日本は長い間、物価が継続的に下がる「デフレ」でしたが、最近では物価上昇が続く「インフレ」の状況にあります。インフレになると、同じものを買うのにこれまでより多く支払うことになり、お金の価値は目減りしてしまいます。


インフレによる資産価値の低下を防ぐには、お金を預貯金だけで保有するのではなく、インフレに強い資産にも分散投資することが重要です。この記事では、インフレ時代に有効な資産運用の方法や、インフレに強い金融商品についてわかりやすく解説します。

■「インフレ」は生活にどんな影響がある?
<インフレとは>

最近、スーパーでの買い物や公共料金の支払いで「前より高くなった」と感じる場面がとても増えています。ニュースでも耳にする機会が多いですが、これは「インフレ(インフレーション)」と呼ばれる現象で、モノやサービスの値段が継続的に上がることを指します。

また、価格は据え置きで内容量が減る「ステルス値上げ(シュリンクフレーション)」も増えたように感じている人は多いのではないでしょうか。

このように、インフレになると、同じものを買うのに以前より多くお金を払わなければならなかったり、同じ金額で買える量が減ったりして、相対的にお金の価値が下がるのです。

たとえば、これまで100円で買えたジュースが200円に値上がりしたとしましょう。同じものを買うのに今後は2倍のお金が必要になりますので、額面は同じ100円でもお金の価値は1/2になってしまいます。

また、年2%のインフレが20年間続くと、現金のまま置いている100万円の実質的な価値は約67万円相当まで目減りします。現預金であれば額面の金額自体は変わりませんが、その価値が減る可能性があるのです。
<インフレは大きく2種類>

実は、インフレには大きく分けて2つの種類があります。1つめは「ディマンドプル・インフレ」です。
これは、景気が拡大し、企業の利益や賃金が増えることで消費が活発になり、物価も上がるケースです。経済成長のためには、このディマンドプル型の適度に安定したインフレが好ましいとされています。

2つめは「コストプッシュ・インフレ」です。これは、原材料やエネルギー価格の高騰など、供給側のコスト増が原因で物価が上がるインフレです。急激にコストが上昇すると価格転嫁が間に合わず、企業の業績が落ち込むこともあります。賃金も増えない中でモノの値段が上がり、家計にとっては負担が増えるだけになります。

現在の日本のインフレは、後者であるコストプッシュ型が中心で、日銀や政府による対策も主にこの構造に対応する形で進められています。
<家計への影響>

日銀は、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率「2%」を、物価安定の目標としています(日本銀行「金融政策運営の枠組みのもとでの「物価安定の目標」について」2013年1月22日)。しかし、実際の消費者物価指数はというと、2022年~2025年まで38ヶ月連続でその目標を超過してしまっています。

さらに今年に入ると、変動の大きい食料品、特に米などの高騰が影響し、前年同月比3.5%~4.0%の上昇が5月まで毎月続きました。

また、こうしたインフレ下では食費や光熱費など生活に直結する費用の値上げにばかり目が奪われがちですが、その状況が長く続くと、将来の教育資金や老後資金にも影響が及びます。インフレ率を見積もらずにライフプランを立てるとお金が不足する事態になりかねませんので、注意が必要です。

■インフレに強い金融商品4つ

インフレが続くとお金の価値が目減りしていきますので、預貯金に代わる運用先に目を向ける必要があります。ここでは、インフレに強い4つの金融商品をご紹介します。
1.株式

株式は、インフレに強い代表的な資産といわれています。基本的に、物価が下がるデフレよりも、物価が上がるインフレのほうが企業の利益は伸びやすく、株価も上昇しやすくなります。そのため、インフレが進んでいる時期に株式を持っていると、値上がり益を得られる可能性が高くなります。

ただし、株価はさまざまな要因に影響を受けて上下します。インフレだからといって必ずしも株価が上がるわけではなく、インフレ下でも業績が伸び悩み株価も上がらないケースもあります。

株式投資をする際は、値上がりする銘柄の見極めや、購入のタイミングを分ける、複数の会社や業種に分けてバランスよく購入するといった対策が必要です。
2.投資信託

投資信託は、投資家から集めた資金をひとまとめにし、株式や債券などに分散して投資・運用する商品です。投資対象が株式のようにインフレに強い資産であれば、インフレ対策として効果が期待できます。

投資信託は、個別株の銘柄選びが難しい人でも始めやすい投資方法ですし、複数の株式に投資しようとすると一般的には多額の資金が必要ですが、投資信託なら少額から分散投資できるため初心者にもおすすめです。
3.不動産・REIT

不動産もインフレに強い資産の一つです。
不動産は現物資産(モノ)であるため、物価が上昇するインフレ時には、不動産価格も上がりやすくなります。さらに、不動産を貸し出せば家賃収入を得られ、インフレで家賃相場が上がれば、その収入増加も期待できます。

ただし、不動産は立地や築年数、建物の構造などによって価値が大きく変わる、個別性の高い資産です。インフレになっても、必ずしもすべての物件価値が上がるわけではありません。さらに、不動産の取得には少なくとも数百万円の資金が必要となり、個人が気軽に売買できる資産とはいえません。

まとまった資金はないけれど不動産に投資したい場合は、REIT(不動産投資信託)を利用する方法もあります。REITとは、投資家から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られた賃貸料収入や不動産の売買益を投資家に分配する商品です。価格変動リスクはありますが、数万円程度の少額から購入でき、比較的安定した配当が見込めます。
4.コモディティ(金、原油など)

コモディティ(Commodity)とは、一般的に「商品」を意味します。コモディティ投資とは、商品先物市場で取引される原油やガソリンなどのエネルギー、金やプラチナといった貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物など、さまざまな商品に投資することです。

こうした金や原油などの国際商品は、通貨の価値が下がると相対的に価格が上昇しやすい傾向にあります。特に金は「有事の金」として世界的に価値が認められており、ポートフォリオの一部として組み入れることでインフレヘッジ(インフレによる貨幣の相対的価値の減少を回避する行動)になります。


なお、金は地金を買う以外にも、純金積立や金ETFなどの方法があり、少額から投資できます。
■インフレに負けない資産運用のコツ

物価がじわじわと上がり続けるインフレの波に飲み込まれないためには、お金を「守る」だけでなく「増やす」視点も必要です。最後に、インフレに負けない資産運用のコツを解説します。
<長期・積立・分散投資が基本>

株式や投資信託などで資産を運用することは、インフレ対策として有効です。ただ、忘れてはいけないのは「リスク」です。資産を守りながら育てていくには、リスクを抑えつつ効率的にリターンを得られるような運用を心がける必要があります。

そのために重要なのが、「長期・積立・分散投資」という資産運用の王道を守ることです。

長期投資は、一般的には10年以上かけて投資を行うことですが、これによりリスクを軽減する効果があるといわれています。10年や20年、30年といった長い期間で見ると、一時的に値下がりすることがあっても、長期的には値上がりすることもあり、長く保有するほどリスク軽減が期待できるのです。

また、長期投資は「複利」の効果が大きくなります。複利とは、投資で得た利益を元本に加えて再び運用し、得られる利益のことです。長期投資を行うことによって複利効果が最大限に発揮され、資産を大きく増やすことが見込めます。


積立投資は、一度に大きな金額を投じるのではなく、一定額を継続して投資する方法です。これにより、価格が高いときだけ買ってしまう、安いときに買わないといった偏りを避けられます。

分散投資は、値動きの異なる複数の資産(国内外の株式、債券、不動産など)に分けて投資することです。上記でご紹介したインフレに強い資産も組み合わせながら投資することで、価格変動をある程度抑えながらより安定した運用を目指し、リターンも期待できます。
<現金や預金と投資をうまく使い分ける>

現金や預金は一般的に、インフレには弱い資産です。預金が固定金利で物価上昇率よりも低い金利の場合、預金の資産価値は目減りしてしまいます。

しかし、預金は元本が保証されており、その本来の目的は「確実にお金を貯めること」ですので、日々の生活費や数年以内に使うことが決まっているお金の準備には適しています。また、現金や預金は緊急時や使いたい時にすぐ使える点も強みです。

一方、投資はお金を大きく増やすことを目指して運用するものです。元本保証はなく、換金には日数がかかります。

このように、現金・預金と投資は目的や特徴が異なりますので、バランスを意識してうまく使い分けましょう。
<ライフプランにインフレ率を組み込む>

資産運用はライフプランを実現させるための具体的な手段ですが、ライフプランを立てる際には、「インフレ率」を組み込むことが欠かせません。
インフレが続くと、日々の家計だけでなくこの先の将来にも影響を及ぼすからです。

たとえば、少し前に話題になった「老後資金2,000万円問題」も、毎年の物価上昇が2%と仮定して20年後を試算すると、実質的な不足額は3,000万円に膨らむ可能性があります。

その他、教育資金などもインフレの影響を受けますので、インフレ率を無視してライフプランを立てると将来の資金繰りが厳しくなることもあります。

つまり、「今の物価水準で今後も生活できる」という前提は危険で、インフレリスク(インフレによってお金の価値が下がるリスク)込みで多めに見積もることが安心につながります。ライフプランを立てるならインフレ率も組み込み、定期的な見直しをするとよいでしょう。
■インフレに強い金融商品に注目し、資産運用を始めてみよう

インフレ時代には、インフレリスクを理解したうえで、資産を効率的に運用することが非常に重要です。この記事で挙げた「インフレに強い金融商品」に注目し、現金や預金とのバランスも考えながら、ぜひ少額からでも投資をスタートしてみてください。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら
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