第46回将棋日本シリーズJTプロ公式戦は2回戦が大詰め。9月13日(土)には伊藤匠叡王―佐藤天彦九段の一戦が熊本県上益城郡の「グランメッセ熊本」で行われました。
対局の結果、矢倉調の力戦から抜け出した佐藤九段が97手で勝利。9年振りとなる準決勝進出を決めています。
○まさかの相居飛車

二人の公式戦初手合いとなった本局、振り駒で後手となった伊藤叡王は意表の出だしを披露します。4筋に角を上がったのは佐藤九段愛用の「菜々河流振り飛車」において骨子となる一手を居飛車で応用した格好。これを見たファンは「なんだこれは」「伊藤叡王が後手番だよね?」と盛り上がりを見せます。佐藤九段も意表の居飛車で応じ、盤上は矢倉調の力戦に。

じっくりとした駒組みのすえ佐藤九段は菊水矢倉へ、伊藤叡王は銀矢倉の堅陣へと玉を収めます。先攻したのは佐藤九段で、手順に右桂をさばいて攻守ともに遊び駒のない好形を築きました。反撃のきっかけをつかみたかった伊藤叡王ですが、戦いが一段落した局面で先手に角を引かれる好手を軽視。「しびれた」と語った局後の感想がその苦労を物語りました。

○桂の二段活用で快勝

主導権を握った佐藤九段の指し手は冴えわたります。自陣四段目に銀取りで桂を打ったのが手厚い好手。
銀が逃げてもクサビの歩が入るため、攻めが切れる心配はありません。この数手後、跳ね出したこの桂を敵陣に成り捨てたのが胸のすくような決め手で、要の金を奪いながら伊藤玉を寄り形へと追いやることに成功しました。

終局時刻は17時0分(対局開始15時38分)、最後は逆転の見込みなしと認めた伊藤叡王が投了。この日は「▲2六歩を指そうという気分だった」という佐藤九段が久々の居飛車で力を発揮、一方的に攻め続けて伊藤叡王の矢倉を攻略した快勝譜となりました。ベスト4へと進出した佐藤九段は11月9日(日)に行われる準決勝で永瀬拓矢九段と顔を合わせます。

水留啓(将棋情報局)
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