ワイヤレスのマウスやキーボード、あるいはヘッドホン、ヘッドセットの多くにはBluetoothが使われている。最近では、普及率も高く、ほとんどのスマートフォンやノートPCに搭載されているほか、デスクトップ用マザーボードでも装備しているものが少なくない。


Bluetoothは、スペクトラム拡散通信を使うが、携帯電話で使われる直接拡散あるいはCDMAとは異なる「周波数ホッピング」という方式を使う。簡単にいうと、特定のパターンで短時間に送信チャンネルを切り替えることで、雑音や他の通信との衝突を避ける方式だ。

Bluetooth BR/EDR(Bluetooth 3.0以前)では、2.4 GHz帯(2400 MHzから2483.5 MHz)を1 MHz幅の80チャンネルに分割して周波数ホッピングを行う。Bluetooth Low Energy(BLE)では、2 MHzの40チャンネルに分割する。

通信ごとに異なる周波数ホッピングパターンを使うことで、複数の通信を共存させることができる。このため、接続ごとに異なるホッピングパターンを選択する必要がある。しかし、常に送信周波数が動いていては、他のノードから存在を検出しにくい。

Bluetooth Low Energy(BLE)では、一部のチャンネルを「アドバタイズチャンネル」として、未接続のBluetoothデバイスは、自身の存在をアピールするために使う。ホスト側は、アドバタイズチャンネルを使って、デバイスを発見、接続に必要な情報を得る。

Bluetooth BR/EDRの場合には、ホッピングパターン生成にMACアドレスを使う関係から、未接続の状態では、ホッピングパターンを知ることができない。このため、未接続のデバイスは、問合せ専用のホッピングパターン(General Inquiry Access Code)を使い、特定のチャンネルを繰り返し受信する。これに対して、同じパターンを使いながらInquiry Messageを送信して、接続を希望するデバイス(ホスト)があることを通知する。


この周波数ホッピング方式を使った無線誘導技術は、第二次世界大戦中に女優のHedy Lamarr(ヘディ・ラマー)によって考案され、1942年に特許が取得されている。この特許では、ピアノの楽譜を記録するピアノロールでホッピングパターンを作り出している。

当時、米国海軍は魚雷を無線誘導することを考えたが、妨害電波の影響を排除する必要があった。これを解決するためにLamarrらが考案したのが短時間で周波数を変更することで、妨害電波の影響を避ける周波数ホッピング方式だった。

周波数ホッピングの概念自体は、1900年台にすでに応用されていたが、正確にいつ、誰が着想したのかは不明だ。ただ、Nikola Teslaの特許(1903年)や、Jonathan Adolf Wilhelm Zenneckの書籍“Wireless Telegraphy”でドイツ、Telefunken社が周波数ホッピングをすでに利用していたとの記述がある。この頃にはすでに概念が確立し、ある程度応用されていたと考えられる。

Hedy Lamarrの半生は映画のよう。Lamarrオーストリア出身で1930年に女優となったが、ドイツの兵器製造業者Fritz Mandlと結婚した。しかし、夫の独占欲が強く、強制的に引退させられ、幽閉状態にあった。そこで、自分と似たメイドを雇い、1937年にメイド姿に変装して屋敷を脱出した。その後、アメリカに渡り、1938年から女優として活動を始める。
前述の特許を取るのは、米国に渡ってからである。

特許は、作曲家George Antheil(ジョージ・アンタイル)との連名で出願された。というのはAntheilは、ピアノロールで動作する複数のピアノを同期させて演奏する方法を確立していたからだ。これを応用することで、送信側と受信側のピアノロール(ホッピングパターン)を同期させることができた。

ちなみにLamarrの姿は、Corel Draw 8/9のパッケージに使われていたという。意外に身近な所に居たようだ。

さて、今回のタイトルネタは、今 敏のアニメ映画「千年女優」(2001年)である。突然引退した女優藤原千代子。その30年ぶりのインタビューは、現実と虚構(映画)の混じったものとなる。もしかしたら、すべてが虚構(取材者が虚構の中で普通に会話する)で、その原動力が極めて「軽い」物だったという見方も可能な、多重露光された虚構とも取れる作品。
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