俳優のオダギリジョーが主演・共同プロデューサーを務める映画『夏の砂の上』(7月4日公開)の撮影地である長崎で凱旋上映イベントが開催され、オダギリと玉田真也監督が長崎県庁を表敬訪問した。
『夏の砂の上』は、読売文学賞の戯曲・シナリオ賞を受賞した松田正隆氏の戯曲を、玉田真也監督が映画化した作品。
物語は、息子を亡くした喪失感をきっかけに人生が止まってしまった主人公と、妹が置いていった17歳の姪との突然の共同生活からはじまる。愛を失った男、愛を見限った女、愛を知らない少女……それぞれの痛みと向き合いながら、彼らが夏の砂のように乾き切った心に、小さな希望の芽を見つけていく姿を描いている。
この度、同作が第27回上海国際映画祭で、日本映画として23年ぶりとなる審査員特別賞を受賞後初めて、主演・共同プロデューサーのオダギリと玉田真也監督が公の場に立ち、撮影の地・長崎で凱旋イベントを行った。
まず、長崎県庁を訪問したオダギリと玉田監督は、「おかえりなさい」と書かれたポスターとともに、入口から約300人の県庁職員に出迎えられ、大歓迎を受けた。その後、二人は副知事の馬場裕子氏と挨拶を交わし、馬場副知事から「まずは上海国際映画祭の審査員特別賞の受賞おめでとうございます」と受賞について祝辞をもらい、続けて、「長崎の風景が映画を通して、別の角度から観ることができるのは長崎の方にとって大変ワクワクすることだと思います。まさに今日全国に先駆け、長崎を含む九州北部地域が統計史上最速で梅雨明けをしました。まさに今日から乾いた夏が始まりますので、長崎でもPRを頑張ってまいります」と、表敬訪問の日に、長崎の梅雨明け発表がされたタイミングの良さにかけてコメントした。
その後に行われた囲み取材では、上海と長崎が「友好姉妹都市」で、受賞ならびに上海受賞直後に長崎へ来てくれることに縁を感じている旨を記者に伝えられ、改めて受賞の感想を問われると、オダギリは「『ニュー・シネマ・パラダイス』という伝説的な名作の監督であるジュゼッペ・トルナトーレが審査員長でこの作品を押してくれたということに、胸が熱くなり、感慨深いです」と答え、別の記者から、300人の県庁職員に歓迎されたことについて聞かれると「(このような形での歓迎は)経験したことがなくて、ちょっと怖かったです(笑)」と述べ、場を和ませた。
被爆から80年の節目である年に公開することについて問われた玉田監督は「この映画は、原爆という大きな歴史の隙間にある部分、実際にそこに住んでいる方たちの生活や日常を描いています。今(長崎で)生きて生活している人たちに寄り添うような作品になっているんじゃないかと思います」と回答した。
夜に開催された、凱旋試写イベントの舞台挨拶では、オダギリと玉田監督が登壇すると、来場者から大きな拍手で迎えられた。舞台挨拶には、長崎市長の鈴木史朗氏が駆けつけ、受賞のお祝いと公開を間近に迎える本作のヒットを祈願して、二人に大きな花束を渡した。
鈴木市長は、「現代の長崎を描いていながらも、どこか懐かしさを感じさせるような長崎が描かれています。お二人の情熱によって、素晴らしい魅力に溢れた作品になっていると思います」とコメントし、オダギリは「感無量です。ありがとうございます」と返答した。
最後に、玉田監督は「映画を構想した時から長崎の街を主人公にした映画を撮りたいと思っていたので、こうして、長崎で、長崎の皆さんにご覧いただけるのが嬉しいです」そしてオダギリからは耳寄りな情報として「最後の編集作業まで関わっていますが、音づくりには特にこだわっています。この作品が、音楽(劇伴)は最小限にして、観る方の 想像力に委ねています。そこが玉田監督の観客へ真摯に向き合う姿勢だと思っています。音楽の代わりに、生活音、セミの音や猫の鳴き声だったり、遠くから響く造船所の工場の音などが聞こえてくるはずなのでじっくり聴いてもらいたいです。そうすることで映像が際立つので、長崎の街の風景がしっかり届くと思っています。ということはひとまず忘れて楽しんでもらえればと思います」と共同プロデューサーとしての視点で、映画を観て感じとってほしい部分を伝え、会場をあとにした。観客向けのフォトセッションも含め、終始あたたかい空気に包まれた凱旋イベントとなった。
(C)2025 映画『夏の砂の上』製作委員会
【編集部MEMO】
映画の原作となった戯曲『夏の砂の上』は、長崎出身の劇作家・演出家である松田正隆氏によるもの。松田氏の戯曲『紙屋悦子の青春』も映画化されており、2003年公開の映画『美しい夏キリシマ』では、脚本を手がけている。
代表を務める京都を拠点とした演劇カンパニー「マレビトの会」の作品は、国内はもとより、海外でも数多く上演されており、その名は世界に知れ渡っている。
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