女優の広瀬すずが主演を務める映画『遠い山なみの光』(9月5日公開)の特別試写会が作品の舞台となっている長崎で行われた。また、広瀬、吉田羊、石川慶監督は平和祈念像を訪れ、花を手向け、世界平和を願って祈りを捧げた。


『遠い山なみの光』は、ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ氏の長編デビュー作を、石川慶監督が映画化。主演は広瀬すず、共演は二階堂ふみ、吉田羊、カミラ・アイコ、松下洸平、三浦友和ら。舞台は、戦後間もない1950年代の長崎と、1980年代のイギリスで、時代と場所を超えて交錯する「記憶」を巡る秘密を紐解いていくヒューマンミステリーに仕上がっている。

8月11日、広瀬、吉田、石川監督は作品の舞台になっている長崎を訪問。平和公園へと向かい、平和祈念像に花を手向け、世界平和を願って祈りを捧げた。献花を終えた広瀬は「撮影では長崎に来ることができなかったので、ようやく訪れることができ、手を合わせることができたことを光栄に思います。映画を通じて改めて世界中の皆さんにこの場所で起きたことを知ってもらうきっかけになれば」とコメントした。 吉田は「戦後80年の節目の年に平和祈念像に献花する機会をいただき、光栄に思います。原爆で亡くなられた多くの方を思い浮かべました。長崎が最後の被爆地であってほしいと強く願いたい」と思いを馳せた。

続いて3人は、長崎市内にある活水女子大学内のチャペルに移動し、「映画『遠い山なみの光』 原作朗読会」に参加。学生とともに登壇し、広瀬・吉田が日本語で、英文科の学生が英語でそれぞれ原作『遠い山なみの光』の一節を朗読した。
長崎について、「僕にとって長崎は『希望』のある場所で、新しい世代の人たちが前に進もうと未来を見ていた場所」と印象を語るカズオ・イシグロ氏が、後世に語り継がれていくことを願って執筆した本作を題材に、未来を担う学生たちと交流した。朗読の後には学生たちから事前に集められた質問に答える「お悩み相談会」を実施し、人生の先輩としてアドバイスとエールを送った。

その後、TOHO シネマズ長崎に会場を移し、3人は特別試写会の舞台挨拶に登壇した。上映後、拍手に迎えられて登場した3人。はじめに広瀬が「朝、雨が降っていたんですけど、 皆様ここに無事に来てくださってとても嬉しく思います」と一言。吉田が 「楽しんでいただけましたでしょうか?」と問いかけると大きな拍手が響き、 「悦子の故郷である長崎に映画とともに帰って来られたことを嬉しく思います」と続けた。石川監督は「雨の中どうなるかなと思いながら来ましたが、本当にこんなにたくさんの方に来ていただいて、この長崎という場所で上映できたことを、本当に嬉しく思います」と喜びを露わにした。

昼間に平和公園を訪れて献花を行ったことに話題が及ぶと、広瀬は「静岡出身で、戦争に触れられるものが身近になかった」と打ち明け「映画やお芝居を通じて戦争のことを知っていくにつれて、語り継いでいかなければならないことと実感してきた。平和公園を訪れたことはいい経験になったと思います」と思いを伝えた。映画の中で平和祈念像を見ていた広瀬にとっては初めて見た実物は想像以上に大きくて「本物だ」という感動もあったという。小学校の修学旅行以来、2回目という吉田は「自分の体は大きくなったはずなのに、どこか像がもっと大きく見えた。戦後80年経っても世界の何処かで戦争や紛争が起こっていることに対する長崎の市民の皆さんの反戦の想いが込められていると感じました。
改めて長崎を最後の被爆地にという決意を強く感じることができました」と振り返る。撮影前に何度か訪れていたという石川監督は「2日前の式典も出席して、同じ像だが感じ方も変わりました」と話し、「色んな人の想いやここに悦子がいたんだなとしみじみ感じながら献花させてもらった」と述懐した。

会場には長崎県副知事・馬場裕子氏と長崎市長・鈴木史朗氏、映画制作をバックアップしてきた長崎観光連盟の明石克磨さんも訪れた。鈴木市長は「70年ほど前の長崎や長崎市が誇る名誉市民でもあるカズオ・イシグロさんの作品を美しい映像と見事な演技で表現してもらい、ありがとうございました」とお礼を述べた。馬場副知事は「それぞれの方々が抱えるトラウマや葛藤、記憶 に入り込んだようで夢中になった」と感想を伝えた。映像制作のサポートに携わっているという明石さんは「このような素晴らしい作品に少しでも携わることができたことを誇りに思う。映画が長崎を知ってもらい、訪れてもらうきっかけになれば」と期待を込めた。

広瀬はそれを受け「長崎の皆さんの希望になるような作品になれば」と続け、「長崎の皆さんを先頭にこの映画を大きく広げてほしい」と呼びかけた。吉田は「戦後80年で近年では日本被団協がノーベル平和賞を受賞するなど世界中が原爆に意識を向けるこのタイミングで地方プレミアが長崎を皮切りにしていることに大きな意味を感じます。カズオ・イシグロさんの記憶の中の長崎を描いている側面もあるため多くの余白がある。その余白を実際に長崎に住んでいる皆さんの記憶で 埋めて、それぞれの映画に仕上げてもらえればうれしいです」と話した。石川監督は「このストーリーは自分たちの上の世代の方々の記憶でもあり、原爆の記憶の話でもある。
戦後80年、記憶がどんどん遠くなっていくときに我々の世代がきちんと受け取って語り直さなければならないとイシグロさんからカンヌで伝えられた。想いを込めて作った映画。いろんな解釈があると思うがどれが正解というわけではなく、皆さんの記憶で埋めてもらえればという言葉が正解なのかなと感じながら聞いていました。ぜひ長崎の皆さんから大きく広げてもらえれば」と締めくくった。

(C)『遠い山なみの光』製作委員会

【編集部MEMO】
原作者、エグゼクティブ・プロデューサーのカズオ・イシグロは、本作で描かれる長崎県の出身で、幼年期に渡英したのち、1983年にイギリス国籍を取得。2017年にノーベル文学賞を受賞している。本作以外にも映画化された作品は数多く、『日の名残り』『上海の伯爵夫人』『わたしを離さないで』『生きる LIVING』は、日本でも公開されている。
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