腕時計の開発には多くの人が関わる

腕時計は19世紀末に小型の懐中時計にベルトを着けて腕に巻く姿で誕生し、20世紀初頭の第一次世界大戦の時期に各国の軍隊が採用したことで一般にも広く認知されるようになっていきました。

時代を追うごとに、1本1本を時計職人が組み立てる工芸品から、機械で組み立てられる部分は機械に任せる工業製品になっていきました。
現在では、自動組み立てラインで量産型のムーブメント(機構部分)を組み立て、仕上げの工程を手作業で行うものもあります。

時計職人の仕事は分業化され、商品企画、設計、組み立て、部品の調達、デザイン、品質管理、修理、販売促進などなど、専門化された多くの職種が関わっています。

この連載では日本が誇る世界有数の腕時計メーカー、シチズン時計を取材。シチズン時計は、腕時計の設計から製造まですべて自社で完結できる、世界でも数少ない「マニュファクチュール」のひとつなのです。人気ブランド「CITIZEN ATTESA(シチズン アテッサ)」のルナプログラム/ムーンフェイズ搭載モデルを具体例として、腕時計の新製品がどのようなプロセスを経て誕生するのかをお届けします。

シチズンの「アテッサ」とは?

シチズン時計は、「CITIZEN(シチズン)」というブランドの下に、「The CITIZEN(ザ・シチズン)」「Eco-Drive One(エコ・ドライブ ワン)」「EXCEED(エクシード)」「PROMASTER(プロマスター)」「xC(クロスシー)」「Series 8(シリーズエイト)」「CITIZEN L(シチズン エル)」など、さまざまなサブブランドを展開しています。アテッサはその中でも、シチズンの技術を象徴するチタニウムウオッチのサブブランドです。

アテッサはケースやバンドの素材に、軽量かつ堅牢でサビにも強いスーパーチタニウムを採用。「スポーティとエレガントのふたつの調和」をデザインテーマにしており、アクティブさと上品なたたずまいが両立した洗練されたシルエットを持っています。

ちなみにスーパーチタニウム(シチズン時計の商標)とは、チタン素材に対してこれまたシチズン独自の表面硬化技術「デュラテクト」を加工し、硬度を高めたものを指します。ステンレスの約5倍という硬さを持ち、時計のケースやバンドが本当に傷付きにくいのです。

アテッサは、フォーマルなビジネススーツはもちろん、カジュアルな服装にも合わせられる使い勝手の良さもあり、2023年の国内中価格帯(5万~30万円)市場の男性用チタニウム製腕時計ブランドにおいて、売上ナンバーワンの人気を誇ります(ユーロモニター・インターナショナル調べ、スマートウォッチを除く)。


この連載で取り上げるのは、その日の月齢をムーブメント内部で計算して、ダイヤル6時位置のムーンフェイズで自動表示する「ルナプログラム」を搭載したモデルです。取材時点では「BY1006-62E」「BY1001-66E」「BY1004-17X」の3モデルが該当します。1993年にシチズンが発売した世界初(シチズン調べ)の多局受信型電波時計の発売30周年を節目に、2023年7月に登場しました。

新しい腕時計の誕生に大きく関わる企画開発・技術・デザイン

さて、腕時計の新製品が誕生するまでの流れはメーカーによって細かな部分は異なりますが大まかなところは共通です。

新製品の企画を立てる担当者がいて、社内で企画が認められると、技術部門やデザイン部門、製造現場などとすり合わせながらプロトタイプをいくつも作り、品質管理による試験をクリアして量産化が完了。製品が完成すると商談を経て販売店に卸され、店頭やネット経由でユーザーの手に届けられます。このうち新製品の誕生に大きく関わるのは、商品企画、技術、デザインです。

今回はシチズン時計の商品企画センターに所属する3人の担当者にお話をうかがい、1本の腕時計の発案から完成まで、それぞれがどのように関わり、どのような挑戦や課題解決を経て製品化したのかを追いかけます。

次回以降、第2回では数々の新製品の開発を舵取りした商品企画担当の宮原太郎氏に、新製品の開発がどのように始まり、どうやってアイデアを少しずつ形にしていくのかを聞きます。第3回ではルナプログラム誕生のキーマンであり、以前は技術部門に在籍していた商品企画担当の原口大輔氏に、技術部門が製品開発にどのように関わっているのかを語ってもらいました。

第4回では、工業デザイナーであり2級時計修理技能士でもある、デザイン部チーフデザインマネージャーの井塚崇吏氏に、腕時計のデザインがどのように決まっていくのかを解説してもらいました。第5回では全体を振り返り、製品発売後の取り組みやこぼれ話などを紹介する予定です。
お楽しみに!!

著者 : 諸山泰三 もろやまたいぞう PC雑誌の編集者としてキャリアをスタートし、家電流通専門誌の編集や家電のフリーペーパーの編集長を経験。現在はPCやIT系から家電の記事まで幅広くカバーするフリーランスのライター兼編集者として東奔西走する。地元である豊島区大塚近辺でローカルメディアの活動にも関わり出した。好きなお酒にドクターストップが掛かり、血圧を下げるべく、体質改善に努める日々を送る。 この著者の記事一覧はこちら
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