『鬼平犯科帳』で長谷川平蔵を狙う刺客に

松本幸四郎主演、池波正太郎原作の『鬼平犯科帳』シリーズ最新第6弾『鬼平犯科帳 暗剣白梅香』(時代劇専門チャンネル 7月5日13:00~、19:00~ほか放送/時代劇専門チャンネルNET 7月5日13:00~配信開始)で、火付盗賊改方長官・長谷川平蔵(松本幸四郎)の命を狙う刺客・金子半四郎を演じる早乙女太一。殺陣を始めたきっかけであり、ヒーローとも呼べる存在の幸四郎との初共演を大いに喜んだという。

一方で、孤独を背負う半四郎という役に、10代の自分を思い出しながら臨んだという早乙女。
苦悩の時代から「生きる道」が見えるようになったターニングポイントも語ってくれた――。

○憧れのヒーロー・松本幸四郎と初共演「報われた」

早乙女が13歳の頃に初めて見た舞台が、劇団☆新感線の『髑髏城の七人』。その主演が当時の市川染五郎、現在の松本幸四郎だった。

「“こんなにカッコいい世界があるんだ”、“こんなにカッコいい立ち回りがあるんだ”とすべてが衝撃でした。僕にとって幸四郎さんは、仮面ライダー、ウルトラマンと並ぶような憧れのヒーローで、その人といつか刀を交えたいという思いがあったので、それが約20年越しにかなって初めて共演させていただくことになったのが、何よりもうれしかったです」

幸四郎のカッコよさを言語化すると、「立ち回りの中にカッコいいだけじゃなくて、カッコ悪いも共存しているんです。敵にやられている時のお芝居をちゃんと立ち回りの中に入れているからこそ、倒した時のカッコよさが際立っている。また敵を斬った時に、歌舞伎の型から成り立っている魅せるカッコよさがあいまって、幸四郎さんならではの特色を持ったカッコいい立ち回りになっているんだろうなと思います」と表現。

今回のオファーは、そんな憧れの幸四郎の希望もあって実現したというだけに、「“頑張ってきて良かった”と、今までの自分が報われたような気分になりました。その幸四郎さんの思いもそうですし、今までやってきた自分の思いも含めて、この作品に注げたらいいなと撮影に臨みました」と振り返る。

13歳の自分に今言葉をかけるとしたら、「感謝したいですね。その時から自分が頑張ってくれたからこそ、今の自分があると思うから、“ありがとう”という感じです」と思いを述べた。

○距離を保った撮影後に待っていた言葉

撮影現場で幸四郎と会話することは、ほとんどなかったという。
それは、「幸四郎さんのお気遣いもあったと思いますが、(自分が)孤立した役柄なので、なるべく距離を保って、役として向き合う時だけ向き合っていたという感覚がありました」と明かす。

その代わり、クランクアップして撮影所から帰る早乙女を、幸四郎が待っていてくれたのだそう。そこで、<あなたの殺陣は、あなたにしかできないし、世界一だと思うから、今回一緒にできてとてもうれしかったです>という宝物のような言葉をもらったそうだ。

子どもの誕生で自分がやるべきことを見つめ直す

今回の役作りにおいて、「身体的には特にしたことはなくて、そのままの自分で挑みました」というが、「役柄を落とし込む部分では、過去の自分を思い出すような作業が多かったです」と打ち明ける。

「10代の頃の自分は、孤立していた時期があったり、人から見たらすごく闇があるような雰囲気があったと思うんです。それは、自分も半四郎と同じく、自ら選んだ道ではなかったから。ありがたいことなんですけれども、演劇をやる環境に生まれ落ちて、当たり前のように舞台という道があって、その道をずっと歩んできたので。やっぱり自分の意思だけでやっていたわけではなかったので、どうしても苦しい時があったり、時には自分の感情を殺していたりしていたので、その頃のことを今回の半四郎をやる上で思い出していました」

半四郎という人間は、「生きているんだけど死んでいるような亡霊のようなイメージ。生きる道にずっともやがかかっているような状況で歩んできた人なんです」と紹介。過去の自分も「僕は役者として生きていこうと思ったのが23~24歳くらいで、それまではずっともやがかかっていたし、生きる道というものがしっかりと見えていなかったし、向き合っていない状況にありました」と、半四郎に重ねた。

そのもやが晴れたターニングポイントとしては、子どもが生まれたことが大きかったという。

「役者として生きる上で、自分がやるべきこととやりたいことを見つめ直したタイミングがその時でした。自分の意思ではなく役者をやっていた頃もあったけれど、すごくありがたい環境にいたことを改めて実感したんです。
時間を使ってやってきた女形や立ち回りなどを、今の自分だったら楽しくできるかもしれない。自分で自分を楽しませる場所は、舞台や自分の劇団、そしてその劇団に携わってくれるみんななので、そういったものをもっと自分の手で作り出していこうと思いました」

この時期には、「絶対にまた力を付けて、みんなで集まりたいと思っていたんです」と、二代目を務めていた劇団朱雀を解散。その約5年後に復活したのには、「今まで自分のルーツとして大衆演劇で学んできたことをいかに作り直していけるかという目標ができたので、自分の生きる軸がまた一つできたんです」という思いがあった。

○大衆演劇をブラッシュアップして広げる活動へ

芸歴30年という節目を迎えた早乙女。「今年は新たなチャレンジとともに、いかに若い世代の人たちに自分が大衆演劇で学んできたことをつないでいけるかを考えています。それこそ僕が劇団☆新感線や幸四郎さんに憧れたように。この『鬼平犯科帳』もそうですが、今まで続けてきてくれた方たちがいるからこそ、こうやって僕が参加できるわけなので」と意識を語る。

また、「大衆演劇が盛んだった当時は、その名の通り大衆に寄り添った一番身近なエンタテインメントだったと思うのですが、今はスマホもあるし、どこでもエンタテインメントが楽しめるので、全然“大衆”演劇じゃない。逆にすごくアングラな世界になってしまっているので、古き良きものを残しながらも、ただそれをつないでいくだけじゃなくて、いかに自分がブラッシュアップしてその世界を広げていけるかを課題として活動しています」という。

そのためには、舞台にとどまらず、今作のようなテレビ作品に出演することの重要性も感じている。

「映像作品でしかできないことは絶対にありますし、僕の根っこは舞台にあるので、テレビで僕を知っていただいて、興味を持っていただけたら、舞台を見に来ていただきたいという思いがあっての活動でもあります」

セリフが少ない人物の背景を表現するための「覚悟」

「ドイツ・ワールドメディアフェスティバル2025」でエンターテインメント部門の金賞を受賞するなど、国内だけでなく国際的な評価も高い『鬼平犯科帳』シリーズ。

その魅力を、「一人の人間のドラマがしっかりと浮き立ってくる。
それは言葉で説明しているわけじゃないのに、しっかりとその世界観があるんです。影の中にもしっかりと人が生きていて、そこに悲しみがあったり、カッコよさがあったりして重厚なんですよね。今回、僕は金子半四郎という役を通してこの作品に携わらせてもらいましたけど、彼もそんなに言葉を発しているわけではないのに、その人生がしっかりと浮き立って見えてくるのは、『鬼平犯科帳』という作品の素晴らしさなんだろうなと思います」と語る。

セリフが少ない中で人物の背景が見えるように表現することは、役者としての腕が問われる。「自分自身の中にしっかりとこの役を落とし込んでいないと、それはできないと思ったので、一つ覚悟がないと挑めないなと思いました」と、今作に臨んだ心境を明かした。

○「早乙女太一に心酔する」に恥ずかしさと感謝

時代劇専門チャンネルと日本映画専門チャンネルでは、今作の放送を記念して、「早乙女太一に心酔する」と題し、早乙女の出演作品を特集放送する。

この特集タイトルに「恥ずかしいです(笑)」と苦笑いしながらも、「今まで流れたことのない作品も放送されると聞いているので、とてもありがたいです」と感謝した。

時代劇専門チャンネルでは、映画『仕掛人・藤枝梅安』(主演:豊川悦司/7月6日・21日・23日)、『ゲキ×シネ「天號星」』(7月21日・30日)、『怪談・にせ皿屋敷』(7月21日・31日)、本人出演の特別番組『早乙女太一の世界にハマる 心酔方程式』(7月21日・23日)。日本映画専門チャンネルでは、『劇団朱雀祭宴「桜吹雪八百八町」』(7月22日)、特別番組『早乙女太一美術館 「心酔」』(7月22日)がラインナップされている。
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