マイナンバーカードがiPhoneに搭載可能になって1週間が経過しました。この間、すでに約66万5,000人(6月30日時点)がマイナンバーカードをiPhoneに搭載しており、利用は順調に拡大しています。
そして7月からは、病院などの医療機関の受付でスマートフォンをマイナ保険証として使う実証事業がスタートしました。
本連載の第84回でiPhoneのマイナンバーカードについて、さらに第68回ではマイナ保険証についてそれぞれ解説しましたが、今回は「スマートフォンを使ったマイナ保険証」について説明します。
誰でもスマートフォンを保険証代わりに使える?
大前提として、「マイナンバーカードの健康保険証利用」(マイナ保険証)の利用申請をしておく必要があります。これはマイナポータル、セブン銀行ATM、医療機関の顔認証リーダーのいずれでも設定できます。
この設定をした上で、スマートフォンにマイナンバーカード機能を搭載することで、マイナ保険証として利用できるようになります。iPhone/Androidのどちらも対応可能で、Androidに関してはスマホ用電子証明書搭載サービスに対応したスマートフォンに限られています。
マイナ保険証の申請とスマートフォンへの搭載をすれば、誰でもスマートフォンでマイナ保険証を利用できるようになります。
ただし注意点として、マイナンバーカード保有者全員がマイナンバーカードをスマートフォン搭載できるわけではありません。
そもそもスマートフォンへの搭載時にカード自体の署名用電子証明書が必須です。マイナンバーカード自体は証明書を内蔵しないで発行することができるため、この証明書を搭載せずに発行した人はマイナ保険証利用もスマートフォン搭載もできません。
また利用者が15歳未満の場合、マイナンバーカードに利用者証明用電子証明書を発行できるためマイナ保険証としては使えますが、署名用電子証明書が基本的には発行できないため、スマートフォンに搭載することはできません。結果として、スマートフォンでのマイナ保険証は使えないことになります。
もちろん、マイナ保険証自体を申請しておらず、資格確認書や従来の健康保険証を利用している人も、それをスマートフォンに搭載することはできません。
どうやって設定するの?
マイナ保険証をスマートフォンで利用するためには、まずはスマートフォンでマイナンバーカードの機能を使えるようにします。iPhoneの場合は「Appleウォレット」を起動してマイナンバーカードを追加します。
必要となるのは物理的なマイナンバーカードで、券面事項入力補助用の暗証番号と署名用電子証明書のパスワードも使います。前者は4桁の数字で、カード発行時に利用者証明用電子証明書の暗証番号と同じ数字も設定可能でした。番号を忘れてしまったという場合は、同じ暗証番号を試してみるといいかもしれません。署名用電子証明書は6~16桁の英数字です。発行時には、iPhoneで物理のマイナンバーカードにタッチする必要もあります。
Androidスマートフォンの場合は、2023年から提供されているスマホ用電子証明書搭載サービスを利用します。これも物理のマイナンバーカードを使って発行。発行時に必要なのは、利用者証明用電子証明書の暗証番号と署名用電子証明書のパスワードの2つです。
こうしてiPhoneまたはAndroidでマイナンバーカード機能を搭載することで、マイナ保険証として利用可能になります。
改めてマイナ保険証の申請などは不要です。
病院ではどうやって使う?
実際の利用は、コンビニ交付サービスと同じ使い方になります。これはコンビニエンスストアにあるマルチコピー機でマイナンバーカードを使い、住民票の写しなどの公的な証明書を発行するサービスで、iPhone/Androidで発行できます。
どちらのサービスも、それぞれの端末に発行した利用者証明用電子証明書を使っています。Androidの場合は暗証番号、iPhoneの場合はFace IDやTouch IDの生体認証を使って本人確認をしています。
同様に、医療機関でも生体認証や暗証番号で受付をします。マイナ保険証の場合、受付の顔認証リーダーにマイナンバーカードを置いて顔認証(または暗証番号)を行います。このマイナンバーカードと顔認証の代わりにスマートフォンを使います。
実際にマイナ保険証を使う場合には、顔認証リーダーの画面から「スマートフォンを利用」ボタンをタッチし、次の画面でiPhoneかAndroidかを選択。iPhoneの場合はAppleウォレットからマイナンバーカードを選択して生体認証を行った上で、外付けリーダーがある場合はそこにタッチ。Androidの場合は、リーダー画面で暗証番号を入力し、外付けリーダーにスマートフォンをタッチします。
その後は物理のマイナンバーカードのマイナ保険証と変わらず、医療情報などの提供に同意するかどうかを選んで終了です。
なぜ外付けリーダーが必要なの?
現行の顔認証リーダーは、仕様策定の段階で物理カードを想定していませんでした。そのためカード差し込み口が狭くなっています。これは差し込んだカードが必ず所定の位置になるように工夫しているため。カードの券面からカメラで数字を読み取り、ICチップからデータを読み出す必要があるからです。
結果として、複数のサイズがあってカードより分厚く、NFCチップの位置がまちまちのスマートフォンでは、読取り部にタッチできずに、きちんとリーダーでデータを読み取れない可能性があります。
ちなみに厚生労働省に聞いたところでは、キヤノン製のリーダーのみ、独特の構造を採用したことで、結果としてスマートフォンのサイズを問わず読み取りができるようになっているそうです。
それ以外のリーダーを採用している医療機関では、新たに汎用のカードリーダーを導入する必要があります。マイナンバーカードの読み取りに対応したパソコン用のカードリーダーであればマイナ保険証の読み取りにも使えるようですが、8月以降に厚生労働省がリーダー購入の補助も行うことになっています。
基本的に、必要なのはオンライン資格確認用のパソコンにリーダーを接続するだけ。顔認証リーダーのアップデートなど一部設定は必要ですが、大がかりな改修にはならないので、対応自体は簡単なようです。
スマートフォンのマイナ保険証はどこで使えるの?
7月からスタートしたスマートフォンのマイナ保険証利用はあくまで実証事業で、8月までは関東圏の15医療機関でのテストにとどまっています。9月からは、外付けリーダーを購入するなどして準備が整った医療機関から順次対応していきます。
ただし、スマートフォン対応は義務というわけではないため、医療機関によっては使えない状態が続くところもあるかもしれません。そのため厚生労働省では、初めて行く医療機関には物理カードを持っていくことを推奨しています。
停電やスマホのバッテリー切れのときはどうなる?
マイナ保険証を利用するには顔認証リーダーが必要になるため、病院が災害時などで停電になると利用できなくなります。
病院には自家発電が設置されているところもありますが、そもそも病院は電気が必須の施設です。特に入院患者がいる場合、停電は致命的な事態を引き起こしかねないため、そういった状況で外来の受付をしている場合でもないでしょう。
これは従来の健康保険証や資格確認書を使う場合も同様で、本来はオンライン資格確認を使って実際の保険資格を確認する必要がありますが、停電になればそれもできなくなります。停電の際、マイナ保険証は受け付けないが資格確認書なら受け付けるという状況は考えにくく、物理カードだろうがスマートフォンだろうが受診が難しいというのは変わりません。
停電中でも、緊急で受付が必要な場合はいずれにせよ受診はできるでしょう。身分証明書があればそれを確認できますし、意識があればマイナポータルの画面を表示しても健康保険証を見せても保険資格は確認できます。
災害時には特例もありますが、いずれにしても保険資格が有効である限りは最終的に極力10割負担が発生しないような手当がいろいろあります。過度に心配する必要はないと思います。
ただ、スマートフォンのバッテリー切れに関しては「注意する」以外はありません。
(場合によっては)電車も乗れない、買い物もできない、電話もメッセージもできないという状況で、病院の受付ができないことだけを心配してもしかたがないので、病院の受付でタッチするまではバッテリーが切れないようにしましょう。
スマートフォンのマイナ保険証にはどんなメリットがあるの?
病院や薬局などで、すでにスマートフォンに対応していることが分かっている医療機関であれば、物理カードを持ち出さずに、スマートフォンだけで診察を受けたり、薬を受け取ったりが可能になります。
特にiPhoneの場合はスマートフォンの生体認証を使うので、顔認証リーダーで顔が読み取れなかった、暗証番号を忘れたといったトラブルが避けられます。今後、Googleウォレットにマイナンバーカード機能が搭載されれば、こちらも生体認証で呼び出しができるようになる見込みです。
制度上は、健康保険証を持っていなかったり有効期限が切れていたりするといったん10割負担になるのに対して、スマートフォンは常に持ち歩いている人が多く、物理カードの不携帯による負担を避けられるという点もメリットです。
次期顔認証リーダーはスマートフォン対応が仕様に含まれているため、リーダーが刷新されれば外付けリーダーも不要になり、利用可能な医療機関は順次拡大していくことが期待できます。カードリーダー自体は高額ではないため、多くの医療機関が対応することを期待したいところです。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。
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