地域貢献活動「ちいきのきずな」の一環で、警察などと連携しながら交通事故対策活動を行っているJA共済。スタントプレイヤーが危険な自転車走行などに伴う交通事故の再現し、中学生・高校生に交通事故の危険性を疑似体験させる教育事業(スケアード・ストレート教育技法)を、全国で展開している。


夏休み目前の7月17日には、静岡県立浜松大平台高校でスケアード・ストレートの手法を取り入れた自転車交通安全教室が開催された。

○■コワいからこそ身に付く「スケアード・ストレート」

“恐怖を直視する”を意味する「スケアード・ストレート」(Scared Straight)は、恐怖を実感することで、それにつながる危険行為を未然に防止するための教育手法のこと。この方式を取り入れた交通安全教育では、スタントプレイヤーが目の前で交通事故を再現することで「ひやっと・ハッと」する場面を体験して、交通安全意識の醸成と高揚を図る。
恐怖を実感することで危険運転を未然に防止し、交通ルールの大切さを学ぶことが目的で、事故の場面を目の当たりにすることで印象にも残りやすくなり、学習効果が継続するといった効果も期待できるという。

スケアード・ストレートの手法を用いた交通安全教室は東京の中学校・高等学校でスタートし、現在は全国的な取り組みへと発展。JA共済は警察や交通安全協会などと連携しながら、スケアード・ストレートの手法による交通安全教室を全国の中学校・高校で開催してきた。

県内に120校ほどの高校が存在する静岡県では、10年以上前から高校生を実施対象に毎年4校ほどを巡回するかたちで実施している。

今回、浜松大平台高校では東京狛江市に拠点を置くスーパー・ドライバーズ社のスタントプレイヤーたちが交通事故の場面を実演。同校の2・3年生(約320名)たちが実際によくある交通事故を再現で疑似体験した。

「さまざま事故がある中で、かつて自転車は被害者という位置付けでしたが、近年は歩行者に怪我を負わせてしまう自転車事故がクローズアップされています」とは、浜松西警察署交通課長の堀内公明氏。

「自転車は加害者にも被害者にもなり得る乗り物。通学などで乗る機会も多い中学生・高校生に、スタントによる演目というかたちで危ない場面を実際に目の当たりにしてもらい、『怖い』と感じてほしいです。
警察としても交通ルールの大切さを伝えていきたいと思っています」(堀内氏)
○■スタントプレイヤーが出会い頭の衝突事故を再現

スーパー・ドライバーズ社はカーアクションの企画・演出・公演なども手掛けているスタント会社。交通安全教育では小・中学校、高校はもちろん、一般イベント用や高齢者対象などの特別メニューもあり、派手なだけではなく、事故の原因を分かりやすくリアルに再現することを大切にしているそうだ。

当初は校庭で実際の自動車の車両を使ったスタントの実施を予定していたが、今回は当日の天候の関係で実施場所を体育館に変更して実施された。スーパー・ドライバーズ社では狭い場所でも実演可能な演目も少なくないようで、屋内で実施する際の4輪バギー車両も5~6年前から導入しているという。

スケアード・ストレートの実演では左側通行のルールや周囲の安全確認、夜間・夕暮れ時のライトの点灯など、安全な自転車運転のポイントを説明。

年々増えているという自転車の「一時停止」違反による出会い頭の衝突事故をはじめ、不適切な自転車の運転による交通事故を再現しながら、事故が起きた場合の対応や最適なヘルメットの着用方法なども解説した。

スケアード・ストレートの教育事業でスーパー・ドライバーズ社は、学校の所在する地域の交通事故の傾向に合わせて、演目を入れ替えているという。浜松大平台高校では通学などで普段から自転車に乗る学生が約7割を占めることもあり、自転車の絡む事故の代表的なパターンが数多く紹介された。

自転車と自転車が絡む事故で最も多いシチュエーションのひとつが、交差点での出会い頭の衝突事故。「一時停止」の交通規制が掛かっているのにも関わらず、自転車側がしっかりと止まらない、あるいは安全確認をしないまま交差点に入り、車と衝突するケースが多いという。

「出会い頭事故の中でも私が非常に危険に感じるのは、自転車の右側通行です。ご存知のように左側通行が日本の交通ルールですが、交差点を右に曲がりたいとき、目的地が進行方向の右側にあるというときなど、自転車は右側の車道を走ってしまう。
車のドライバーさんの視点からすると、確認がどうしても疎かになってしまいがちでもあるので、とても危険です」(堀内氏)
○4月からは「青切符」反則金制度も

歩行者と自転車との事故ではスピードの出し過ぎや脇見運転が原因となることが多いという。

「自転車の乗車中、一瞬でもスマホの画面に気を取られてしまうと、前方の歩行者や赤信号・一時停止といった危険の察知が遅れてしまう。私も恐ろしい交通事故の現場をたくさん見てきましたが、残念ながら静岡県の自転車でのヘルメット着用率は全国平均よりも少し低いという調査もあるので、ぜひヘルメットの着用もお願いしたいですね」(堀内氏)

歩行者と同様、交通事故に遭った自転車の運転者は生身の状態でアスファルトや自動車などに強く叩きつけられる可能性が非常に高い。

スタントによる実演後、浜松西警察署の交通課交通安全教育係長・佐々木圭介氏から、来年4月から自転車の交通違反に対して反則金の納付を通告する、いわゆる「青切符」による取締りが始まることも伝えられた。

「反則金があるからということではなく、あくまでも自分の身を守るための行動や自転車における交通ルールの浸透を促す制度になればと思います。16歳以上のすべての運転者が対象となるので、自転車は立派な車両であることを改めて認識し、危険な運転によって加害者にも被害者にもなる可能性があることをご理解いただきたいです」(堀内氏)

スケアード・ストレートによる交通安全教室について、「例年は3学年とも自転車シミュレーターによる交通安全教室を行なっていますが、生徒も教員も初めてスタントプレイヤーによる交通事故の演目を見たという人が多く、非常にリアルに感じられました。生徒たちもいつもより緊張感を持って見ていたように思います」と、同校の教員は感想を述べていた。

なお、同校の1年生には同じ授業時間を使い、浜松西警察署交通課安全教育係の指導員らによる自転車シミュレーターを用いた安全教室を実施。代表の生徒らが市街地での危険な場面を体験したという。

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。
毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら
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