映画『遠い山なみの光』(公開中)の、母親役の吉田羊と娘役のカミラ・アイコによる物語の発端となる重要な会話を捉えた映像が公開となった。
『遠い山なみの光』は、ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ氏の長編デビュー作を、石川慶監督が映画化。
この度、公開となったのは、母親・悦子(吉田羊)と娘・ニキ(カミラ・アイコ)による物語の発端となる重要な会話を捉えた映像。悦子のイギリスの自宅のテレビが映し出され、画面ではグリーナムで行われている女性たちの抗議活動についてのニュースが報道されている。そのニュースに真剣に見入っているのは、久々に実家に帰ってきた悦子の娘・ニキ。
食卓に料理を運んできた悦子はそのままテレビを消すと、赤ワインをニキのグラスに注ごうとするが、ニキは即座に手でグラスを塞ぎ「私は大丈夫」と断る。悦子は不審に思いながらも理由は尋ねず、手を合わせて二人で「いただきます」と日本語で声をそろえて一緒に食べ始める。テーブルには悦子が作った美味しそうな料理が並び、「ロンドンは最近どう?」と悦子がニキに問いかける。
実家を離れ、大学を中退して作家を目指しているニキの身を案じる悦子の問いかけを軽くいなすニキだが、悦子が彼女の書いた記事を読んだことを伝えると「よく見つけたね。あんなマイナーな地方の新聞記事。しかも2月のでしょ」と、自分の記事を見つけて読んでくれていた母に内心喜んでいることがうかがえる。さらにニキは、記事を読んだ母にグリーナムの女性たちについてどう思うか問いかけるが、「グリーナムなんて、ここと目と鼻の距離じゃない。
そこでニキは唐突に悦子に「大学の時の友達に出版社の人がいて、ナガサキに関する家族の回顧録を出版しないかって言われてるの」という話を持ち出す。しかし、悦子は「あなたは長崎のこと知らないでしょ?」と言い放ち、「だからママに聞くいい機会だと思って。なんでナガサキを離れたのかとか」と聞くも「誰がそんな話に興味あるっていうの?」と、過去の自身の記憶について頑なに口を開こうとしない悦子。
長崎で戦争を経験し、戦後イギリスへ渡った悦子の激動の半生を作品にしたいと考えていたニキは、「みんなよ。今だからこそ、ちゃんと伝えなきゃ」と真剣な面持ちで母の悦子に訴えかける。しかし「グリーナムと長崎は全然別の話よ」と、固く口を開かない悦子に対し考えこむニキの表情が捉えられている。この後どのようにして悦子が長崎での記憶を語っていくのか……この後の行方が気になる、重要な物語の発端となる本編シーンとなっている。
(C)『遠い山なみの光』製作委員会
【編集部MEMO】
原作者、エグゼクティブ・プロデューサーのカズオ・イシグロは、本作で描かれる長崎県の出身で、幼年期に渡英したのち、1983年にイギリス国籍を取得。2017年にノーベル文学賞を受賞している。本作以外にも映画化された作品は数多く、『日の名残り』『上海の伯爵夫人』『わたしを離さないで』『生きる LIVING』は、日本でも公開されている。