ECサイト構築サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ」を活用し、ネットショップでの販路拡大や事業成長に取り組む事業者をご紹介します。
「受け継がれてきた味噌づくりを守るために、味噌には手を加えない」光浦醸造工業株式会社は、山口県防府市で160年続く味噌屋です。
今回は、揺るぎない信念のもと、一般消費者向けの新商品開発やECサイト運営に力を注ぎ、自社ブランドを唯一無二の存在へと育て上げてきた8代目、光浦健太郎さんにお話を伺いました。
○家業を継いで、見えてきた課題
光浦醸造は、地元・山口県で160年にわたり味噌や醤油を製造してきた老舗。
8代目の光浦さんは、高校卒業時には家業を継ぐことを決め、東京農業大学で醸造学を学んだのち自社に入社しました。
「僕が入社した時は、個人向けの商品というのはなくて、業務用として地元の病院や学校に卸すなど、卸が中心でした。」
また、当時は特定の大きな取引先に売上の大部分を依存していたため、景気が悪化したりすると入札制になることも。そうなると、売上が大きく減少してしまうリスクがありました。
そこで「リスク分散のためにも、個人向けの商品を増やしていかないといけない」と光浦さんは考えたそうです。
○“衝動買い”から始まったECへの挑戦
光浦さんがECに取り組み始めたのは、2003年ごろのこと。家電量販店で偶然手に取った「ホームページビルダー7」がきっかけでした。
「味噌づくりは手間暇がかかるっていうじゃないですか。確かに手間もかかるんですが、その後は微生物がやってくれるところもあって、仕込み後の時間が長いので何かできないかと考えていました。
そのとき、たまたまソフトを見かけて、HPを作ってみようと思ったんです。」
光浦さんはホームページの作り方を独学し、一般のお客さん向けにネットショップを始めてみたそうです。
「ホームページに商品を並べてみたら、一番小さい商品が20kgの味噌桶や一升瓶6本入りしかなくて(笑)。
こうしてEC導入と並行して、個人向け商品の開発がスタート。 最初はお味噌を小さくしたり、ポン酢をつくったりと、新しい商品を開発するようになり、小売事業の基盤が築かれていきました。
○“変えない”選択が、新たな価値と技術を生む
家庭用にリサイズしても、味噌は重量があるためネットショップでは送料がそれなりにかかってしまいます。
ですが光浦醸造では、「味噌は変えたくない。」という強い思いがあるそうです。
「かつては添加物を使用していた時期もありましたが、10年かけて添加物をなくしていき、味噌については完成形としてゴールしています。だから売上が落ちてきたからといって、味噌をアレンジした商品を作りたくはないんです。」と光浦さんは語ります。
では、どうすれば味噌を作り続けられるのか? と考えたところ「味噌は味噌として、これまでどおり真面目につくり続ける。そのために、他の商品で売上を作っていくことが必要。」という結論に至ったそうです。
そこで、何か軽くて付加価値のある商品をつくれないかと考えていたとき、業務用の乾燥機を扱う友人の会社へ訪れました。
タバコの葉を乾燥させる機械でしたが、タバコの需要減少を受け、食品への転用について友人と話していたところ、試験室にあったオレンジの輪切りが目についたそうです。
「今では輪切りのドライフルーツはあまり珍しくないかもしれませんが、14、5年前にはなかったんです。こんなことができるんだと驚きました。」
乾燥したレモンと紅茶がセットになったレモンティーを作れないかと、その時ふと閃いたそう。
「柑橘の輪切りの乾燥って実は難しいんですよ。色も形もきれいなまま、均一に乾燥するには、特殊な技術が必要なんです。多くの方が真似しようとしましたが、長年の研究で培ったうちならではの技術があるため、簡単には真似できないんです。」
パッケージデザインも独学でデザインを学び、自作しています。
シンプルなデザインで、長く愛される商品を目指しているそうです。
こうして、「変わらず味噌を作り続けるため」の新たな看板商品が誕生しました。
○未来を切り拓く、変わらない信念と変わる手法
そして現在、光浦さんのものづくりの中心にあるのが、AIを取り入れた商品開発です。実際に、この夏に発売された「スースーレモン」も、AIとの“相談”から生まれた商品だといいます。
「うちに夏に売れる商品がなかったんですよね。そこで、“夏に売れる、面白い商品を作れないか”とAIに相談したことがきっかけでした。」
市場にはまだない商品だったので、たとえば“どうやってミントの香りをつけるか”など、AIと一緒に細かい部分まで検討しながら開発していったとのこと。
「これから、ものづくりは絶対に見直されていくと思うんです。
AIは、アイデア出しから分析、さらには製造プロセスまでをサポートしてくれる存在。これにより、商品開発のスピードは劇的に向上していると実感しているそうです。
「AIと深く考えながら開発すると、Googleにも載っていないようなアイデアを形にできるんです。僕は、検索すれば出てくるようなものは作りたくない。だからこそ、AIと相談して“世の中にまだないもの”を作っていく。これはメーカーにとって画期的なアプローチだと思っています。」
現在は、「スースーレモン」に加え、「味噌づくりキット」など、AIとの共同開発による新商品も続々と展開予定です。
○挑戦し続ける老舗の使命
全国的には米味噌が主流ですが、山口県では九州と同じく、麦麹でつくる「麦味噌」が昔から親しまれています。実際、山口の人の8割は麦味噌派だとか。
そんな地域に根づく味噌文化を、光浦醸造はずっと大切に守り続けてきました。ただ、それは“何も変化させない”という意味ではありません。
実際、味噌作りなどで培った醸造技術を生かし、自家製発酵種パン「ebb&flow」の販売をスタート。味噌とは異なる切り口で、発酵を通じて食の楽しみを広げる“唯一無二のパン屋”を目指しています。
「ある程度の規模がないと、文化って守れないと思うんです。たとえば“麦味噌の代表”みたいな存在になって、技術ごとちゃんと残していくことが必要で。そのためにも、もっとちゃんと儲けていかないといけないなって、最近よく考えますね。」
真面目にコツコツと“作ること”に向き合ってきたからこそ、事業としての健全なバランスにも目を向けるようになったといいます。
「アイデアを出したり、デザインしたりするのも大事なんですけど、最終的には“作る”ってところにたくさんの手や時間が必要になる。だからこそ、ちゃんと“売って”、次につなげていかないといけない。ものづくりって、売って届けて、使ってもらって、ようやく完結するものだと思ってるんです。」
その一環として取り組んでいるのが、レシピの公開や、使い方の提案など。
光浦醸造では「買って終わり」ではなく、「ちゃんと使ってもらえる」ことを意識した環境づくりにも力を入れています。
○ECの成長と、新しいチャレンジ
オンライン販売も順調に売上が伸びていき、この半年の売上は前年比で約200%に。
もともと大きな数字ではなかったとはいえ、しっかりと手応えを感じているそうです。
「ここからさらに200%ずつ伸ばしていくのは簡単じゃないです。でも、他の会社の話を聞いていると、不可能ではない気もしていて。だから今は、“前年比200%”をちゃんと目標として掲げています。」
この数字の裏には、メルマガや広告といった、これまで避けていた施策へのチャレンジもありました。
「正直、僕自身がメルマガをもらうのが嫌いなんですよ。だから、ずっとやらないでいたんです。でも実際に始めてみたら、想像以上に反応があって。早くやっておけばよかったなって思いました。(笑)」
広告についても、「やらない」のではなく「できなかった」が本音だったそう。
「広告って、お金がかかるじゃないですか。だから避けていたんですけど、去年の12月にInstagram広告を出してみたんです。そしたら、そこからの流入がすごくて。
ただ、メルマガにも広告にも“ネタ”は必要。ここでもまた、ものづくりのサイクルが重要になってきます。
「メルマガって、何か変化がないと出せないんですよね。新商品があるとか、イベントがあるとか。じゃないと書くことがない。結局、ホームページを作ったときと同じで、“売る”ためには“作る”が必要なんだなって、つくづく思います。」
○味噌を変えず、届け方を変える
創業160年の味噌蔵・光浦醸造は、長年守り続けてきた麦味噌の味を変えることなく、その価値の伝え方や届け方を大きく見直してきました。
もともと業務用が中心だった販路を、個人向けへと広げるなかでECを導入し、家庭向けサイズの商品や新商品を企画。さらに、広告やメルマガによる発信にも取り組み、売上は前年比200%と大きく伸長しました。そして、優秀なネットショップを表彰する「カラーミーショップ大賞2025」では、地域賞を受賞されました。
加えて、AIを活用した商品開発では、既存の枠にとらわれない視点で、「スースーレモン」など新たな試みにも挑戦しています。大切にしているのは、検索結果の中にはない、自分たちならではのアイデアを形にすること。時間と手間がかかるものづくりを、いかに次につなげていくかを常に考え続けています。
“味噌は変えない。でも、売り方は変える。”
その柔軟な姿勢こそが、これからの老舗に求められる新しい在り方かもしれません。
次回は、長野県長野市と木曽郡開田高原に店舗を構える自家焙煎のコーヒー豆専門店のEC活用事例をご紹介します。
よむよむカラーミー編集部 よむよむカラーミーは、ECサイト構築サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ」の公式Webメディアです。ネットショップ運営に役立つノウハウや成功事例、最新トレンドをわかりやすくお届けします。https://shop-pro.jp/ この著者の記事一覧はこちら