藤井聡太王位に永瀬拓矢九段が挑戦する伊藤園お~いお茶杯第66期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)七番勝負は、藤井王位3勝2敗で迎えた第6局が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり腰掛け銀の難解な終盤戦から抜け出した藤井王位が151手で勝利。
○正々堂々の角換わり勝負
台風15号の被害によって急きょ会場変更となった本局。両対局者は静岡県牧之原市の復興に向けた思いを口にします。藤井王位の開幕3連勝に永瀬九段が2勝を返して迎えた本局は、シリーズ終盤にふさわしく王道の角換わり腰掛け銀へと進展。藤井王位の攻勢を後手の永瀬九段が受け止める格好で、相手の得意を避けずに正面からの研究で迎え撃つ永瀬九段らしさの出た序盤戦となりました。
腰掛け銀特有の間合いの計り合いはやがて前例のない持久戦へと突入。交換した銀を自陣に打ちつけ合うスローペースのなか、先にまとまった時間を使ったのは藤井王位でした。数手後に放った右辺への角打ちは中盤の勝負手で、この角がさばけないと指しづらくなるだけに決断の一手。持ち時間でリードする永瀬九段が封じ手を記して1日目が終了しました。
○敗因不明の名局
右辺の小競り合いから始まった戦いは徐々に全体へと波及。永瀬九段も敵陣に馬を作り反撃の足掛かりとします。夕刻、飛車を持ち合って迎えた終盤の入り口は激戦というよりなく、守りの薄い双方の玉をどう寄せるかに注目が集まります。
桂合が最善なのは数手後に控える馬の王手を防いでいるためで、歩を温存したことでのちの反撃に歩が立つのも細かな気づかい。わずかに攻めが届かない永瀬九段はやむを得ず戦力補充に向かいますが、以降は藤井王位の鮮やかな寄せを見るばかりとなりました。終局時刻は19時34分、最後は自玉の寄りを認めた永瀬九段の投了で長いシリーズに幕が引かれました。
全体を振り返ると、永瀬九段の周到な準備を前に中盤では苦労した藤井王位が終盤の秘術を駆使してなんとか押し返した格好。終盤でAI が示した推奨手も人間的でない手が多く、敗因不明の名局となりました。連敗の悪い流れを断ち切り4勝2敗で防衛に成功した藤井王位は「自分から崩れないよう心掛けた。最後は結果が幸いした」と喜びを語りました。
水留啓(将棋情報局)