第73期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は挑戦者決定戦の伊藤匠叡王―羽生善治九段戦が7月3日(木)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり腰掛け銀の研究合戦から抜け出した伊藤叡王が114手で勝利。
難敵を下して藤井聡太王座への挑戦権を獲得しました。
○恐ろしいまでの研究勝負

羽生九段が通算タイトル100期に手をかけるか、伊藤叡王が「藤井―伊藤時代」への幕開けを告げるか。多くのファンの注目を集めた大一番はトッププロにおける角換わり腰掛け銀研究の奥深さを示す一局となりました。先手となった羽生九段が単騎の桂跳ねで仕掛ければ伊藤叡王も6筋から反撃。対局開始から両者ともにハイペースで指し手を進めます。

昼食休憩時点で90手を数えた盤上に観戦するファンも「どこまで研究なの…」「本当に持ち時間5時間?」と驚きを隠せません。この直前、伊藤叡王の84手目が「(今日は)これをやってみようと思って」と局後に明かした秘策。将棋AI同士の実戦例をベースにプロ間でも研究が進む終盤戦で、孤立した羽生玉に伊藤叡王が攻めをつなげられるかが焦点に。

○ものを言った研究差

中継放送に備え付けられた将棋AIでも評価が難しい難解な局面が続きます。綱渡りの受けを強いられる羽生九段の持ち時間がみるみる減ったのはやむを得ない流れですが、本局はここが勝負の分かれ目に。桂を捨てての王手は限られた時間で勝つならこれしかないという勝負手。しかし伊藤叡王は自玉に詰めろがこないことを読み切っていました。


終局時刻は17時5分、秒読みに追われるように王手を続けた羽生九段ですがやがて敵玉に詰みがないのを認め投了。伊藤叡王の深い事前研究がものを言って持ち時間のリードへとつながり、羽生九段に最後まで力を出させなかった衝撃の快勝譜となりました。敗れた羽生九段ですが、最先端の研究勝負に挑む姿勢にファンも賛辞を惜しみませんでした。

藤井王座と伊藤叡王の間で争われる五番勝負は9月4日(木)にシンガポールの「アマラ・サンクチュアリ・セントーサ」で開幕します。

水留啓(将棋情報局)
編集部おすすめ