「日本のデジタル競争力は64か国中32位と低下。特に「デジタル・技術スキル(63位)」「ビッグデータとアナリティクスの活用(64位)」が低迷」(※)──これは、調査で明らかになった日本の国際競争力の実情です。


※出典:令和7年2月5日(水)一般社団法人デジタル人材育成共創連盟産業教育部会、文部科学省「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)において産業界に期待すること」より

こうした課題に向き合う取り組みとして、LINEヤフーと東京都がタッグを組み、2025年7月に、「サマーキャンプ2025」の職業体験プログラムを実施しました。

この時期、中高生向けの職業体験という取り組み自体は珍しいものではありませんが、当キャンプで特に目を引いたのは「データで読み解く:ビッグデータを使って“花火大会”を観察しよう LINEヤフーの職業体験 ~データ分析からサービス企画まで~」という2日間の実践プログラムです。

LINEヤフーが提供する実際のデータ分析ツール「DS.INSIGHT」 を使い、中高生が隅田川花火大会に関する人流や検索データを読み解き、有用な新サービスの企画を提案するという内容でした。

データ分析にはスマートな印象もありますが、実際は膨大なデータから意味を導き出す、難易度の高い作業です。なぜ、このような実験的な試みを行ったのでしょうか?

このプログラムを企画、担当された、東京都子供政策連携室 プロジェクト推進担当部長の臼井宏一さん、LINEヤフー サステナビリティ推進統括本部 CSR推進部 部長の大山成道さんにお話しを伺いました。
○難易度の高い、挑戦的な内容にした理由とは

ーーちょっと驚いたのは、データ分析だけではなく、サービス企画まで作り出すという、一番難しいところをゴールにする内容ですが、この内容にした狙いを教えてください。

(LINEヤフー 大山成道さん、以下、大山さん)LINEヤフーはインターネットを使ったプロダクトをリリースしている会社ですので、東京都さんと一緒にやらせていただける職業体験であれば、調査だけでなく、もう少し踏み込みたいなと思いまして、今回の内容にしました。

(東京都 臼井宏一さん、以下、臼井さん)多くの中高生が、職業体験を求めているという背景があるのですが、いままでは企業を見学したり、企業の方のお話を伺うだけ、というレベルにとどまる部分がありました。しかし中高生から、もっと主体的に自分たちの視点からのアイディアを提供したいという要望がありまして、LINEヤフーさんにご相談して、今回の形でご提供させていただきました。

○リアルなビッグデータに触れてほしかった

ーーなぜ隅田川花火大会のデータを使われたのですか?

(大山さん)ビッグデータといっても、いわゆる溜め込んだ統計情報ではない生きたリアルな情報がいいなと思っていました。それであれば数日前に行われた隅田川花火大会があるじゃないかと。
中高生たちが学んでいるデータの分析っていうのは、やはり統計データを見て、ここから何が捉えられますか、というのみだと思うんですよね。
そこから一歩踏み込んだリアルなデータというものは、なかなか中高生が触れる機会はないと思います。そこで弊社のビッグデータ分析ツールである「DS.INSIGHT」の使用体験を通して、実際に触ってもらうのが、このプログラムの肝の一つであるかなと思っております。  

(臼井さん)これまでの職業体験、職場体験とは一線を画しているなと思います。LINEヤフーさんが持っている豊富なリソースがあるからこそできた体験だと思ってますので、本当に感謝していますね。  

○「高難度の内容」に挑む中高生の発想力と観察力

ーーまだ始まったばかり(取材は2日間のカリキュラムの1日目終了時点に行った)ですが、本日の参加者の反応など、印象的な場面はありますか?

(大山さん)このプログラム自体、難易度が高く、かなり尖った内容で、そこに申し込んできてくれた中高生の皆さんは優秀な人たちなんだろうと思いました。しっかりとツールが使いこなせているというのもあるし、いろんな意見、いろんな視点というのはすでに出てきているので、頼もしいなと思いました。

(臼井さん)後半、ブレストをして、ホワイトボードに付箋を貼り付ける場面を見ていると、こんな斬新な発想があるんだなと感銘を受けました。中高生の発想ってすごいなと。気づかされることが多いですね。

○東京都の狙いと、デジタルディバイドの格差がない社会を目指すLINEヤフー

ーー子供政策連携室の役目や狙いを、お聞かせいただけますか?

(臼井さん)都庁の中でも比較的最近できた組織になります。子供政策に関する全庁的な横串を刺すといいますか、企画立案をして、そして各局共通の課題について横串を刺して、解決策を模索していく組織になります。

ーー今回のような取り組みを今後も広げていく予定ですか?

(臼井さん)東京都としては拡大していきたいと思っています。
中高生にとっては当然メリットがありますし、企業側にとっても将来の働き手や消費者ですので、その点で、まず今やっている取り組みで、しっかりとWIN-WINの関係性を築いていきたいですね。その先に拡大があるのかなと思います。

ーーLINEヤフーとしてはいかがですか?

(大山さん)インターネットでビジネスをしている弊社としては、インターネットというものが正常に使われ、デジタルディバイドの格差(ICTスキルの有無による生じる格差)を生むような装置にしたくないというのがありますので、CSR、企業の社会的な責任として今回のような機会を提供していきたいと思っています。また、最新技術や実際の業務ノウハウを中高生に提供するなら、企業側が担うのが適任だと思いますし、このような取り組みを通じて、学校や行政と一緒に学習機会を拡充していきたいですね。

ーー最後に、社員の皆さんは、この取り組みをどのようにとらえているのでしょうか?

(大山さん)社会に対して何か貢献がしていきたいという、ビジネス以外にも意識が高い社員がたくさんいますので、みんなぜひ参加したいと思っていると思います。もう一つは、実際に中高生と会話をして、コミュニケーションを取る機会って、あんまりないんですよね。弊社のエンジニアにとっても、ものすごくいい刺激になるので、業務上においてもメリットっていうのが出てくるんじゃないかと、好意的に捉えている社員も多いと思います。
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