LINEヤフーは2025年8月6日、「投稿型サービスにおける情報空間健全化の取り組みに関する説明会」を開催した。

同年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」への対応を軸に、同社が運営する投稿型サービスにおける誹謗中傷対策や健全化への取り組みについて、その現状と今後の展望を説明。
慶應義塾大学の水谷瑛嗣郎准教授も登壇し、情報空間が抱える課題と法の意義を解説した。
○メディアが抱えるリスクと「情プラ法」の意義

説明会の冒頭、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所の水谷准教授が登壇。情報空間が直面するリスクと、それに対する法的アプローチの現状について語った。

水谷准教授は、誹謗中傷やヘイトスピーチがインターネット上で蔓延し、健全な言論空間そのものを脅かす危険性を指摘。こうした背景から施行されたのが「情プラ法」であると説明する。この法律は、大規模プラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報への対応や運用の透明性確保に関する義務を課すものだ。

同法のポイントとして水谷准教授は、「迅速化規律」と「透明化規律」を挙げる。前者については「迅速に削除する義務だと思われがちだが、そうではない」と指摘。法律が求めるのは、申し出に対し7日以内に判断結果を通知するなど「誠実に対応」することであり、即時削除を強制するものではないと説明した。

さらに情プラ法では、事業者が独自に設定した削除基準を送信防止措置の14日前までに公表する義務が課されている。これは恣意的な削除を防ぎ、表現の自由に配慮する仕組みで、迅速な対応が“過剰削除”につながらないよう、年1回の透明性レポートの提出も義務付けられている。

「迅速な対応が行きすぎて表現の自由を損なわないよう、適正に運用されているかを客観的にモニタリングする必要がある。
そのためにも透明性レポートは非常に重要」と水谷准教授は強調した。
○LINEヤフーの多角的な健全化への取り組み

続いて、LINEヤフー政策企画本部メディア部長の槇本英之氏が、同社の具体的な取り組みについて説明。「Yahoo!知恵袋」など4サービスが情プラ法の指定対象となり、対象外の「Yahoo!ニュース コメント欄(ヤフコメ)」においても法に準じた自主的対応を進めていると明かした。

槇本氏は、同社のコンテンツモデレーションが「人の目とAIを組み合わせながら判断をしていく仕組み」であると説明。情プラ法への対応として、被害者からの申し出を受け付ける窓口の設置や、外部の法律専門家を含む“侵害情報調査専門員”を選任するなど、対応体制を強化したことを報告した。

その成果はすでに出始めているようだ。同社のレポートによると、ヤフーが展開するプラットフォーム上での月間削除件数はピーク時の約4分の1にまで減少。一方、総投稿数はほぼ横ばいを維持しており、「健全な言論を萎縮させることなく、問題投稿を抑制できている」との見方を示した。

成果の背景には、AIとサービス設計の両面からのアプローチがある。AIについては、違反投稿を検知するだけでなく、投稿前に不適切な表現の修正を提案する「コメント添削モデル」を導入。サービス設計では、ヤフコメでの携帯電話番号設定の必須化により、悪質なユーザーを“別アカ”ごと大幅に減少させた。

説明会後半の対話セッションでは、水谷准教授が指摘する「アテンションエコノミー」についても議論が波及。
ユーザーの注目(アテンション)を集めることが最優先され、情報の質や正確性が二の次になるというこの構造的な課題について、水谷准教授は「アテンションを集めること自体は悪ではないが、それが目的化してしまっている」と警鐘を鳴らす。

槇本氏もこれに同意し、「問題投稿が巧妙化している」と指摘。単純な誹謗中傷は減る一方で、より巧妙な手口で注目を集めようとする動きに対応する必要性を語った。

今後の展望について、水谷准教授は「特効薬はない」と断言。政府による規制だけでなく、広告主やメディア、研究者らが広く連携し、「民間中心でエコシステムを改善していく必要がある」と提言した。
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