忙しい毎日のなかで、栄養バランスを考えながら食事を選ぶのはそう簡単ではない。というか、かなり大変。
また、食堂を持たない企業には冷凍食品の「完全メシ」をいつでも買える「完全メシスタンド」が広がりを見せており、実際に導入した企業からは「従業員の職場環境に対する満足度が大きく向上した」との声が相次いでいる。
なぜ多くの企業に受け入れられているのか。人気の裏側を探るため日清食品の東京本社を訪れ、「完全メシ食堂」を担当する上門綾子さんと、「完全メシスタンド」を担当する萩原裕朗さんに話をうかがった。
○■従業員の声で進化する日清食品の「完全メシ食堂」
――まず、日清食品の社員食堂について教えてください。
上門さん:当社の社員食堂は、「クリエイティブガレージ」を空間コンセプトにしています。日清食品の創業者である安藤百福は、自宅の裏庭に建てた研究小屋 (ガレージ) で、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発明し、世界の食文化を変えました。ガレージをイメージした空間で食事をすることで創業の原点を見つめ直し、クリエイティブな発想を生み出す機会にしたいと考えています。
提供しているランチメニューは3種類で、通常のものに加えて、33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求した「完全メシ」のメニューも提供しています。
――現在の形で運営されるようになった経緯を教えていただけますか?
上門さん:社員食堂は2016年にオープンしたのですが、コロナ禍の影響で一時的に休止しました。その後、2022年11月に「完全メシ」のメニューを提供するスタイルでリニューアルオープンしたんです。
――具体的にどのようなメニューが提供されているのでしょうか?
上門さん:毎日3種類のメニューを日替わりで提供していて、そのうち1~2種類が「完全メシ」のメニューです。「完全メシ」のメニューはカレー、丼物、麺類などを中心に約50種類のバリエーションがあります。
たとえばカレーだと、欧風カレーやスパイシーカレー、スープカレーがあります。丼物だと親子丼、中華丼、デミオムライス、タコライス。ほかにも、台湾まぜそばやえびのトマトクリームパスタのような麺類も人気です。和・洋・中いろいろ揃えていて、毎日利用していても飽きがこないように工夫しています。
――「完全メシ」と、「完全メシ」じゃない通常メニューでは、どのような違いがあるのですか?
上門さん:「完全メシ」のメニューは、ビタミンやミネラルなど33種類の栄養素をバランス良く調整し、カロリーを500~600kcal程度に抑えています。また、塩分も3g未満に抑えているので、罪悪感なく食事を楽しめます。
でも、揚げ物やラーメンなどをガッツリ食べたくなる日もありますよね。そこで、そうした通常メニューも用意することで、社員食堂を利用するすべての従業員に満足してもらえるよう工夫しています。
――食堂で提供される「完全メシ」のメニューは、市販されている「完全メシ」とどう違うのでしょうか?
上門さん:最大の違いは、社員食堂の厨房で調理した“できたて”を提供できる点です。
――メニュー開発において、特にこだわっている点はありますか?
上門さん:「完全メシ食堂」は当社だけでなく、他企業にも導入していただいています。「完全メシ食堂」で提供するすべての「完全メシ」メニューは、まず当社の社員食堂で提供し、反応を確かめます。定期的に「選挙」と称するアンケートを実施し、味わいへの支持率が70%に満たないメニューは、ブラッシュアップが完了するまで他の企業で提供されません。また、新しいメニューを開発する際には、必ず社長の承認を得るプロセスがあり、おいしさには徹底的にこだわっています。
○■食堂がない企業でも従業員の健康的な食生活をサポートできる「完全メシスタンド」
――「完全メシスタンド」についても伺いたいのですが、こちらはどのような背景から始まったサービスなのでしょうか?
萩原さん:調査によると、社員食堂を設置している企業は全体の25%程度にとどまっています。その結果、『ランチのためにオフィスを出る時間がない』『周りに飲食店がなく、いつもコンビニで済ませてしまう』といった“食の課題”を抱えている従業員が多いと聞きます。これらの課題を解決し、従業員の健康的な食生活をサポートするサービスとして「完全メシスタンド」をスタートしました。
――具体的にはどのようなサービスなのでしょうか?
萩原さん:冷凍食品の「完全メシ」を専用の冷凍ショーケースなどに入れ、社内に設置していただくサービスです。従業員の方はそこから商品を購入し、電子レンジさえあれば、24時間いつでもおいしくて栄養バランスの整った食事を手軽に楽しめます。また、ショーケースを設置するだけで導入できるため、厨房設備が必要な社員食堂と比べて初期費用を抑えられるのも特徴です。
――導入された企業からの反響はいかがですか?
萩原さん:従業員の方からは『ランチを外に買いに行く手間が省けて、仕事の効率が高まった』『栄養バランスが考えられているのに、こんなに美味しくて驚いている』という声をいただきます。また、導入企業の担当者の方からは『従業員の職場環境に対する満足度が向上した』『休憩スペースでのコミュニケーションが活発になった』『夜勤や休日出勤など、社員食堂を利用できない時間帯に働く従業員の食事をサポートできるようになった』といった好意的な反響が寄せられています。
――価格設定はどのようになっているのでしょうか?
萩原さん:企業が月額利用料を負担し、従業員の方には福利厚生サービスとして利用していただくので、販売価格は企業によって異なります。当社としては、「1食ワンコイン」のような利用しやすい手頃な価格設定を推奨しています。
○■「完全メシ」が“当たり前”になる未来を目指して
――最後に、これらのサービスを通して「完全メシ」をどのような存在にしていきたいか、今後の展望をお聞かせください。
上門さん:「完全メシ」を日々の生活の中に自然な形で取り入れてもらいたいですね。そうすれば、従業員の健康的な食生活を支えるだけでなく、企業の「健康経営」にも貢献できると考えています。
萩原さん:日々忙しく働く人にとって、食事は楽しみのひとつです。だからこそ、企業は従業員の健康的な食生活をしっかりと支えていく必要があります。今後も、日清食品ならではのサポートで、「健康経営」と「従業員のウェルビーイング」に貢献できるようなサービスヘと進化させていきたいですね。
「完全メシ食堂」と「完全メシスタンド」は単なる福利厚生にとどまらず、企業が抱える“食の課題”を解決する新たなソリューションとして注目を集め始めている。すでに多くの企業で導入が進み、職場環境に対する満足度向上やコミュニケーションの活性化にもつながっている「完全メシ」。