声優業にもプラスになった舞台経験「作品全体を俯瞰的に見られるように」
2022年の初舞台から3年、再び『ゲゲゲの鬼太郎』の舞台で“ねこ娘”役を演じることになった上坂すみれ。初めての舞台で得たかけがえのない経験と学びを胸に、今回は「楽しむこと」を大切に新たな物語に挑む。声優として、そして一人の表現者として、上坂が見つめる舞台の魅力や役へのアプローチ方法などを語った。「2022年の舞台から3年ぶりに、またねこ娘を演じさせていただけると聞いた時は、本当にうれしかったです」と語った人気声優の上坂すみれ。彼女にとって『ゲゲゲの鬼太郎』の舞台は、人生で初めて経験する大きな挑戦だった。
「私としては、前回の舞台が本当に最初で最後という気持ちでした。右も左も分からない中、ベテランの皆さんが一から教えてくださって……。本当に得難い経験をさせていただいた舞台だったなと今でも思います」。
初めての舞台は、声優業とは異なる多くの学びをもたらした。
「声優の仕事では、自分のセリフが終わればマイク前から捌けることが重要ですが、舞台は全く違いました。自分のセリフがない時でも、他のキャラクターのセリフや動きにどう心を動かされ、自分のセリフに繋げるかという“空間的な”お芝居。セリフがないところでの演技をすごく学びました」。
また、観客からどう見られるかという視点も、上坂にとって多くの刺激になったという。
「お客さんから見てキャラクターが重ならないように立つといった物理的な位置取りや、舞台全体の見え方を俯瞰的に捉えること。そして何より、お客さんからどう見えているかを常に意識することの大切さを知りました。
舞台は端から端まで全てで一つの絵を作っているので、一瞬たりとも気が抜けません。この経験は、声優の仕事でアフレコをする際にも、多面的な台本解釈ができるようになった点で、非常に大きな収穫だったと感じています。自分のキャラクターだけを見るのではなく、作品全体を俯瞰的に見られるようになったのは、初舞台での大きな学びでした」。
そんななか、挑む2度目の舞台。一度経験したからこそ、臨む心構えにもなにか変化が生じたのか。
「私は普段、声優業をしているので、舞台でのお芝居に関しては全くの素人だと思っています。なので、何かが劇的に変わるというよりは、今回もまた色々なことを教わろうという気持ちでいます。前回は割といっぱいいっぱいだったので、今回はできるだけ『楽しもう』という気持ちを大切にしたいなと思っています。強いて言うなら、それが目標になるかもしれません」。
キャラクター性の強いねこ娘。どんなアプローチ方法で、キュートなねこ娘を自身に入れていったのだろうか――。
「最初に舞台でねこ娘を演じるにあたり、もちろんアニメや原作の見直しはしましたが、お稽古が始まると、特定の時期のアニメのねこ娘に寄せるのではなく、自分のねこ娘を作り上げれば良いのだと思うようになりました。
それは共演者の皆さんも、役に寄せるというよりは、役をご自身の特性と上手く調和させているように見えたんです。だから私も、ねこ娘っぽい声を出そうとするよりは、台本を読んでみて『ねこ娘は自分が思っていたよりもしっかり者で、学級委員長のようなタイプかもしれない。人間ともどうにか分かり合おうとする常識のある子なんだな』という骨組みを作り、そのストーリーにおけるねこ娘の性格を理解するという作業から始めました」。
完全新作として作り上げられる本舞台。ねこ娘のキャラクター性にも変化を感じているという。
「今回の衣装は、ブラウスが少しフリルになっていたり、髪色がアニメ6期のような紫色寄りになっていたりとマイナーチェンジがあって、また新しいねこ娘として役に向き合いたいなと思っています」。
2度目の舞台でさらなる成長に期待「多面的に成長できていたらすごくいいなと」
普段は声優として活躍している上坂。生身の役者として舞台に立つことで学ぶことが多かったというが、難しさはどのように感じているのだろうか。「ウィッグもつけて完全なコスチュームで、キャラクターそのものとして1カ月ほど生きるというのは、本当に舞台ならではのすごさだと思います。衣装を着るとスイッチが入り、脱ぐとなんとなく元に戻るという、そのオンオフの感覚も不思議で楽しいものでした。ただ、その場面で何が起きているのかをきちんと把握しないと表現するのは難しい。いかにその場面に没入できるかということが非常に大事だと感じました。
それは難しいというよりは、やりがいのあるポイントなのだと発見できたところです」。
この舞台を通じて、表現者として、さらなる成長を期待しているという。
「舞台を経験すると、声優の仕事では使わないような力が身につくと感じます。シンプルな体力という物理的な部分はもちろん、集中力、読解力、役に没入する力、そしてお芝居を楽しむ心といったものが身につくのかなと。そういった部分も、多面的に成長できていたらすごくいいなと思います。一つの台本に集中する力も養われると思いますし、精神的な力がつくことも期待しています」。
共演者たちとの絆も、彼女にとって大きな力となっている。再度向き合うカンパニーへの期待も大きい。
「前回はコロナ禍という大きな制限がある中で、何も分からない素人の私に対しても、皆さんが本当に優しく、基礎的なことから根気強く教えてくださいました。アフレコとは違い、毎日長い時間をかけて一緒にお稽古をする中で、とても話し合いを大切にされているんですよね。『このシーンはこう思うけど、どう思う?』といったディスカッションがたくさんあり、お互いに疑問点を残さずに場面を作り上げていこうという姿勢は、まさにチームだなと強く感じました。その中で自分なりの意見をちゃんとまとめておくことが習慣づけられるようになったのは、本当に皆さんのおかげです」。
そして、再び立つ明治座という劇場への特別な思いも口にする。
「やはり広いな……ということと、格式高い劇場だと感じます。客席もそうですし、ロビーから舞台裏、楽屋に至るまで、これまで多くの方々がここを通ってこられたのだなという、少しサンクチュアリのような雰囲気があります。行くたびに身が引き締まりますし、実際に立ってみると客席がよく見えるなと思いました。これから台本をいただき、お稽古が始まって、どのような作品が出来上がっていくのか本当に楽しみですし、頑張らなくてはと思っています」。
前作がコロナ禍での上演だったことも、上坂にとってより「楽しみたい」、そして「楽しんでもらいたい」という思いを育んでいる。
「前回とはおそらくガラッと違う舞台設定やキャラクター、ストーリーになっていると思います。前回の東京公演はコロナ禍で半分以上が中止になってしまい、泣く泣く観劇できなかったという方々から、『今回は絶対行きます』というお声を既にたくさんいただいています。そういった方々に『3年待ってよかったな』と思っていただける、良い夏の思い出になるような舞台にしていきたいです。ねこ娘としては、その名に恥じない振る舞いをこれから身につけていきたいと思います。アニメや映像作品とは違う、一期一会の舞台での『ゲゲゲの鬼太郎』を楽しんでいただければうれしいです」。
新たな挑戦への期待と、支えてくれる人々への感謝の気持ち――。
この夏、上坂が演じる新しいねこ娘、そして『ゲゲゲの鬼太郎』の舞台が、観客にどのような感動を届けてくれるのか期待が高まる。
■上坂すみれ
1991年12月19日生まれ、神奈川県出身。2011年に声優デビュー。2013年に「七つの海よりキミの海」でアーティストデビューを果たす。『中二病でも恋がしたい!』の凸守早苗役、『スター☆トゥインクルプリキュア』のユニ/キュアコスモ役、『うる星やつら』のラム役など、数多くの人気キャラクターを演じている。
■舞台『ゲゲゲの鬼太郎 2025』
【東京公演】日程:2025年8月2日~16日 会場:明治座 【大阪公演】日程:2025年8月21日~25日 会場:新歌舞伎座
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