2025年8月1日に発売予定の『令和7年版 将棋年鑑 2025』には、藤井聡太竜王・名人インタビュー「将棋のこと、詰将棋のこと」が掲載されています。記事の一部をピックアップしてお届けします。


『将棋年鑑』では恒例となっている藤井竜王・名人のロングインタビュー。今年は詰将棋作家の若島正さんがインタビュアーです。詰将棋界のつながりで藤井竜王・名人とは気心の知れた若島さんならではの深く鋭い会話が見ものです。

○タイトル戦を振り返る 王将戦

まずはタイトル戦回顧からのひと幕。藤井竜王・名人が初めて2手目に△3四歩と指したことで大きな話題となった王将戦第5局です。考えてみれば△3四歩が大きな話題になるということ自体が藤井竜王・名人という存在の大きさを示していますね。

――第5局では藤井竜王・名人が公式戦で初めて2手目に△3四歩として雁木模様にいったのが話題になりました。永瀬九段の話では、前日から藤井竜王・名人の様子がおかしかったということでした(笑)。

「ははは(笑)」

――それで△3四歩! あ、やっぱりそういうことだったかと。藤井竜王・名人がそわそわしておられたという。

「いや、私はまったくそういう自覚はなかったです。もちろん、その前の段階でやろうと決めていたので、それが態度に出ていたということにしておきます(笑)」

永瀬九段の鋭い感性が、本人も無意識の異変を察知した、ということなんでしょうか?
真相は闇の中ですが、永瀬九段なら藤井竜王・名人のわずかな気配の違いに気づいたとしてもどこか納得できますね。

○タイトル戦を振り返る 叡王戦

続いて、初めての失冠となった叡王戦第5局。

「第5局は▲6六銀直と立つところまでは事前に研究していました。相当珍しい手筋なので、こういう風に進めばやってみたいなと思っていました。その後もこちらが攻めていく展開になったんですけど、伊藤さんに決定打を与えないように受けに回られて、反撃されたときに、こちらがうまくバランスを取れませんでした。ただ、内容としては精一杯考えたというところもありますし、結果は残念だったのですけど、それについては悔いなしというか、第5局については自分なりに集中して戦えたのかなと思っています」

――ファン目線で見ても本当に大熱戦で、どちらが勝ってもすごいと思う将棋でした。これで初めて失冠ということになったんですけど、残った課題というものはあるでしょうか。

「この叡王戦についてでいうと、持ち時間が少なくなってから伊藤さんに上回られてしまったということが、シリーズ通して多かった印象です。時間配分であったり、持ち時間が少なくなってからどう戦うかというところで、課題が残ったというか、そこで差がついてしまったのかなと思います」

自身の敗局を振り返り、反省点よりも先に満足感を口にしました。常にストイックな藤井竜王・名人にしては珍しいことのように見えます。それだけこのシリーズはお互いの力を出し切れたという実感が深かったのでしょうね。
○初入選作品

話題は詰将棋に。藤井竜王・名人が9歳の時に将棋世界で発表された初入選作品は、指し将棋の延長線上では発想が難しい、いかにも詰将棋作家といった作品でした。


――将棋世界に初めて入選した9歳の時の作品がこれですね(図)。

――▲5二飛不成で△3二桂合と進みます。不成と桂中合が入って、それが初入選ということですけど、ふだん教室で与えられて解いている問題には不成とか中合というのはあまり出てこないように思います。実戦には出てきませんから。だから初入選でこの筋というのは、それまでにどこかでこういう不成や中合を目にされてるからだと思うんですけど。

「教室でやっていた詰将棋は昔の本からも出題されていて、アマチュアの作家の方の作品も多かったんじゃないかなと思います。その中にそういう作品があったということもありましたし、詰パラも読んでいるうちに、実戦とは違った手順に憧れるところが出てきたのかなと思います」

――私は山下数毅三段のお父さんと知り合いで、まだ山下三段が小さいときにお父様から、うちの息子が詰将棋に興味を持っているという話をうかがって、『詰将棋のどういうところが面白いって言ってますか?』とたずねたら、『飛車不成が面白い』という答えだったので、藤井竜王・名人と共通点があるんじゃないかと(笑)。

「ははは(笑)」

思わぬところで藤井竜王・名人と山下三段の共通点が見出されました。詰将棋を通して天才少年たちを数多く見てきた若島さんならではのエピソードですね。
ちなみに藤井少年が作った詰将棋は、▲5二飛不成△3二桂▲3二飛不成△2二桂▲1三歩△2一玉▲2二飛成△同玉▲3三歩成△2一玉▲2二と△同玉▲3四桂△2一玉▲3三桂打△3二玉▲4二歩成まで17手で詰みます。
編集部おすすめ