組織変革や、高いパフォーマンスを出す組織を作るというテーマで勉強すると、いつも心理的安全性の大切さが訴えられています。読者の皆さんも、この「心理的安全性」という言葉を聞いたことがあると思います。
Googleが高いパフォーマンスを出すチームの成功要因を調査した「プロジェクト アリストテレス」はとても有名です。それによると、高いパフォーマンスを出すチーム作りには、次の5つの成功要因があります。どれも大事ですよね。そして心理的安全性は、その他の4つの要因の土台になります。
・チームの「心理的安全」(Psychological safety)が高い
・チームに対する「信頼性」(Dependability)が高い
・チームの「構造」が「明瞭」(Structure & clarity)である
・チームの仕事に「意味」(Meaning of work)を見出している
・チームの仕事が社会に対して「影響」(Impact of work)をもたらすと考えている
心理的安全性とは、仲間が互いに信頼して素直に自分の意見が述べることができ、リスクを取っても非難や罰を受けることなく安心して行動でき、自分らしくいられる状態のことを言います。
米倉涼子さんの有名なドラマのフレーズに「私、失敗しないので」がありますが、残念ながら人間は失敗するのです。ますますチームとして働く場面が多くなる近代の職場環境では、失敗を許容して次につなげるために心理的安全性が大事になります。
ただし、失敗には3つの種類があります。避けられた失敗、複雑な要因が絡みあった失敗、賢い失敗です。賢い失敗は、新しいことを始めて失敗して研究できるような失敗です。どれも失敗をしてしまったら、そこから学び修正する必要はありますが、やはり賢い失敗を増やすべきですね。
○心理的安全性の効果と特徴
心理的安全性について解説した書籍『恐れのない組織 ――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(英治出版 著者:エイミー・C・エドモンドソン)では、医療チームを分析して、高いパフォーマンスを出すチームとそうでないチームの要因を分析しています。
同書によると、高いパフォーマンスを出すチームは、なんとミスが多かったそうです。不思議に思って調査を進めると、ミスが多かったわけではなく、他のグループと比較してミスの報告が多かったのです。
犯したミスをオープンに共有して、同じミスが再度起きないようにすることで、高いパフォーマンスが出せるのです。実際のミスも少なかったそうです。これが心理的安全性の効果です。
この心理的安全性が高い組織では、以下のような効果が期待できます:
・イノベーションの促進:メンバーが自由にアイデアを出し合えるため、新しい発想が生まれやすい
・生産性の向上:チーム内のコミュニケーションが活発になり、業務の効率が向上する
・離職率の低下:安心して働ける環境が整うことで、メンバーの定着率が高まる
・チームの協力関係の強化:メンバー同士が助け合い、互いに支え合う文化が醸成される
心理的安全性が高い成熟した組織には、以下のような特徴があります:
・メンバーが自由に意見を述べられ、異なる視点が歓迎される
・チーム内での信頼関係が強く、協力し合う文化が根付いている
・失敗を責めるのではなく、成長の機会として活用する
・異なる価値観や意見を尊重し、柔軟な対応ができる
・メンバー同士が積極的に助け合い、仲間としての安心感がある
皆さんの職場はどういう状態でしょうか?難しいのは「失敗を責めるのではなく、成長の機会として活用する」です。筆者もそうですが、人は失敗を公開することをためらいますからね。
逆に、心理的安全性が低い組織では、発言や質問が少なかったり、次のアクションが実行されなかったり、連絡が滞ったりします。最悪な場合には生産性が低くなり、社員の離脱率が上がります。怖いですね。
○心理的安全性で留意すること
心理的安全性を高める際に留意することがあります。
心理的安全性がある雰囲気の中、異なる意見も含めて素直に意見を言えることが大事です。いろいろな意見をぶつけ合って、最後にそのときの最高の意思決定をすれば良いのです。効果が出なかった場合は、素直に反省して迅速に修正するのです。
次に、「心理的安全性が高いことは、業績目標が甘く、なんでも許される環境ではない」ということです。それは、英語でよく言われるカンファタブルゾーン(快適ゾーン)です。これは、快適だから現状にとどまっている状況で、米国では悪い言葉として使われます。日本語では「ぬるま湯」などというのでしょうね。心理的安全性が高く、かつ、業績目標が高い状況を目指さないと、「プロジェクト アリストテレス」のようにはならないのです。
○心理的安全性を高めるためには
心理的安全性を高めるためには、組織文化やリーダーシップの在り方を意識的に変革することが重要です。成熟した組織では、心理的安全性が自然に根付いており、メンバーが安心して意見を述べ、挑戦できる環境が整っています。そのためには、以下のような取り組みが有効です。
○オープンなコミュニケーションの促進
メンバーが自由に意見を述べられる雰囲気を作り出す。
フィードバックを積極的に行い、建設的な議論を促進する。
○リーダーシップの変革
リーダーが自らの失敗や課題を共有し、率直な対話を促す。
メンバーの意見を尊重し、意思決定に参加させることで信頼関係を構築する。
○心理的安全性を評価指標に組み込む
チームの心理的安全性を測定し、改善点を明確にする。定期的にアンケートを取り、進捗状況をトラッキングにするのもよい。
業績評価に、新しいことをやることでプラスになる仕掛けを入れる。
○失敗を学びに変える文化の醸成
失敗を責めるのではなく、学びの機会として活用する。
振り返りの場を設け、チーム全体で改善策を考える。営業であれば、失注したときに、それを共有して、今後の商談にいかす。どうせ3分の2は失注しますからね。失注機会をいかさな、損、損です。
○多様性の受容と支援的な環境の構築
異なる意見や価値観を尊重し、メンバーが安心して発言できる環境を整える。
相互支援の文化を醸成し、チームの結束力を強化する。
どれも短期間で効果を出すことは難しいです。じっくり取り組みましょう。
○まとめ
心理的安全性は、チームの生産性向上やイノベーションを促進する重要な要素です。これを高めるにはリーダーシップが大事で、オープンなコミュニケーションや支援的な文化を醸成し、リーダーが率先して信頼関係を築くことが求められます。まずは、上記の書籍『恐れのない組織 ――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』を読むことをお勧めします。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。