山形県長井市、NTT東日本らは8月6日、デジタルツインとドローンを活用して水害に特化した防災に関する連携協定を締結し、年内にも実証実験を開始する。ドローンの撮影映像を含めて長井市をデジタルツイン化して、そこに様々な事業者から得られた気象情報や地形情報、防災データ、高齢者などの市民データを組み合わせ、地域防災のデジタル化、DX化を図る。
参加したのは長井市、NTT東日本に加え、NTT e-Drone Technology、NAVER Cloud、韓国水資源公社(K Water)で、今回の取り組みをモデルケースとして、全国の自治体に広げていきたい考えだ。
○■本協定の取り組み
長井市は、内閣府の地方創生人材支援制度にもとづき、2020年7月から民間のデジタル人材を受け入れており、NTT東日本から派遣された職員が、同市のデジタル推進室の組織長となってデジタル化を推進してきた。
その一環としてスマートシティ長井実現事業があり、独自のデジタル地域通貨「ながいコイン」を立ち上げ、市内2カ所に無人のスマートストアを設置。市営路線バスの乗降データのデジタル化と分析、ドローンを使った有害鳥獣対策、センサーを設置した河川水位監視などの取り組みを行ってきた。
スマートシティ長井は地方創生推進交付金の採択を受けて、5カ年8.2億円の予算を使った取り組みで、今年がその最終年。これまでの取り組みも踏まえた新たな取り組みとして今回の連携となった。
長井市は、周辺に国直轄の長井ダムをはじめ3つのダムを擁するなど、ハード面での水害対策は整えられている。ところが2022年8月に大きな水害が発生して、さらなる対策が必要だと判断した。
NTT東日本では、NTT e-Drone Technologyを含めて、これまでも長井市と連携したデジタル化の取り組みを続けており、他の地域でも自治体との連携を行っている。そうした中でNTT東日本では防災研究所を立ち上げており、同社のも津地検やノウハウを防災に生かすための取り組みを開始していた。
韓国NAVER Cloudは、デジタルツインをはじめとしたデジタル技術に地検を有しており、韓国内での水害対策に向けた取り組みで先行。K Waterは韓国で50年以上の歴史を有する水資源管理の公的機関で、自ら開発した水資源開発プラットフォームを運用し、NAVER Cloudとともに運用して水害対策を実施。
こうした5者それぞれの取り組みが一致して今回の連携協定の締結に至った。長井市の内谷重治市長は、今回の連携によって、長井市が目指す「誰もが安心して住み慣れた地域で暮らせる町」の実現に向けた大きな一歩が踏み出せると強調。喫緊の課題である水害対策からスタートしつつ、町の賑わい創出や街作りといった分野にも拡大していきたい考えだ。
具体的には、ドローンの空撮によって得られたデータを元に高精細なデジタルツインを構築。水害シミュレーションによって被害予想エリアを事前に予測し、可視化する。さらに長井市を流れる最上川などの河川に設置した水位センサーや監視カメラを組み合わせることで、河川の水位状況や氾濫状況など、危険度をリアルタイムに可視化してモニタリングする。
こうしたデータを総合的に管理・分析して、自治体の意思決定を支援する機能(地域オペレーション機能)により、その地域に最適な防災の仕組みを検討するというのが目的だ。例えば地域の高齢者の見守りデータと連携して避難指示を出すなど、地域の情報を生かして効率的な災害対策に繋げたい考えだ。
さらにNTT東日本は、東京ミッドタウン八重洲でデジタルツインを活用した実証実験を行っているが、こうした知見やノウハウも生かすことで、街作りや見守り、交通状況の確認といった幅広い用途に繋げていく意向。
防災に関する取り組みでは、「フェーズフリー」の重要性も指摘された。平時から利用しているデジタルシステムを有事にも活用するという考え方で、水害のためだけのシステムではなく、日常から活用できる仕組みが有効だとされた。
まずは年内にも、水害対策の実証実験として運用を開始する。来年以降は用途をさらに広げていきたい考えだが、5カ年の交付金の最終年度にあたるため、来年以降は現時点で未定となっている。
内谷市長は、「我が町はちょうどいい規模で、日本の自治体のモデルとして色々な取り組みを進め、全国にも広めて、市民の皆さんの命と財産をしっかり守るような対応ができる町にしていきたい」と意気込みを話した。