洪水、地震、噴火など多くの災害が発生する日本。災害時、重要なライフラインとなるのは電気・ガス・水道であるが現在通信もまた重要なライフラインと位置付けられている。
今回、東京都とNTT東日本は8月27日、既存の公衆電話ボックスにOpenRoaming対応Wi-Fiを設置することで災害時の通信の複線化、増大するインバウンドへの対応など2つの効果を狙い、整備と普及に関する協定の締結を行った。今後、東京都内で利用可能となる新しいWi-Fiサービスとはどのようなものかレポートする。
○■東京都とNTT東日本が連携し、公衆電話ボックスにOpenRoaming対応Wi-Fiを整備
8月27日、東京都庁において小池 百合子 都知事とNTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷 直樹 氏との間で、「公衆電話ボックスを活用したOpenRoaming対応Wi-Fiの整備・普及啓発等に関する基本協定」の調印式が行われた。
同協定は東京都内に設置される公衆電話ボックスにOpenRoaming対応Wi-Fiの整備を設置するため、東京都とNTT東日本が協力していくという内容。当日は、両者以外にも副知事 宮坂 学 氏、東京都のデジタルサービス局 高野 克己 氏、NTT東日本 執行役員 ビジネスイノベーション本部副本部長 奥田 浩喜氏、ビジネスイノベーション本部 社会基盤ビジネス部長 白金 貴之 氏なども集合し、今回の協定の概要と説明が行われた。
協定の内容は、多発する自然災害に対応し、平時はもとより災害時においても安全で利便性の高い通信環境を確保することを目的としている。都内に設置される人が多く集まる主要駅周辺や公園などの公衆電話ボックスに3年間で約1,500か所のWi-Fiを整備すること、Wi-Fi利用拡大に向けた普及啓発活動の展開、NTT東日本の防災研究所を活用し、通信環境等の災害対応力を強化するといった内容となっている。
○■「つながる東京」プロジェクトを推進
協定の署名後は、小池 百合子 東京都知事より本協定の概要と目的等の説明が行われた。冒頭、「災害時に通信を確保するというのは、今の世の中では最優先事項になっている」と、安否確認や人命救助、災害の早期復旧などにおける通信の重要性について言及。
また、今後も需要の増加が見込まれるインバウンドでの観光客を対象にした通信サービスとしての利用も想定しており、「『つながる東京』の実現のために公衆電話ボックスを活用したWi-Fiの整備が必要不可欠となると結論づけた」と今回の協定へとつながった経緯を語った。
Wi-Fiの設置場所については、「山の手線内の主要駅の周辺、島嶼の一部を対象としてスタートし、今後3年間で約1,500カ所に整備を行う」と説明。その規模に関しては「現在の約3倍、具体的には3,600カ所まで広がっていく」と今後の展開に自信を覗かせた。
次いで、NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷 直樹氏が、引き続き協定の背景について説明を行った。
今回展開するWi-Fiサービスは、2023年から始まるプロジェクト「つながる東京」での公衆Wi-Fi設置事業において、NTT東日本グループのアセットを有効活用する施策として提案してきたもので、何度も協議を重ね、提携に漕ぎつけることができたことを打ち明けた。
また、公衆電話ボックスについては、今回のプロジェクトを通して「平常時は、Wi-Fiサービス拠点、災害時は有線通信の拠点として重要な役割を果たす存在へと生まれ変わる」とその新しい役割について、非常に意義深いと述懐している。
また、同氏はNTT東日本に設立された防災研究所についても言及。今回の取り組みをきっかけに、東京都との連携をさらに強化し災害に強い都市づくりに貢献していきたいと語った。
○■「つながる東京」とOpenRoaming対応Wi-Fi
本協定の背景には、高速モバイルネットワークを基幹的公共インフラと位置付け、都民に提供していく「TOKYO Data Highway」構想とその実現のための「つながる東京」3カ年のアクションプランがある。同プロジェクトでは、高速大容量5Gの拡大など、世界最高水準の通信環境整備に向けた取り組みを加速し、通信困難地域の解消、衛星通信の活用、災害時に備えたWi-Fiなど複数の通信手段による多重化などが策定されており、今回の公衆電話ボックス活用もその一環となる。
さらに、今回の措置には東京都内でのインバウンド需要への対応も考慮に入れられている。今回活用されるOpenRoaming形式のWi-Fiは、国際的に活用できる無線LANローミングプラットフォームで、一度の設定で世界中の対応Wi-Fiスポットに自動接続し利用できる。
東京都とNTT東日本は以前より、災害での通信の多重化とインバウンド下での外国人への通信サービスの提供という2つの目的を達成できるWi-Fiとして積極的に設置してきた。
本協定の主要な目的の1つである防災への対応で重要な役割を果たすNTT防災研究所は、2025年4月1日に多発する自然災害に対応するため、先端テクノロジーを活用した地域防災の研究のため設立された組織。主に最新IT技術による被害・避難状況の予測や自治体の災害対策本部運営の最適化に関する研究や、研究成果のフィールド実証と地域防災計画への伴走支援などを行う。同社の今までの研究が今回の取り組みに生かされることになる。
設置される約1,500カ所のWi-Fiは、主に都内の山の手線周辺主要駅、災害避難場所の公園や島嶼部などから早くて本年11月より導入が進められる。OpenRoaming対応Wi-Fiが設置された電話ボックスには、独自のステッカーが貼られるので一目でわかる。通信範囲は設置されたボックスを中心に直径50m程度となる予定。設置予定の電話ボックスはより多くの利用者が期待される場所を中心にピックアップされ、東京都内全域に順次設置していく見通しだという。
竹中貴一 この著者の記事一覧はこちら