AirPods Pro 3がいよいよ9月19日に登場します。ワイヤレスイヤホンに求められる音質、ノイズキャンセリング性能、バッテリーの持ち、装着感を惜しみなく引き上げ、シリーズのフラッグシップらしく妥協のない改良で磨き上げた、という印象をまず受けました。


さらに、これまでになかった音質面以外の機能強化も注目。心拍数センサーを初めて搭載して健康増進につなげられるようにしたほか、会話を同時通訳するライブ翻訳機能も新たに搭載。特に、ライブ翻訳機能はオフラインでも使え、月額料金はかからず、使い勝手も抜群と、文句なしの仕上がりでした。AirTagで各社の忘れ物タグを駆逐したように、AI翻訳イヤホン市場にも大きなインパクトを与えるのは間違いなさそうです。

音質、ノイズキャンセリング、装着感を着実に改良

AirPods Pro 3は、イヤーチップを搭載して密閉感を高めつつ、強力なノイズキャンセリング機能で静かに音楽を楽しめる、音質重視の完全ワイヤレスイヤホンです。従来からのコンセプトを継承しつつ、まず改良したのがイヤホンの装着感です。

単体では分かりづらいのですが、イヤホンは先代のAirPods Pro 2から形状が変わり、全体に小さくなりました。1万人以上の耳のデータを調査し、安定してフィットできる形状を追求した結果の造形だといいます。合わせて、イヤホン本体はAirPods史上初となるIP57等級の耐汗耐水構造に改良されました。

イヤーチップも、シリーズで初めてウレタン素材のフォームを組み込むことで、耳穴へのフィット感を向上。付属のイヤーチップはサイズが5種類に細分化され、より耳に合うようになっています。

本体を小さくしつつ、音質の向上も図っています。
新しい音響アーキテクチャに再設計したことで、低音がよりパワフルになったと感じます。といっても“ドンシャリ”の平凡なサウンドではなく、クリアで抜けのよい印象に仕上がっています。外部音取り込みモードも、より生の音に近づいた印象を受けました。

ノイズキャンセリング機能も向上しています。AirPods Pro 2比で2倍、AirPods Pro比では4倍という大幅な進化で、トンネル内を走行する騒々しい電車の中でもより静かに音楽が楽しめました。イヤーチップにフォームが内蔵されたことも、遮音効果の向上に貢献していると感じます。

本体の小型を図りつつバッテリー駆動時間を延ばしている点も評価できます。ノイズキャンセリング使用時の駆動時間は約8時間で、AirPods Pro 2の6時間から3割以上も延びています。わずか5分の充電で1時間使える急速充電にも対応し、バッテリーまわりに不満は感じません。
音楽を楽しむ以外の機能も強化している

前述の通り、AirPods Pro 3は音楽を楽しむ以外の機能も大きく進化しています。

まずは心拍数センサーの追加です。耳穴に接する部分に搭載され、激しく動く運動時でも心拍数や消費カロリーをApple Watchより正確に計測できるとしています。
AirPods Pro 3を装着してワークアウトを実行すると、やる気を引き出す音楽が流れるとともに、10分ごとに所要時間を音声で知らせてくれます。

画面と音声で伝わるライブ翻訳、AirPods人口の多さが魅力を高める

新機能の目玉といえるのがライブ翻訳です。AirPods Pro 3を通じて、異なる言語を話す相手とのコミュニケーションを容易にしてくれる、いわば同時通訳機能です。

ライブ翻訳はiPhoneの翻訳アプリから起動できます。相手の言語と自分の言語を設定し、AirPods Pro 3を装着すると、相手の話した言葉が自分の言語に翻訳されてAirPodsから聞こえてきます。

まだ日本語には対応しないため、英語→フランス語で試してみました。相手が話した3~4秒後に、翻訳された内容がiPhoneの画面に文字でどんどん表示され、さらに会話の区切りに到達すると内容が音声で聞こえてきました。この際、ノイズキャンセリングで相手の声の音量が抑えられるので、翻訳された音声に集中できます。

単純に単語を翻訳するだけでなく、文脈を考慮したうえで翻訳するので、精度が高いのがポイント。翻訳された音声も、内容や話し方が自然で違和感はありません。

日本語への対応は年内の予定でまだ少しかかりますが、開発中のバージョンで英語→日本語の翻訳を試してみたところ、こちらも明瞭な日本語で分かりやすいと感じました。開発中でこのクオリティならば、かなり期待してよさそうです。


相手もAirPodsを装着していれば、それぞれが自分の言語で会話できます。もし、AirPodsを自分しか使っていなくても、自身が話した言葉がiPhoneの画面に相手の言語で表示されるので、相手に画面を見てもらいながら会話できます。

ライブ翻訳は、Apple Intelligenceに対応するiPhoneが必須となるのは覚えておきたい点といえます。ですが、Apple Intelligenceだけにすべてオンデバイスで処理できるのが特徴で、事前に言語ファイルをダウンロードしておけば通信できない場所でも利用できます。この点は、インターネット接続が必須の翻訳デバイスにはない利点といえます。

せっかくAirPodsを持っているのに、翻訳用途のために大きさや装着感、デザイン、使い勝手でAirPodsに劣るほかAI翻訳イヤホンを購入するのは、あまり気が進みません。一部製品は、翻訳機能を利用するのにサブスクの契約が必要なので、なおさらです。ふだん音楽を聞くのに使っているAirPodsがそのまま使え、通信環境や月額料金を必要としない点は、大きな価値があると感じます。

ちなみに、ライブ翻訳機能はAirPods Pro 3だけでなく、AirPods Pro 2以降のAirPodsシリーズで利用できます。所有している人が多いだけに、自身の言語で会話できる機会が増えそうなのは楽しみです。
価格はPro 2から据え置き、高価だが付加価値は十分

AirPods Pro 3の価格は39,800円で、低価格化が進む完全ワイヤレスイヤホンのなかでは圧倒的に高価といえます。とはいえ、音質やノイズキャンセリングなど基本性能は最上級なうえ、圧巻の翻訳機能を追加しつつAirPods Pro 2から価格が据え置かれた点は評価できます。
AIに出遅れているとされるアップルですが、Apple Intelligenceのポテンシャルをうまく活用して実用性と付加価値を高めた製品だと感じました。
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