第73期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は藤井聡太王座への挑戦権を争う挑戦者決定トーナメントが大詰め。6月24日(火)には準決勝の伊藤匠叡王―広瀬章人九段戦が東京・将棋会館で行われました。
対局の結果、力戦調の角換わり腰掛け銀から抜け出した伊藤叡王が101手で勝利。羽生善治九段の待つ挑戦者決定戦へとコマを進めました。
○3期目のタイトル目指して

10日前に行われた斎藤慎太郎八段との激戦を制してタイトル初防衛に成功した伊藤叡王。迎えるのはこちらもタイトル戦登場8回の実績を誇る広瀬九段です。ともに3期目のタイトル獲得を目指す戦いとなった大一番、振り駒で後手になった広瀬九段が△3三金型角換わりの趣向を披露する出だしに。藤井聡太竜王・名人との竜王戦七番勝負でも採用歴のある秘策です。

これに対し慎重に時間を投入して対策を考慮する伊藤叡王は、大胆な打開策で局面の主導権を握ります。左銀を中央に繰り出して右四間飛車に構えたのが攻めに専念するための布石。後手が飛車先の歩を突き越してない点をとがめる狙いで、飛銀銀桂に加えて持ち駒の角と5枚の攻め駒で後手陣に襲い掛かりました。伊藤叡王の攻めが一段落した局面、広瀬九段が金取りに桂を打って反撃に回ります。

○異次元の組み立てで勝利

形勢は難解のまま終盤に突入、ともに決め手が得られない時間帯が続きます。広瀬九段としては銀を打ち込めば飛車を取れるものの、その瞬間に攻め合いに持ち込まれると逆に先手陣がしっかりしてしまうのが誤算でした。
銀の取り合いに持ち込んだのは好調に見えて攻めさせられている形で「終始悪かったかもしれない」との局後の感想が広瀬九段の苦悩を物語りました。

リードを奪った伊藤叡王はすばやくまとめます。持ち歩を生かして玉頭に歩を垂らしたのが基本通りの決め手。とはいえむしろここに至るまでの組み立てがうまく、ギリギリまで攻めさせて見切るという懐の深さに、本局を観戦していた鈴木大介九段も「将棋もここまで進化したのか…」と舌を巻きました。終局時刻は20時56分、自玉の詰みを認めた広瀬九段が投了。

勝った伊藤叡王は挑戦者決定戦へと進出。羽生九段との大一番は7月3日(木)に予定されています。

水留啓(将棋情報局)
編集部おすすめ