広大な大地に179の市町村を抱える北海道では、地域の持つ課題も多岐にわたっている。それらの課題に対して、デジタル技術を活用して解決するための糸口となる地域課題解決型ピッチイベント「UPDATE179」が8月1日、北海道・札幌のエア・ウォーターの森にて開催された。


○■道内外の企業18社が登壇し、ピッチイベントを実施

北海道の市町村数である“179”にちなんで名付けられた「UPDATE179」には、道内外の企業18社が登壇し、交通、防災、福祉、観光、農業、林業、水産業など、さまざまな分野における課題解決に向けてのソリューションをピッチ形式で披露。たとえば、交通分野では「公共交通の課題解決に向けた人流・車流データ等のビッグデータの利活用」(MONET Technologies)、防災では「Al解析を用いた『職員や住民が実際に使える』避難者マネジメントシステム」(バカン)、福祉では「電カデータ×生成Alによる独居高齢者等の暮らしを支える新しい見守り」(MBTリンク)など、デジタル技術を活かした注目の最新ソリューションが紹介された。

また、ピッチには、総務省 北海道総合通信局や国土交通省 北海道開発局、経済産業省 北海道経済産業局、STARTUP HOKKAIDOなどの支援機関も参加。支援制度や補助金などの地域課題解決に向けた施策なども紹介された。

「UPDATE179」の大きな特徴は、ピッチの内容に対して、会場およびオンラインで参加する道内の市町村職員や地域のプレイヤーが、投票システムで、「興味あり」「興味なし」のリアクションをリアルタイムでできるところ。ピッチ後の投票で「興味あり」に投票した市町村などに対しては、道庁および事務局が登壇企業とのマッチングをサポートし、伴走支援を通じて現場での実現へとつなげていく。

投票以外にも、会場前に登壇者と参加者が交流できる「マッチングスペース」を用意することでマッチングを促進。「興味あり」の参加者は、その場でピッチ内容を詳しく聞いたり相談したりするで、よりマッチングへ繋がる工夫が施されており、事務局のサポートメンバーが間に立つことで円滑なコミュニケーションが図られていた。

○■地域課題解決に企業の持つ技術・アイデアを届ける

「道内の市町村から、『課題はあるが、デジタルでどのように解決すれば良いかがわからない』という声をいただくことが多い」と話す、北海道 経済部 AI・DX推進局 DX推進課 Society5.0推進係長の土田直樹氏。地域の課題は多岐にわたるが、実際の現場では手がかりを見つけるのも難しいという現状に対し、ほっかいどうDX促進事業の一環として、「企業の持つ技術・アイデアを具体的なヒントとして届ける場」を設けることが「UPDATE179」の企画意図になっているという。

「UPDATE179」は、道内企業に加え、道外の企業も数多く登壇し、地域課題に対するソリューションをピッチ形式で紹介しているのが特徴。「ごく短時間で参加しやすい形式」であることに加えて、ピッチ内容についても、「市町村の地域課題を解決することを第一」に、現場での実装や連携を重視し、「企業の営業支援が目的ではない」と土田氏は強調する。


昨年に続いて2回目の開催となる「UPDATE179」だが、昨年度の参加者からは、「『新たな関係性が構築できた』『現場での実証に繋がった』などの声を多数いただいた」と振り返りつつ、今回はさらなる強化を図るため、市町村がより課題感を感じやすい、交通・防災・福祉関連の企業の登壇を増加。一方、昨年度はスタートアップが多めだったが、市町村側の経験値不足もあり、「スタートアップとのマッチングはハードルが高い」という現状を見据え、「今回は、大きい企業、有名な企業の方にも登壇していただくことで、より広く、多くの方に訴求できる内容を意識」したラインナップになったという。

また今回は、「オール北海道体制で支援する」ことを念頭に、総務省 北海道総合通信局、国土交通省 北海道開発局、経済産業省 北海道経済産業局、STARTUP HOKKAIDOなど、「地域支援を行う機関を巻き込んでの開催となっている点も大きな特徴」と土田氏は続ける。

一方、事務局として「UPDATE179」の企画・運営をサポートするNTT-ME 北海道ブロック統括本部 テクニカルリレーション部門 エリアプロデュース担当 担当課長の高橋裕太氏も、「登壇企業が多岐にわたっているところ」を今回の特徴として挙げ、「よりマッチングしやすくなり、課題解決に繋がるのではないか」と期待を寄せる。

なお、「UPDATE179」は、ほっかいどうDX促進事業への参画を望む企業が中心。さらに、事務局を務める北海道の“情報拠点”となるビジネスコミュニティ「HOP(Hokkaido Open Platform)」の情報網も活用し、「時期感や実証内容などを鑑みて、今回は18社の方に登壇していただくことになった」と振り返る。

ピッチ後に「興味あり」「興味なし」を参加者が投票。投票内容は、地域課題を踏まえたうえでの興味の有無であり、ピッチの内容に対する評価ではない。「広くいろいろな課の方に参加していただけるように声を掛けている」という土田氏だが、「交通や防災、農業などの担当者に提案のピッチを直接聞いてもらいたい一方で、デジタルを総括する方が参加することが多く、その点が課題」と、さらなる改善の必要性を言及。

また、「興味あり」だけでなく「興味なし」の投票を促すことで、参加者全員に判断を求めると同時に、「企業側にとっても提案内容が市町村のニーズに合致しているかどうかを確認する貴重な機会を創出することができる」と、参加者が増えることによって、双方のメリットが最大化され、イベントの成功に繋がるとの考えを示した。

さらに、マッチングスペースについても昨年度より充実させているのがポイント。基本的には「興味あり」に投票した参加者と企業に対して、道庁および事務局が、あらためて伴走支援を行い、実際の導入に向けた取り組みをサポートしていくことになるが、「現地で参加していただいた方を、その場でマッチングすることができる」点も大きな特徴となっている。
そして、「UPDATE179」においては、「興味あり」に投票した市町村が企業と「具体的に、今後どのようにマッチングしていくかが非常に重要」と付け加えるNTT-MEの高橋氏。その意味でも、マッチングスペースの充実には大きな意味があるという。

先にも述べた通り、「UPDATE179」はあくまでも単発のイベントであり、「道庁では、年間を通じて、ほっかいどうDX促進事業として、マッチング支援、実証、実装に繋がるような支援を行っている」という土田氏。「今後も地域課題と技術の接点を広げて、道庁として継続的な支援ができるような体制を作り、地域課題に対して『とりあえず道庁に相談してみよう』といった存在になる」ことを目指す。

「UPDATE179」をはじめとするマッチング支援を通じて、「参加市町村がどのように企業と話をすれば良いかを学ぶことでデジタルリテラシーを高め、最終的には、道庁などの支援機関の力を借りずに、自分たちでデジタルの力を使って、地域課題を解決できるようになれば」との思いを明かし、あらためて「UPDATE179」が地域の未来を少しでも動かすきっかけになることに期待を寄せた。

加えて、NTT-MEの高橋氏も、「今回のイベントはもちろん、DX推進の事業を通して、地域課題をデジタル化によって解決する力を高めていってほしい」と力を込め、今後もマッチング支援を続けながら、「最終的には、北海道内の地域活性化、各市町村の盛り上がりに少しでも貢献していきたい」と、引き続きのサポートを約束した。
編集部おすすめ