俳優の竹野内豊が主演を務める映画『雪風 YUKIKAZE』(8月15日公開)の完成報告イベントが開催され、竹野内と共演の玉木宏、奥平大兼が登壇した。
今から、80年前、平和な海が戦場だった時代、数々の激戦を最前線で戦い抜いた駆逐艦「雪風」は、僚艦が大破炎上していく中、絶えず不死身ともいえる戦いぶりを見せ、主力である甲型駆逐艦38隻のうち、ほぼ無傷で終戦を迎えたのは「雪風」ただ一艦のみだった。
作品のタイトルは、この「雪風」からとられている。「雪風」は、常に戦場に留まると、沈没する僚艦から海に投げ出された仲間たちを救い、ともに帰還させた。作品は、その知られざる史実を背景に、太平洋戦争の渦中から戦後、さらに現代へと繋がる激動の時代を懸命に生き抜いた人々の姿を描き出す。
「雪風」艦長・寺澤一利には竹野内豊、先任伍長・早瀬幸平には玉木宏、若き水雷員・井上壮太には奥平大兼、早瀬の妹・サチには當真あみ、寺澤の妻・志津に田中麗奈、志津の父・葛原芳雄に益岡徹、帝国海軍軍令部作戦課長・古庄俊之に石丸幹二、実在した第二艦隊司令長官・伊藤整一には中井貴一がそれぞれキャスティングされている。
7月9日、本作の完成報告イベントが実施され、竹野内、玉木、奥平が登壇し、本作について語った。
竹野内は、本作の脚本を読んで「国を守る駆逐艦の長であり、また多くの乗員、彼らに関わる全ての大切な人々の命を守らなければならない艦長の重責を想像することは容易ではなかった」と明かした上で、「撮影を進める中で、乗員を演じたキャストの皆さんの一致団結した姿に、いつのまにか艦長にしていただいた」と語った。玉木は、これまでにも戦争を題材とする映画に複数出演してきたが、「先任伍長は船のことを知り尽くしている人物。現場の人間感を大事に演じた」とこれまでの役柄との違いをコメント。奥平にとっては、本作が初の戦争映画出演となったが、「学生時代に戦争について勉強することをあったが、台本を読んで知らないことだらけだったと気づかされた。本作で描かれる当時の人の生活や思いを、若い人たちに届けたいという思いで取り組んだ」と明かした。奥平は劇中のナレーションも務めており、「最初は僕でいいのかな、という思いもあったが、井上として読むことによって、さらに先の未来の人たちに繋いでいくという意識を持つことができた。任せてくださってありがたかった」と語った。
意外にも本作が初共演となる竹野内と玉木であるが、竹野内は「役柄上、現場で多くことを語ることはなかったものの、鍛え上げられた体格や響き渡る声で、はじめから先任伍長として存在されていた」と初共演の印象を振り返った。玉木は「ご一緒する前から物腰の柔らかな、穏やかなイメージがあったが、現場でご一緒して改めて繊細な優しさを持っている方だと感じた」と明かし、「イベントの会場に向かう途中の車でも、エアコンの風がみんなに届くよう、一つひとつ吹出し口を調整してくださっていた」というエピソードで会場を和ませた。
直接の上司と部下として対峙するシーンが多かった玉木と奥平。奥平は印象的なシーンとして艦(ふね)の点検をしながら初めて二人きりで話すシーンを挙げ、「対人間として話をしている心地よさがあった。言葉にするのが難しいような不思議な絆があった」と早瀬と井上の関係性を振り返った。対して玉木は「本作は早瀬が井上を助けるところから始まり、井上の心の変化を感じることができる作品になっていると思う。奥平さんの真っ直ぐな人柄と相まって、井上がとても魅力的な人物として存在していた」と賛辞を贈った。二人を艦長として見守っていた竹野内は「雪風の乗員たちは、たとえ上官相手であっても意見や冗談を言えるような、良い関係性を築いていたのだと思う。それは相手に対する敬意を持ちながら、自分の信念をもっているからこそできることであり、それは現代においても大切なことだと感じた」と語った。
艦長として、士官たちとの穏やかな会話から一転、戦闘が始まると的確に指示を出す必要があった竹野内は、撮影前に横須賀基地を訪ね、護衛艦「やまぎり」の見学をしたそうで、「模擬戦闘の模様を拝見する中で知った、戦時中から受け継がれている号令をかけるときのイントネーションを参考にした」と役作りの一部を明かした。また緊迫した戦闘シーンだけでなく、水雷員同士の和気あいあいとしたシーンもあった撮影現場について、玉木は「戦火の中の厳しい時間もある一方で、若者としての過ごす時間は現代の人ともそんなに変わりのないものだと思った。その緩急をお芝居の中で見せられたらと思っていた」と語った一方で、奥平は「水雷員のキャストに サディスファクション・渋谷さんという芸人さんがいらっしゃって、その方がすごい数の一発芸を見せてくれた」 という、活気に満ちた船員たちのシーンの裏側を明かした。
完成した映画を観て、奥平は「水雷員みんなで羊羹を食べるシーンに、彼らの人間性が垣間見えた」と、玉木は「寺澤艦長との会話の中で『普通がいいな』と言うシーンがあるが、普通の、目の前にある幸せの大切さが伝わるといいなと感じた」と本作で描かれる「普通の幸せ」が印象に残ったと明かした。竹野内は「何よりも、当時の人々の精神性の高さには心を打たれるものがあった。誰かのために生きた証は、どんなに月日が経っても多くの方に感動を与えられる、と感じることができた映画だった」と語ったうえで、「雪風」がなぜ「幸運艦」 と呼ばれるようになったのか、その理由については「この映画を観て、日ごろ何気なく使っていた『助け舟』という言葉について考えさせられた。船員の強い精神力によって『雪風』は“幸運艦”となったのではないか」とコメントした。
最後に、これから映画を観る人々に向けて、奥平が「特に若い人たちに興味を持ってほしい。自分自身 この映画を通して知れて良かったことがたくさんある。それを他の若い世代にも感じてほしい」、玉木は「たった80年前の出来事であること。そのことが戦争を知らない世代にも届いてほしい。そして、今を一生懸命に楽しく生きることが未来につながっていく、と感じてほしい」とメッセージを贈った。そして竹野内が「今となっては遠い昔のように感じられるが、単なる歴史の1ページとして終わらせてはいけないと思う。どんな資料や体験談から学ぶことがあったとしても、本当に戦争の恐ろしさを知ることはできない。当時を生きた人々の心情を、映画で体感することで、情景としてより深く皆さんの心に残せたらと思い、キャスト・スタッフ一同一丸となって作り上げた。
多くの方に広く届くことを祈っています」と締めくくり、完成報告イベントは幕を閉じた。
(C)2025 Yukikaze Partners.
【編集部MEMO】
山田敏久監督は、『空母いぶき』と『山本五十六』のほか、映画評論家・水野晴郎氏がマイク・ミズノ名義で監督した超名作『シベリア超特急』で助監督を務めていた。長編映画の監督は本作が初となる。また、スーパーバイザーとして、『ローレライ』『戦国自衛隊1549』『亡国のイージス』などの作品で知られる福井晴敏氏が名を連ねている。
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