人間国宝の狂言師・野村万作を追ったドキュメンタリー映画『六つの顔』が8月22日に公開されることになった。公開日決定にあわせてオダギリジョーがナレーションを務めた予告映像・ビジュアル・場面写真が公開され、本作に出演する野村万作、野村萬斎、野村裕基と犬童一心監督からコメントが寄せられた。


650年以上の長きにわたり、多くの人々の心を魅了し続けてきた「狂言」の第一人者で、今なお現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作。2025年6月22日に94歳を迎える。3歳で初舞台を踏んでから、長きにわたり狂言と深く向き合ってきた万作は、その功績が認められ2023年に文化勲章を受章。映画『六つの顔』では、この受章を記念して行われた特別な公演の一日に密着し、万作の過去と現在の姿を鮮やかに描き出す。

万作が公演で演じるのは、近年、ライフワークとして熱心に取り組み、その表現を磨き上げてきた夫婦愛を描く珠玉の狂言「川上」。映画では、物語の舞台となる奈良の奥深い川上村に佇む金剛寺の荘厳な原風景も贅沢に収録されており、万作が長年にわたり追求してきた幽玄な世界観を、その卓越した至芸とともにスクリーンに深く刻み込む。

さらに、先達たちから大切に受け取り、次世代へと繋いできた想いや、今もなお高みを目指して飽くなき探求を続ける万作の言葉を収めたインタビュー映像も収録。実子の野村萬斎や、愛孫の野村裕基をはじめとする次世代の狂言師たちと共に舞台に立つ模様も、臨場感あふれる美しい映像で映し出される。

監督を務めるのは、『ジョゼと虎と魚たち』、『メゾン・ド・ヒミコ』、『のぼうの城』など、数々の観客の心を捉えてきた名作を手掛けてきた犬童一心氏。狂言に対して深い造詣を持つ監督ならではの、大胆かつ繊細なアプローチで万作の奥深い芸境に迫っていく。

また、万作が穏やかに語る"過去"と、力強く生きる"現在"を繋ぐ役割を担うのは、『頭山』で米アカデミー賞®にノミネートされたアニメーション作家・山村浩二氏。ナレーションはオダギリジョーが務めるなど、日本映画界を代表する才能豊かな製作陣が集結した。

○オダギリジョーがナレーションを担当

公開された予告編は、本編と同様にオダギリジョーが情感豊かにナレーションを担当。万作がわずか3歳で初めて踏んだ舞台の記憶とともに鮮やかに現れる「猿」の面をモチーフにした美しいアニメーションから幕を開ける。その後、90年という長い歳月にわたり狂言と真摯に向き合ってきた万作が、自身の過去を振り返る中で心に深く浮かび上がってきたという「六つの顔」にフォーカス。さらに、実の息子である野村萬斎や、孫の野村裕基の貴重なインタビュー映像も織り交ぜながら、現在の万作の凛とした姿を追いかける。

■野村万作(出演・監修) コメント

狂言『川上』は、盲目の夫とその妻の物語。狂言は単なる笑いだけの芸能ではないと若い頃から考えていた私が、25歳の初演以来繰返し、大切に取り組んできた演目です。 芸歴90年を超えた私がいま演じる『川上』を、現在はもとより未来の観客にも観て頂きたいという思いでこのたびの映画化を思い立ちました。狂言の笑いの質は美しい「型」によって支えられています。狂言は美しくあらねばならない、と長年思ってきましたので、犬童一心監督の狂言への愛によって、映画のスクリーンがとても美しいものに仕上がったことを有難く思っております。ぜひ劇場でご鑑賞いただければ幸甚に存じます。

■野村萬斎(出演・監修) コメント

『川上』という狂言屈指の名曲を、映画の手法で映像に収めると同時に、父・野村万作という狂言師の人生にも踏み込んだ映画が完成しました。父と、『川上』の盲目の男の生き様に、何かオーバーラップするものを感じて頂けるのではないでしょうか。
古典芸能・狂言を伝える一家に育った我々は、「いま」という瞬間を、点ではなく、伝統という線の中で生きています。ただ、それは我々ばかりのことではありません。この映画を通して、人間誰しも広く歴史を受継ぐ存在であり、より良い未来のために生きていく、その中でかつ自分個人の生を全うする、という大きな生き様を感じ取って頂ければ幸いです。

■野村裕基(出演) コメント

祖父・万作は今や数少ない、日本が戦争をしていた時代の記憶をきちんと持っている人で、その後ずっと狂言師として活動し、94歳になろうとする今も現役で舞台に立ち、さらに芸を高めようとしています。映画『六つの顔』を通して、自分と同じ若い世代の方にも、様々な人の様々な人生の中の一つとして、こんな人もいるのだな、と祖父の生き様をご覧いただけたらと思います。激動の時代を生き抜いてきた人の生き様に、昔を踏まえた上で、今をどのように生きるべきか、という解が込められた映画だと感じました。

■犬童一心(監督・脚本) コメント

萬斎さん主演『のぼうの城』を監督した縁で能楽堂に誘われ、気づけばそこは最も好きな場所の一つとなり15年通い続けている。そしてその間最も繰り返し見て、楽しみ、考えさせられた人が「野村万作」だった。そのどんなに不埒で笑いに満ちた物語でも、常に美しく、一歩引きながらも観客の目線と気持ちを掴み続けるそのあり方、すでに93歳ながら伝わってくるふつふつとした生命力、その謎、核を映像を通して感じてもらえたらと思った。

『川上』へのこだわりについてうかがったとき、今演じるのであれば「仏の教えに、夫婦の愛が克った」そこを伝えたいとおっしゃった。人間を信じることが今こそ必要だという大きなテーマを抱えて挑戦しようとされているのだ。93歳にしてまだまだ続く芸と世界への希求にとても感動した。
17歳から作り続けてきた映画、今回万作先生から私の映画を監督してもらえないかという提案は、最高の名誉、ご褒美だった。

【編集部MEMO】

犬童一心監督は、1960年6月24日生まれ。64歳。東京都出身。高校時代から映画製作をスタートさせ、大学卒業後はCMディレクターとして活躍。長編デビュー作となった『二人が喋ってる。』(1995年)が映画監督協会新人賞、サンダンスフィルムフェスティバルin東京グランプリを受賞する。1999年に『金髪の草原』で商業映画監督デビュー。以降、『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)、『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)、『のぼうの城』(2013年)など次々と名作を世に送り出し、日本映画界を代表する監督として活躍している。
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