「何も分からない状態」で大きなプレッシャー

テレビ大分開局55周年記念として制作された時代劇ドラマ『はぐれ鴉』(時代劇専門チャンネル 9日19:00~ほか)に主演する神尾楓珠。役者人生で、時代劇とは縁がないと思っていた中でのオファーに驚きながら、百戦錬磨の京都のスタッフや異例の寒波の中、復讐心と葛藤を抱える山川才次郎という役に高い緊張感を持って臨んだ。

折しもデビュー10年という節目で挑んだ初めての時代劇ドラマ。
これまで出会ってきた作品での経験を注ぎ込んだ今作は、「この先振り返った時に、自分の中で大きな作品になると思います」と想像する――。

○山本千尋との立ち合いシーンは「気迫で戦おうと」

「僕の人生で時代劇をやることなんてないと思っていた」という神尾。それは、周囲から「昔の人の顔じゃない」と言われることが多かったからだそうだ。

それだけに、今回の作品が決まった時は「大分にゆかりがあるわけでもないので、びっくりしました」という驚きとともに、「時代劇について何も分からない状態だったので、プレッシャーもありました」と不安も。さらに、台本を読んで、「立ち回りもあるので、できるのかな…。ちゃんと練習しないと」と心配を抱えていたという。

剣術の指南役という役どころを演じるにあたり、その稽古は2日間にわたり集中的に敢行。様々な作品で圧倒的な殺陣を披露してきた山本千尋との立ち合いのシーンは、「めちゃくちゃ緊張しました。役としては山本さんと対等かそれ以上にできないといけないんですけど、普通にやったら勝てないんで(笑)、気迫の部分で何とか戦おうと思いました」と立ち向かった。

百戦錬磨のベテランスタッフが待ち構える京都・太秦での撮影は、「怖いイメージも多少ありました(笑)」というが、「すごくアットホームで、人の温かさを感じる現場でした。それぞれの部門に分かれているんですけど、そこに壁がなくて、いろんなことを意見しながらやっていたので、みんなで作っている感じがありました」と、一体感のあるチームで臨んでいたそうだ。

その中心となる山下智彦監督については、「芝居についてあまり細かく言う方ではなくて、ある程度の視点がある中で自由にやらせてもらい、才次郎を演じる上ではありがたかったです。
それに、本当にお父さんみたいな方で優しくて、“疲れてないですか?”など絶対敬語で話してくださるんです。役者やスタッフに対するリスペクトを感じました」と感謝を述べた。

○あまりの緊張感で雪の冷たさを忘れる

今作は大分県内の様々な名所でロケを実施。「“りゅうきゅう”がすごく美味しくて、毎日のように食べていました」とご当地グルメを堪能したが、1月に行われたロケは、あいにくの寒波に見舞われ、大分では珍しいという雪が降り積もった。

「衣装の袴(はかま)は通気性が良すぎて大変でした(笑)。中に着込めなかったので、気合で乗り切りましたね。昔の人はどうやって寒さをしのいでいたんだろう?と思います」と気候との闘いもあったが、「時代劇と雪は相性がいいものだと思っていたので、誰かが呼び寄せてくれたのかなと、ラッキーにも感じました」と前向きに捉えた。

そんな美しい情景の中で、「新雪の上は足跡がつくので1回しか歩けなくて、あのシーンはめちゃくちゃ緊張しました。クランクインしてすぐの撮影で、歩き方の所作も“これで合ってるのかな…”と不安もありながらやっていたので、すごく覚えていますね」と回想。

あまりの緊張感から、足の冷たさを忘れてしまうほどだったそうで、「カットがかかった瞬間に“冷たっ!”ってなりました」と我に返ったそうだ。

大分ロケバージョンのビジュアルにもなっている黄牛(あめうし)の滝(竹田市)も、落差約25mという迫力あるロケーションだ。「“こんなところがあるんだ!”と驚きながら撮っていました。
音もすごくて、滝のパワーみたいなものをすごく感じて、それにのまれそうになりながらも打ち勝たなきゃいけないという気持ちになって撮っていたので、そこもすごく好きなシーンですね」と振り返った。

時代劇により興味「これからも機会があれば」

「昔の人の顔じゃない」と言われたこともあったが、作品のビジュアルが公開されると、ファンから「すごく似合ってます」という言葉も届き、神尾は「なじんではいるのかなと思いました(笑)」と安心したそう。

初の時代劇は「もちろん大変ではあったのですが、楽しかったです。本当に新しい挑戦で、今回演じてみて時代劇により興味を持ちましたし、これからも機会があればやってみたいなと思いました」と意欲を示した。

そして、今回の作品について、「殺陣はもちろんですが、どちらかというと人間模様を見てほしいです」とアピール。「それぞれが複雑な関係性で、繊細な気持ちの動きがちゃんと描かれていると思うので、そこに注目していただければと思います」と見どころを語っている。

『3年A組』『PJ』…現代劇の経験が新たな挑戦に生きる


この8月で、デビュー10周年となる神尾。これまでを振り返ってターニングポイントになった作品の一つは、『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(19年、日本テレビ)だといい、「もちろんそれまでもちゃんと仕事に向き合ってきたつもりだったんですけど、同世代の俳優がいっぱいいて、“みんなこんなに考えてやってるんだ”と刺激をもらって、芝居への向き合い方を変えなきゃいけないと思ったんです」と、自身の中で変化が生まれた。

また、今年4月クールに放送され、航空自衛隊の訓練生を演じた『PJ ~航空救難団~』(テレビ朝日)も、「20代後半に差し掛かっていく中で、こんなにハードな撮影があるドラマをやりきった自分は、ちょっと強くなったんじゃないかなと思えました」と、大きな経験になった。

そうした中で時代劇初挑戦となった『はぐれ鴉』は、「今まで経験のない時代劇に挑戦したからこそ、自分の成長をより一層感じることができました。新しいことでも、これまで現代劇でやってきたことを反映させながらできた部分もあるので、そこに10年の月日を感じました」といい、「吸収したこともたくさんありますし、時代劇の魅力や楽しさも分かったので、この先振り返った時に、自分の中で大きな作品になると思います」と力強く語った。

●神尾楓珠1999年生まれ。東京都出身。
2015年、高校1年生でサッカー部を退部後、オーディションを受けて芸能界入り。同年、24時間テレビドラマスペシャル『母さん、俺は大丈夫』で俳優デビューを飾り、その後『恋のツキ』『3年A組―今から皆さんは、人質です―』『ナンバMG5』『いちばんすきな花』『PJ ~航空救難団~』『はぐれ鴉』などのドラマ、『20歳のソウル』『大きな玉ねぎの下で』『パリピ孔明 THE MOVIE』『かくかくしかじか』などの映画に出演。

スタイリスト:名雲みなみ / ヘアメイク:高美希
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