第73期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は藤井聡太王座への挑戦権を争う挑戦者決定トーナメントが大詰め。6月13日(金)には準決勝の羽生善治九段―屋敷伸之九段戦が東京・将棋会館で行われました。
対局の結果、現代調の矢倉を駆使した羽生九段が91手で勝利。2023年の第72期ALSOK杯王将戦以来となるタイトル挑戦に向け、あと1勝に迫りました。
○「初心に返って」

この1週前に行われた棋士総会をもって将棋連盟会長を退任した羽生九段。「棋士としての歩みを充実させたい」と語ったその言葉通り、本局はたまったパワーを炸裂させるような快勝譜となりました。矢倉の戦型に進んだのは居飛車党の両者としては予想されたパターンのひとつ。屋敷九段が中住まいに囲ったのは堅さより広さを重視する現代的な戦い方です。

序盤早々に歩得を果たしている先手の羽生九段ですが、その代償として自陣の手の遅れが課題。後手からの急襲を警戒しながら玉型を安定させるのは至難の業に思われましたが、5筋の位を取ったのが急所の構想で局面の鎮静化に成功、逆に後手の角を桂で攻める狙いを生じさせていつの間にか指しやすさを手にします。感想戦ではこの周辺が重点的に検討されました。

○格言通りの快勝

作戦勝ちを得た羽生九段の指し手が急所を捉えます。遅いようでもジッと3筋の歩を伸ばしたのが「(相手の)歩のない筋の歩を伸ばせ」の格言通りの構想で、序盤に果たした歩得を最大限に生かす指し方。中央の位との合わせ技で後手の角を抑え込む手順が実現して先手優勢が明らかになってきました。
屋敷九段としては自陣で眠る飛車も泣き所です。

終局時刻は18時51分、最後は自玉の詰みを認めた屋敷九段が投了。持ち時間を1時間近く残しての快勝は羽生九段にとって2023年の王将戦(藤井聡太王将と対戦)以来のタイトル戦に近づく大きな一勝でした。挑戦者決定戦で広瀬章人九段―伊藤匠叡王戦の勝者と顔を合わせることとなった羽生九段は「しっかり調整して全力で臨みたい」と意気込みをのぞかせました。

水留啓(将棋情報局)
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