金融庁は、2026年度の税制改正要望の内容を公表しました。NISA制度の対象商品の拡大のほか、未成年でもNISAでつみたてができるよう、対象年齢の見直しも盛り込まれています。
NISA対象商品拡充・18歳未満も積み立て可能へ
金融庁が8月29日に公表した、2026年度の税制改正要望には、NISAについて主に3つの要望項目があります。
こども支援の一環としての、つみたて投資枠における対象年齢等の見直し
様々な資産運用ニーズに応えるための、対象商品の拡充等
投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活
それぞれを解説します。
1. こども支援の一環としての、つみたて投資枠における対象年齢等の見直し
現在のNISAは、成長投資枠、つみたて投資枠ともに、対象年齢は18歳以上となっています。この点について、これから資産形成を始めようとする若年層の長期・安定的な資産形成を支援するために、つみたて投資枠を未成年にも拡大することを金融庁はこども家庭庁とともに要望しています。
未成年を対象とする制度としてはジュニアNISAがありましたが、利用が低迷したため2023年末で廃止されました。その後、2024年からは制度が恒久化され、投資上限も大幅に拡大した現行のNISAが始まり、口座数は急増しています。政府はこれを機に「貯蓄から投資へ」の流れを、若年層を含めた幅広い世代に定着させたい考えです。
もし要望が実現すれば、子どものためにつみたて投資枠で年120万円の積立が可能となり、親から子への教育資金づくりや、祖父母から孫への生前贈与にも活用できるでしょう。
2. 様々な資産運用ニーズに応えるための、対象商品の拡充等
NISAの対象商品の拡充は、債券を投資対象とした投資信託などといった低リスクの商品を念頭に置いている一方、高齢者が投資しやすい商品をNISAの対象に認めることも検討しています。具体的には、運用益の一部が毎月分配されるタイプの投資信託などが候補に挙がっています。毎月分配型の投資信託は、年金のように定期的に生活資金を受け取りたいと考える高齢者のニーズにマッチしていますが、運用コストが割高になる傾向があります。
具体的な対象商品については与党税制調査会の議論などを踏まえて今後詰められていきます。
3. 投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活
現行のNISAでは、非課税保有限度額1800万円に達していた場合、投資商品の入れ替えのために売却しても、その枠が復活するのは翌年になります。これを当年中に復活させてすぐに再投資できるようにします。
実現すれば、リスクを取れる若いうちは株式中心の投資商品で運用し、老年期に入ったらリスクを下げて、債券運用を中心とした投資信託に切り替えるといった運用が容易にできるようになります。
進化するNISAで得する人・損する人
今回の改正要望は、与党税制調査会の議論などの税制改正プロセスを経て、年末の税制改正大綱で結論が出る見込みです。そのため、現時点では仮定の話になりますが、実現した場合に、このように利用すると得をする・損をするといった内容をまとめてみたいと思います。
進化するNISAで得する人
18歳未満でもつみたて投資が可能になれば、年120万円までの投資枠を活用できます。祖父母が孫へ暦年贈与の非課税枠110万円を利用して資金を渡せば、そのまま投資に充てられる仕組みです。多くの金融資産を保有している高齢者にとっては、相続税対策にもつながります。
年100万円なら18年で、年120万円なら15年で非課税保有限度額1800万円に到達します。早くから始めれば、子どもが成人するまでに1800万円の資金が作れる可能性が高いので、利用する層としない層で格差が広がることを懸念する声も上がっています。
進化するNISAで損する人
対象商品の拡充では、「毎月分配型の投資信託」も対象となる可能性が出てきています。
ただ、老年期に入ると、運用で得た資金を取り崩して生活費に充てたいと考える人は多いので、毎月分配型投信が高齢者のニーズを満たす面もあります。しかし、その場合も毎月分配型投信を選ぶ必要はなく、投資信託を定期売却するサービスを利用すれば、毎月定額(あるいは定率)が売却されて口座に資金が入金されます。定期売却を提供している金融機関は限られていますが、投資家がそうしたサービスのある金融機関を選ぶ動きが強まれば、定期売却できる金融機関は増えていくでしょう。
今回の要望で毎月分配型投信が対象に加わった場合、定期売却という方法で代替できることを知らないと、割高な商品を選んでしまう恐れがあります。
まとめ
NISAが拡充されれば、あらゆる世代が自分や家族のライフプランに合わせて資産形成に取り組みやすくなり、「貯金から投資へ」の流れは一段と広がっていくでしょう。その一方で、親の資産状況や金融知識の差によって、子どもの段階から将来の格差が生まれてしまう懸念も指摘されています。
今回の要望が、未成年向けのNISAをつみたて投資枠に限定しているのは、富裕層だけが有利にならないための工夫ともいえます。こうした動きのなかで金融教育の必要性はいっそう高まり、NISAを通じた資産形成が、小さな一歩の積み重ねから未来の安心を築く仕組みとして根付いていくことが期待されます。
石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。