価値が上がる可能性もあります。投資的な意味では、ファッションよりも圧倒的に時計の方が価値が落ちにくいと思います。


何を売り、何を持ち続けるか。その判断が資産価値に直結する時代。もし手元に"売るか迷っているブランド品"、もしくは"買いたいブランド品"があるなら、ぜひ今回の木村さんの話を参考にしてほしい。
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