『無用庵隠居修行』第9弾9月放送

俳優の水谷豊、岸部一徳、檀れいが出演するBS朝日の時代劇ドラマ『4K時代劇スペシャル 無用庵隠居修行9』が、9月23日(19:00~)に放送。このほど、京都のスタジオで撮影を終えた3人が取材に応じた。

直木賞作家・海老沢泰久原作の短編時代小説『無用庵隠居修行』を水谷豊×吉川一義監督のコンビでドラマ化した、笑いあり、涙ありの痛快エンターテインメント時代劇は年1回のペースで放送され、今回が第9弾。
半兵衛(水谷)が無用庵で隠居生活を送る中、幕府が非常用の米を貯蔵していた義倉が襲われる事件が発生。その裏で暗躍する藩の陰謀を暴くため、半兵衛が仲間とともに事件の真相に迫るというサスペンスフルなストーリーが展開される。

もちろん半兵衛と、半兵衛に付き従う用人・勝谷(岸部)、半兵衛の妻・奈津(檀)のコミカルで軽快なやりとりは健在。3人が撮影を振り返りながら、恒例の変装シーンや今後のシリーズへの思いなどを語った――。

○『無用庵』は家に帰ってきたような感じ

――『無用庵隠居修行』も9作目となりました。1年ぶりに3人のシーンを演じられた感想は?

水谷: 例えば夫婦なんかでいうと、よく“空気みたいな関係”って言うじゃないですか。僕はあんまり私生活ではそう思ったことはないんですけど、このドラマの中ではそれがちょっと分かってきましたね(笑)

岸部:空気みたいな感じっていうのは何となく分かる気がするんですけど、空気に慣れるっていうのはなかなか難しくて。どこかで意識があったりするんですけど、この3人は無理もなく、自然に、家族みたいな感じで1年に一度出会えるので、空気には慣れているのかなと。いい空気だなと思います。『無用庵』というドラマは、他では感じない不思議なものがあって、家に帰ってきたような感じとか、3人の組み合わせがもう本当に自然で楽しいですね。

壇:空気みたいな存在って、すごくうれしいですね。このドラマが始まった9年前には、今まで水谷さんと一徳さんがご一緒に積み上げてきた長い年月、呼吸というものがあって、その中に私はどう入っていけばいいんだろうっていうのを思ってたんですけれども、こうやって回を重ねて、毎年1本ずつ丁寧に作っていって、そこで「空気みたい」って言っていただくと、すごくうれしいです。
やっぱりお芝居してるのかしてないのか、自然に見えることが役者にとっては一番うれしいことなので、今、水谷さんからいいお言葉を頂いたなって思いました。

――本作の見どころのひとつである変装のシーンはいかがでしたか?

水谷:ある時から気がついたら、毎回変装してるんですよね。ですから、今や台本を読む時に、「次はどんな変装をするんだろう?」と楽しみになっています。今回は店の主(あるじ)をやりましたけれども、ここだけ別人になれるので、本当に面白い。変装して潜入したり、悪を騙したり、いつもここで重要なことがわかるとても大事なシーンなのに、それをコメディで表現するのは今年も楽しかったです。

岸部:僕は水谷さんの後ろに控える番頭さんの役で、楽しくやらせてもらいましたけど、水谷さんを見ている方が楽しかった(笑)
○楽しみで楽しみで仕方がなかった立ち回り

――非常に楽しい雰囲気が伝わってきますが、逆に苦労したシーンなどはありましたか?

水谷:あんまりやってることが大変だって思わないので…あ、でも立ち回りですかね。僕は本格的に立ち回りというのは勉強したことがなかったので、いつも自分の中ではうまくできるかどうか心配だったんですけれど、去年、殺陣師に指導してもらううちに「立ち回りってそうか!」って分かったんですよ。なので実は、今年は立ち回りが楽しみで楽しみで仕方がなかったんです。10年近くやってやっと立ち回りって何なのか、どうやればいいのかが分かった。だからそういう意味では、いつも大変だったことが今年は楽しかったですね。

壇:吉川監督の作品って大変なことも楽しいと思っちゃうというか。すべてが楽しいですよね。
いつも皆さんで笑ってます。

水谷:確かに台本を読んで、「ここ大変だろうなぁ」と思うシーンは必ずあるんですよ。でも、いい監督と仕事をすると、大変なシーンが大変じゃなくなるんですね。

壇:不思議ですよねえ。苦労したところはないというか…。

岸部:いつも感心はしますけど、大変と思ったことはないですね。こんな大変なシーンをこんなふうに撮って、こんな面白くするんだっていう。そんな発見がいつもありますのでね。だから、よそから考えてみたら大変なシーンだろうけど、出ている側にしたら全部楽しさにつながっている気がします。

――半兵衛と奈津の夫婦役もすっかり板についたかと思いますが、お2人が夫婦として演じたシーンの感想は?

水谷:今回は我々が作った畑に泥棒が入るシーンがあって、あのときの奈津が面白かったですね。新しい妻を見たような新鮮な気持ちでした。このドラマでは、妻以外の女性には目もくれないように、妻だけって思おうとしてるんですけれども、これがなかなかそうはならない。
今回も「奈津だけだ」って言うシーンがあるんですけど、どうもウソくさいんですね(笑)。「男ってこうなんだろうなぁ」って思いながらやってます。理想は奈津だけになるといいんでしょうけども、(小声になって)なかなか理想通りにいかない。奈津さん、どうですか?

壇:今回、半兵衛様と一緒にお芝居したときに、番組のプロデューサーがご覧になっていて、「いいご夫婦の感じがよく出てます」ってぽろっと言ってくださったのがすごくうれしくて。そういう空気感をまとうことができていてよかったなあなんて思ってたんですけど、よくよく自分の役を振り返ってみると、回を重ねることにどんどん奈津が強くなっていってるんですよ(笑)。女の性(さが)なのか、最初は好き好きって半兵衛様を追いかけてたのが、今はどっかりと尻に敷いているかのような強さが出てきていて面白いなあと。奈津が強くなっていってるのをすごく今回感じました。

――そんな奈津のキャラクターについて、檀さん自身ははどう捉えていらっしゃいますか?

壇:この役を演じるにあたって、最初に監督から「おてんばであってほしい」ということを言われて。時代劇ですと所作があったり、おしとやかで楚々(そそ)として…って感じなんですけれども、この奈津を演じる時はおてんばが許されているので、そこは1作目から楽しんでやっていました。この格好で魚釣りもしましたし、遊女に化けて辻斬りをおびき出したり…時代劇なんですけど、何でも飛び込んでいろんなことをやっちゃおうっていう楽しい役ですね。

ふっと2人で出会って、2人で芝居ができる

――水谷さんと岸部さんは、ドラマ『相棒』でも上司と部下という関係で共演されています。『無用庵』では上司と部下の立場が逆転していますが、2人だからこそのやりやすさのようなものはありますか?

水谷:後にも先にも、岸部一徳さんを呼び捨てにする役なんていうのは、このドラマだけだと思うんですよ。そういう意味でも特別なドラマですね。
呼び捨てや命令をしていいわけですから。

岸部:役ですからね(笑)

水谷:役ですから、これは誰にも味わえない楽しみ。今、公にしましたけれども、密かな楽しみではありました。あとは、『相棒』の時からそうなんですけど、2人で芝居の打ち合わせとかしたことがないんですね。いつもその時にふっと2人で出会って、2人で芝居をするということができるので、僕にとっては毎回とても楽しいですね。

岸部:まあ、長い付き合いっていうんですかね。自分の人生と一緒に、水谷豊さんがずっと一緒だったような気がしますけど。僕が時代劇は面白いなあと最初に思ったのが、かつらをつけたり、着物を着たり、刀を差したりして隠してるんだけど、人間性っていうのは『相棒』の時よりも見えるときがある。水谷さんの『相棒』とは全く違うところの魅力っていうのが、時代劇だからこそ出ているような気がして。それを見る人が無意識に見つけてるんじゃないかなと思ったりします。だから、一緒にやって楽しいとかそういうのを通り越して、何かがもう僕の中にはある。説明はできないんですけど、一緒にいてちょっと幸せを感じますね。

「次回もあるんじゃないですか」「切に願っています」


――まだ分かりませんが、もし次があるなら節目の10作目になります。今後のシリーズにかける思いは?

水谷:思えば、最初に始まった時はビジターのような気持ちだったんですね。でも、ある時からホームに戻ってきたような感覚になった。なかなかそんな思いになる仕事というのはないと思います。そういう意味では、できる限りやりたいなというのが本音ではありますけれども。もし次があるとしたら……うーん、あるんじゃないですか(笑)

岸部:とうとう言いましたね(笑)。このドラマって年を取っていくじゃないですか。僕が一番年上なんですけど、ちょっとずつ何かが衰えるのを全部受け入れてくれるドラマなんです。それが他にはないところ(笑)。年を取ることに何の抵抗もないって珍しいですよね。そういうので続いていくならば、楽しいだろうなと思います。

壇:お2人のお話を伺っていると、これは10・11・12…と続きますね(笑)。
でもそういうふうに続いていったら、こんな幸せなことはないっていう作品ですし、監督、スタッフの皆さん、出演する私たち、もちろん視聴者の皆さんも、小さな子どもから年齢を重ねた人生の大先輩たちまで、幅広い世代の方がこの作品を本当に楽しんでくださっているので、水谷さんと一徳さんの予言通りになることを私は切に願っています。

水谷:仮の話ですよね?(笑)
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