「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。
本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回は、"幸せを、積み上げる。”というミッション、“デジタル証券のマーケットプレイスで、資産運用を当たり前に。”というビジョンを掲げるデジタル証券株式会社 代表取締役CEOの山本浩平氏にインタビューを行いました。

デジタル証券株式会社 代表取締役CEO 山本浩平氏/2011年に司法試験合格後、金融庁に入庁。総務企画局企画課および同課信用制度参事官室勤務を経て、財務省に出向、大臣官房総合政策課政策調整室にて勤務。金融庁では企画部門にて金融審議会総会事務局や貸金業法の改正等を、財務省では日本銀行による金融政策を担当。
2015年金融庁を退庁後、弁護士登録。弁護士法人中央総合法律事務所での勤務を経て、独立。株式会社Kyashの最高法務責任者(CLO)を経て、2020年デジタル証券準備株式会社を創業。2022年には、常陽銀行CVC・丸紅・オリックス銀行等から総額3億円の資金調達(プレシリーズA)を実施。2025年5月、金融商品取引業(第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資運用業)の登録を完了し、商号をデジタル証券株式会社に変更。
2025年6月、常陽銀行CVC・丸紅・オリエントコーポレーション・サンケイビル・名古屋銀行CVCから総額5億円の資金調達(シリーズAファーストクローズ)を実施。2025年9月、SBI Ventures Three 合同会社・三菱商事・三菱UFJキャピタル10号投資事業有限責任組合から、総額3億円の資金調達(シリーズAセカンドクローズ)を実施。

――山本さんがセキュリティ・トークン(デジタル証券)に注目されたきっかけを教えてください。最初からデジタルアセットに強い関心をお持ちだったのでしょうか?

山本浩平氏(以下、山本氏):私が最初にデジタルアセットと出会ったのは、まだ霞が関で働いていた頃でした。いわゆるマウントゴックス事件をきっかけに、「ビットコインとはなにか?」「どの省庁が対応すべきか?」という点について省庁間で喧々諤々の議論が行われました。

当時、金融庁に在籍していた私は、結果的にビットコインの調査を担当することになり、霞が関でビットコインについて公式に調べた最初のメンバーの一人となりました。

当時はビットコインが「通貨なのか」「モノなのか」さえ定まっておらず、まだWeb3.0という言葉もありませんでしたが、これが自分にとってのWeb3.0との初接点でした。麻生太郎財務・金融担当大臣(当時)から「ビットコインを見せてくれ」と言われ、大臣に工夫を凝らしてお見せしたことも今となっては良い思い出です。金融庁の企画部門で約3年働き、その後には財務省への出向も経験させていただきましたが、日本の金融行政での勤務経験は人生の糧になっています。

その後、弁護士として金融規制やブロックチェーンの領域に携わるようになり、デジタル証券に関する金融商品取引法改正のロビイング活動にも関わる中で、「ブロックチェーン技術を活かしたデジタル証券の仕組みを使えば、自分が心の底から買いたいと思える金融商品を自分の手でつくることができる」と確信し、それなら自分でやってみようと思い、デジタル証券株式会社を創業しました。振り返ってみると、色々な運命的な出会いがあり、創業は必然の流れだったのかもしれません。

投資家ファーストは「やらざるを得ない」からこそ実現する


――デジタル証券の世界では、情報の透明性やコストの低減などが期待されますが、投資・資産運用の世界で「投資家ファースト」はどうすれば実現できるとお考えですか?

山本氏:「デジタル証券だから投資家ファースト」というのは少し語弊があると思います。デジタル証券はあくまでも商品形態・商品性の一つにすぎません。
情報の非対称性は、商品を設計・販売する人や企業によって生まれもしますし、解消もされます。

たとえば、大手証券会社にはブランド力や安心感があり、営業力があるため、商品自体にはあまり手を加えずとも売れるという構造があります。その一方で、私たちのようなスタートアップ企業には、看板も販売網もありません。だからこそ、商品性そのものを磨くしかない。結果として、私たちは「投資家ファースト」な設計をしないと生き残れません。「投資家ファースト」を「やらざるを得ない」。その必然性が、結果的に透明性や低コスト、ユーザーファーストな設計につながっていると思います。「投資家ファースト」に振り切って商品性を磨き上げられるのは、スタートアップ企業だからこそできることなのです。

本当に買いたい金融商品が揃っている「金融商品のコンビニ」


――山本さんが動画等で使われている言葉の中で、個人投資家の“逆襲”という言葉が印象的でした。その意図をぜひ教えてください。

山本氏:「逆襲」と言っても、だれか敵を倒すという意味ではありません。これまで金融業界では、個人投資家は「アマチュア」「素人」と見なされ、プロ投資家とすみ分けされていた側面があります。私たちは、個人投資家がプロ投資家と同様・同等に金融商品を比較・選択できるマーケットプレイスをつくろうとしています。
それは「金融商品のコンビニ」のようなもので、だれもが納得して金融商品を自分で選べる場所です。不動産やインフラなど、さまざまな投資商品がデジタル証券化され、幅広い金融商品ラインナップに少額から投資できる。そんなプラットフォームに人が集まり、お金が集まれば、プロ投資家と同じ土俵で戦えるようになります。これは個人投資家にとっての「逆襲」の一手だと考えています。

――「金融商品のコンビニ」や「個人投資家の逆襲」はキャッチ―ですし、とても良いフレーズですよね。昨今言われている金融リテラシーの向上や金融教育には、「自分で学び、自分で考え、納得したお金の使い方をする」というニュアンスが含まれていると思うのですが、だれかの提案を鵜吞みにして投資して本当に良いのか?という、本来は当たり前のことが投資家サイドには問われていると感じます。

山本氏:そうですね。小口化された金融商品をちょっとずつ買えるコンビニがあれば、たとえば食べたいものがあれば試食をするように、余剰資金で手軽に投資できるようになるのではないでしょうか。デジタル証券であれば、これまでは一部のプロ投資家しか投資できなかった投資対象に少額から投資することができます。デジタル証券の特性を活用して、まずは少額から資産運用を始めてみるという選択肢をもっと提示していきたいと思います。

日本人に合う金融商品とは


――山本さんが考える「日本人の国民性に合った金融商品」とは、どのようなものでしょうか?

山本氏:よく「日本人は金融リテラシーが低い」と言われますが、私はそうは思いません。むしろ、お金に対して非常に慎重で堅実です。これまではそもそも投資に回せるお金が少なかっただけだと思っています。
たとえば20代・30代の若者に10億円をあげたら、不動産等の「利回り商品」を買うはずです。一方で、現実には投資に回せるお金が少ないから、その少ないお金を無理矢理増やそうとして公営ギャンブルなどに使ったりしてしまうわけです。「金融リテラシーが低い」のではなく、「投資に回せるお金が少ない」のです。

日本人の国民性の特徴は「損したくない」という感情です。投資で損をすると「騙された」と感じる人も多く、感情的な反応が起きやすい。私は弁護士ですのでよく理解しているのですが、アメリカ人は「騙されたら訴える」、一方で日本人は「損したら訴える」というくらい、損することに敏感です。

そういった背景からも、まずは損をする確率が極めて低く、安定的な利回りが見込める「インカム商品」が日本人には合っていると思います。最初はインカム型で成功体験を積んでもらい、リスク許容度が高まってきたら、キャピタルゲイン型の商品にチャレンジしていくという段階的な投資体験が望ましいと考えています。

プロ投資家や富裕層に限られていた投資商品に、デジタル証券で個人投資家がアクセス可能に


――今後、どんなアセットがトークン化されていくとお考えですか? 山本さんの“個人的妄想”込みで教えてください。

山本氏:やはり「希少性」のあるものがトークン化や金融商品には馴染むと思います。ビットコインがまさにそうですが、数量が限られていて、市場に流通することで価値が生まれる資産です。

デジタル証券というと足もとでは不動産がメジャーなアセットなのですが、今後はたとえばワインやスポーツカー、アートなどのトークン化も拡がってくると思います。
これまではプロ投資家や富裕層など、限られた人たちのためのクローズドな投資商品だったものに、デジタル証券によってより多くの人がアクセス可能になる。これは日本の投資・資産運用における大きな変化です。

もちろん、これを一足飛びに実現することはできません。最初は不動産のように堅実な商品から始め、プロ投資家や富裕層がしているような投資体験を積んでいく。ひとくちに不動産と言っても、家賃収入というインカムゲインを期待するものもあれば、リノベーションしてバリューアップし、キャピタルゲインを狙うものまでさまざまです。手堅い不動産のデジタル証券で得た利益の一部を、ワインのデジタル証券やスポーツカーのデジタル証券、アートのデジタル証券に再投資するといったポートフォリオを自分で設計して都度組み替えたりできることも、デジタル証券の魅力だと思います。

なんでも揃っているのがコンビニの強みですから、私たちが掲げる「金融商品のコンビニ」構想は、まさにこれからです。不動産以外のキラーコンテンツが現れれば、デジタル証券市場の可能性も一気に拡がると思います。

中島宏明 なかじまひろあき 1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。 この著者の記事一覧はこちら
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