俳優のオダギリジョーが主演・共同プロデューサーを務める映画『夏の砂の上』(7月4日公開)が、開催中の第27回上海国際映画祭コンペティション部門に日本作品で唯一招待され、現地時間の6月20日に上映が行われた。
○共演の松たか子は「同世代で一緒に戦ってきた大切な仲間」
『夏の砂の上』は、読売文学賞の戯曲・シナリオ賞を受賞した松田正隆氏の戯曲を、玉田真也監督が映画化した作品。
物語は、息子を亡くした喪失感をきっかけに人生が止まってしまった主人公と、妹が置いていった17歳の姪との突然の共同生活からはじまる。愛を失った男、愛を見限った女、愛を知らない少女……それぞれの痛みと向き合いながら、彼らが夏の砂のように乾き切った心に、小さな希望の芽を見つけていく姿を描いている。
本作は、開催中の第27回上海国際映画祭コンペティション部門に招待され、6月20日に上映が行われた。上映後は、オダギリと玉田真也監督がQ&Aに登場した。
1,000人を収容する大スクリーンで上映され、上映中は笑いがおこったり、どよめきがあったり、息を静めて見守ったりと、さまざまな反応が。上映終了後には拍手が起こり、玉田監督が呼び込まれ、続いてオダギリが登場すると、大きな拍手と声援で迎えられた。
玉田監督は「尊敬している先輩監督たちの作品が上映されている映画祭に参加できて嬉しいです」と述べ、オダギリは「本当は皆さんと一緒に鑑賞したかったのですが、汗をかきすぎて、シャワーをあびて着替えに戻ったりしていたら間に合わなかった」と挨拶し、上海の蒸し暑さに同感した観客の笑いを誘い、場を和ませた。MCからの質問の後、観客からのQ&Aでは、多くの観客が「私をあてて」といわんばかりに挙手し、質問を競り合う姿が見受けられ、オダギリの人気の高さをうかがわせた。
「治(オダギリ)と妻・恵子(松たか子)が終盤にやりとりするセリフ」について問われた玉田監督は「原作にもあるセリフですが、治は息子を亡くしたまま、時が止まっている人。去ってしまう妻に対して、自分の痕跡を残したいと思ったのではと思っています。暴力的な言葉であるからこそ相手の中に自分を残したい、恵子に対して執着しているシーンだと解釈しました」と回答、そして「治というキャラクターをどのように演じたか」問われたオダギリは 「最初から監督は、悲しい出来事がつまっている映画だからこそ、あまり暗く見せたくない、暗くなりすぎない芝居をしてほしいと言われました。人生は楽しいこともあれば辛いこともある。
治には、環境的にマイナスなことが増えたように見えるが、姪と過ごしたひと夏の経験が治を大人にして、少しだけ前を見て新しく自分の生活を始めていくんじゃないかと感じて、演じていました」と本作から垣間みえる希望について語った。 会場と一緒のフォトセッションも実施され、フォトセッション中もオダギリへの声援が鳴り止まなかった。
会場を移動し行われた、記者会見も大勢の現地メディアが駆け付け多くの質問が飛び交った。上海の印象について問われたオダギリは「ロウ・イエ監督の作品の撮影で3カ月くらい上海で生活してとても楽しかった思い出がある。古い町並み、西洋的なニュアンスが入っていて美しい街という印象です」と答え、共演者・松たか子の印象を聞かれると「大きな括りで同世代、映画やドラマで一緒に戦ってきた大切な仲間だと思っています。結婚したのもほぼ同じ時期で、会うたびに『(結婚が)お互いよく続いてますね』とやりとりをしている。結婚っていうのは、思いやりと忍耐なんでしょうね」と語り記者たちを笑わせた。
玉田監督は「本作は『水』が映画の重要な要素になっていると思いますが」と問われると「ご指摘のとおり、水はとても重要な要素で、本作は、水害で息子を亡くした主人公が、水によって前向きになるという話。本来、水は人を生かすもの。でも人を殺すものでもあります。また、長崎の雨を飲むということには意味があり、原爆が落ち、放射能を含んだ雨を『死の雨』といって、生命にとってなくてはならない水が、人を殺してしまうものにもなる。水には 2つの意味が含まれています」と語り、この映画が長崎を舞台にしている意味にも触れた。
公式上映から記者会見までを終え、オダギリは「観客、現地メディアの方々が、しっかりと映画を観てくれていることが分かる質問ばかりでうれしかった」と話し、玉田監督も「芯をくった質問をしてもらって、ここで初めてお話しできたことも多く、すごくいい場でした」と締めくくった。
1993年から始まった上海国際映画祭は、中国で唯一、国際映画製作者連盟公認の映画祭として、映画文化の普及と映画産業の発展とを目的に、毎年10日間の会期中に国内外の約500作品が上映されている。『夏の砂の上』は、映画の質や芸術的な価値を競う場として注目を集め、今年は15本の作品が選出されたコンペティション部門で、日本作品唯一の上映となっている。
(C)2025 映画『夏の砂の上』製作委員会
【編集部MEMO】
映画の原作となった戯曲『夏の砂の上』は、長崎出身の劇作家・演出家である松田正隆氏によるもの。松田氏の戯曲『紙屋悦子の青春』も映画化されており、2003年公開の映画『美しい夏キリシマ』では、脚本を手がけている。代表を務める京都を拠点とした演劇カンパニー「マレビトの会」の作品は、国内はもとより、海外でも数多く上演されており、その名は世界に知れ渡っている。
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