政府は現在「リスキリング(学び直し)」を推進しており、社会人にとっても勉強が重要であることを発信している。とはいえ、勉強の必要性を感じているものの、勉強にリソースを割けずにいる社会人は珍しくない。


「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げるパーソルホールディングスは、パーソル総合研究所主席研究員・小林祐児氏と立教大学教授・中原淳氏の共著『学びをやめない生き方入門』(テオリア)の出版を記念してイベント「なぜ、あの人は忙しくても学び続けられるのか? ~大人の学び直し超入門~」を開催。当日は『ドラゴン桜』(講談社)などヒットマンガを多数担当したコルク代表取締役社長CEO・佐渡島庸平氏をゲストに迎え、小林氏と“社会人の学び"をテーマに対談した。
○■勉強の意欲を削ぐバイアス

序盤、小林氏は日本人の勉強に関する現状を解説する。データを引用しながら、対GDP比における企業の人材投資の割合が国際的に低く、加えて社外学習や自己啓発を行っていない人の割合が高いと説明。さらには、20~30代のビジネスパーソンの学習意欲は年々減少傾向にあることにも触れる。

学習意欲が低下している背景を紹介。まず「管理職は負荷が重い割にはうま味がない」「結婚しないと生涯年収が低くても生きていける」「個人投資などが進み、仕事という軸で稼ぐ必要がなくなった」など、内なる意欲を低下させる多面的な要因を挙げる。また、ハラスメントに対する意識が高まったことで上司から活を入れられることが減少したり、多様な価値観の普及により「いろいろなキャリアがあるよね」という優しい空気感が広まったりなど、周囲からの圧力が減ったことの影響も指摘する。

続けて、「学びは新人や若者だけがやるもの」という“新人バイアス"や「今のままで十分仕事ができている」という“現状維持バイアス"など、学習意欲を削ぐ7つのバイアスの存在も取り上げた。

○■読書するために必要なこと

本セミナーの参加者からの質問に2人が答えていく。まず「目の前の業務に追われて読書が進められない」という悩みに、佐渡島氏は読書会への参加を勧める。小林氏も「私も同じことを思っていました」と同意するが、“参加"ではなく“主催"することを提案。
「私も主催していると毎回直前に『無理です』と言う人がいますが、主催者はそれを許されないので」と逃げられない状況を強制的に作れば読書できると話した。

また、佐渡島氏は「良い漫画家はめちゃくちゃ読むのが遅くて、『わかった』と思うまで前に進めない。1~2ページを1週間かけて読むんですよね」と読書のスピードについても言及。一昔前は知識を多く詰め込むことが評価される風潮だったが、今は獲得した"知"を振り返りなどを通じて、自分の中で体系化・構造化することのほうが重要になってきていると語った。
○■読書は傲慢でもOK?

次に「学ぼうと思うけど続かないのはなぜか?」という声が寄せられる。小林氏は「人って人の目標を見ただけで、自分の目標を上げるんですよ」と独学で進めるのではなく、誰かと一緒に取り組むことでモチベーションは維持できるという。続けて、「『勉強しています』と口にすると、『意識高い系だね』『転職するの?』と言われる状況ではあります。そういったところを取っ払って、いかに人を巻き込んでいくかということです」と周囲と連携する重要性を強調した。

佐渡島氏は「何を学びたいのか?」という自身の中にある勉強に対する欲求の大切さに触れる。読書が続かないということは「これは自分の学びたいものじゃないんだ」というヒントになるため、本や学ぶ領域を潔く変えてみるのも悪くないという。また、「ちょっと傲慢になって『(この本は)俺に興味を持たせられなかった』『著者も編集者もゆるいな』という風に考えて、次に行けば良いじゃないかと思います」と“上から目線"で読書してみることを提案。さらに「本の体験って10冊読んで1冊楽しければOKです」と肩肘を張らずに読書する姿勢を勧めた。


読書会への参加、読書のやり方など、“学び方"についてさまざまな議論が展開された本イベント。「何を学ぶのか?」ではなく、まず学び方を学ぶことが、実は近道になるのかもしれない。
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