人手不足の深刻化に伴い、数年前から新卒採用市場の売り手市場化はますます加速し、企業間の人材獲得競争は激化の一途をたどっている。加えて、コロナ禍や生成AIの普及により、学生の就職活動や仕事観は激変。
「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げるパーソルグループは、オンライン勉強会『データで読み解く。新卒就活の実態と採用現場の課題~「やりたいこと志向」「成長意欲」が大幅に低下した学生と「必要な人材を確保できていない」企業~』を実施。パーソル総合研究所 主席研究員の小林祐児氏と、株式会社ベネッセi-キャリア dodaキャンパス副編集長の平山恭子氏が登壇し、学生の就職活動における考え方などを解説した。
○■大学2年生冬からの就活開始が増加
小林氏は2025年に大学生や新入社員などを対象に実施した調査結果を、過去の調査結果と比較しながら解説していく。まず大学2年生の冬までに就活を始めた人は、2019年(5.9%)だったのに対して2025年(19.2%)では3倍以上も増加しており、就活の早期化が顕著であることに触れる。続けて、この傾向は偏差値の高い大学ほど顕著であるという。
就活終了時期は2022年では「大学4年生の夏」(33.3%)が最多だったが、2025年では「大学4年生の春」(33.3%)がピークになっており、多角的に就活が早期化している現状を示す。また、「偏差値の高い大学ほど早期化している」という紹介したが、終了時期には大きな変化がないことを口にした。
○■2社以上の内定獲得は多数派
就活生の実態を深掘りしていく。売り手市場と言われている通り、2社以上の内定を獲得している就活生は2019年(49.4%)から2025年(63.0%)へと大幅に増加しており、偏差値が高い大学に通う就活生の約7割は2社以上の内定を獲得していると説明。
続けて、学生の希望業種の変化を取り上げ、「情報通信業」「医療、福祉」「教育、学習支援業」が増加していると話す。
○■若者の仕事観は低温化している
就活で重視していることの変化として、2019年よりも2025年は「やりたい仕事ができること」が下落し、「勤務時間、勤務場所など、働き方が柔軟に選択できること」が上昇した。小林氏は「勤務時間、勤務場所など、働き方が柔軟に選択できること」が増加した背景について、オンライン授業を経験した学生が増え、場所に囚われない働き方を望むようになった可能性を示唆する。
キャリア観の変化にも触れていく。先述した調査結果同様、「テレワークや在宅勤務など、勤務場所に融通がきく職場で働きたい」という回答が2019年よりも大きく伸びており、柔軟な働き方を希望する学生は増加傾向にある。ここで小林氏は「自分にとって、働くことはお金を得るための手段にすぎない」が増加し、「仕事を通じて成長したい」が減少していることに注目。最近の学生の仕事観が“低温化"している状況を口にした。
インターンシップに求めること
次はインターンシップの現状を解説する。インターンシップ経験率は2019年(61.2%)から2025年(68.3%)へと増加しており、着実に普及しているという。そして、インターンシップ体験が入社意欲の高まりに影響した要因として「企業・職場の雰囲気を直接知ることができた」「【個人】へのフィードバックがあった」などを挙げる。
さらには、「働く上での自分の不安や心配事を聞いてくれた」「幹部(役員)と仲良くなった」といった社員との交流はあまり入社意欲につながっていないと説明。
○■企業に必要な視点
さまざまなデータを踏まえ、小林氏は企業が新卒採用活動において意識すべきことを論じる。まず学生に選ばれることを気にして、平板で表面的な情報発信をしている企業が目立つ現状を指摘。企業のリアリティがわかる一歩踏み出した情報発信をすることで、他社との差別化につながり、「面白い企業だな」と就活生が思わせられるという。
また、近年の就活生は仕事に対する内発的動機づけが希薄化しているため、志望動機や自己PRを捻り出させる採用形式では厳しいと話す。「『就活生を見極める』という発想より、『就活の早期化によって長くなった就活採用プロセス中で、就活生を巻き込んでいく』という発想でないと難しいです」と企業が学生の内発的動機づけを一緒に見出していくことの必要性を説く。
そして、「採用担当者と育成担当者が分離している。採用した人物の採用研修データ、成長課題をいかに配属後につなげていくのかが大切です」と語る。採用をただの入り口にするのではなく、どのように育成するのかも念頭に置くことが重要であると強調した。
○■インターンシップの現状
次に平山氏は同社が実施した調査結果を引用しつつ、インターンシップの現状を解説する。まずインターンシップの参加率や参加者数がいずれも20年卒よりも21年卒のほうが高まった要因として「地方の学生も気軽に都心部にある企業のインターンシップにオンラインで参加できるようになったことが数字を押し上げました」と説明する。
次に「自身のキャリア観に大きな影響を与えたと思う経験や体験は?」という問いに対し、「職業体験・企業インターンシップ体験」という回答は2024年(31.8%)が2023年(14.6%)の倍以上の回答を集めた。
○■就活生が企業を見極める時代
参加したインターンシップの中で選考に進もうと思った企業数は2社が最多だった。平山氏は「インターンシップへの参加企業の平均が5社だった」という先述した調査結果に触れ、「『(いろいろなインターンシップに参加して)知見を広げたい』というよりは、『(選考に進むべきかを)見極めるために参加している』と思います」と就活生の心理を分析する。
平山氏は大学4年生4月段階で約4割が内々定先を持っているという。ただ、内々定をもらった企業よりも希望度が高い企業があれば就活を続ける学生は珍しくないと解説。そのことが就活の長期化につながっている可能性に触れ、学生がいかに戦略的に就活に取り組んでいるのかを口にした。
就活方法、さらには学生の企業に対するニーズは年々変化する。その変化をキャッチできなければ、優秀な就活生どころか、誰も採用できなくなるかもしれない。企業は新卒採用のスタイルのアップデートが求められる。