オフィスを「働く場所」から「集う場所」に。三井不動産は9月26日、日比谷三井タワー9階のカンファレンスルームで「企業対抗ピックルボール&BIZCUP in 日比谷」を開催した。
○■三井不動産の「COLORFUL WORK」というビジョン
三井不動産は「COLORFUL WORK」をスローガンに掲げ、オフィスを単なる“仕事場”にとどめない取り組みを進めている。働き方の多様化が進むなか、ワーカーが自分らしさを発揮し、心身ともに健やかに過ごせる空間をどう提供するか。その課題に対する答えのひとつが、今回のピックルボール大会だ。
イベント前にメディア向け説明会に登壇したビルディング事業本部 法人営業統括一部の山中康平氏は、自らが所属する部門の役割について、「我々はオフィスに入居いただいたあとの“お節介な大家”でありたいと考えています。入居して終わりではなく、そこから企業のみなさまと共に歩む。居心地よく働ける環境を整え、課題解決や新たな交流を生み出すのが使命です」と語った。
その象徴的な仕組みがポータルサイト「&BIZ」だ。防災訓練や災害時の情報発信といった安心を支えるコンテンツから、買い物に使えるクーポン、さらには今回のようなイベントの告知まで、多様なサービスを集約している。現在は約15万人のオフィスワーカーが登録しており、三井不動産の施策を届ける重要な基盤となっている。
山中氏は「共通の社会課題に取り組むセミナーから、のど自慢大会のようなカジュアルな催しまで幅広いイベントを用意しています。その延長線上にピックルボールがあります」と語る。
しかしなぜ、ピックルボールなのか。山中氏はこれについて、「テニスや卓球、バドミントンのいいとこ取りをした新しいスポーツ。老若男女が気軽に楽しめ、しかも狭いスペースで実施できるため、オフィスや商業施設の足元で展開しやすい」と説明する。
実際、日本での競技人口は2023年12月には約2000人だったが、現在は推定4万5000人に急増しているという。三井不動産はTBSと連携して「ピックルボールパーク」を開催し、今年4月から9月までに延べ1万7000人が参加。さらに八重洲の小学校屋上に常設コートを設けるなど、テナントからの声に応えるかたちで場を広げてきたという。
こうした背景を踏まえて生まれたのが、「企業対抗ピックルボール&BIZCUP」だ。山中氏は「スポーツを通じた街づくりの実践、そしてワーカーのウェルビーイング向上。この二つを大きな目的に掲げています」とその狙いを語る。
単なるレクリエーションではなく、企業対抗形式とすることで企業ごとのチームビルディングや帰属意識の醸成につながり、さらに懇親会もセットで行うことで、異なる企業同士の交流も自然に深まる。
今回の日比谷大会には16チームが出場したが、応募段階では40チーム近い申込みが殺到。残念ながら参加できなかった企業もあったほどの人気ぶりで、山中氏は「リアルの体験を求める声が強まっている今だからこそ、このイベントが支持されている」と手応えを口にした。
コロナ禍を経てリモートワークが定着し、オフィスに足を運ぶ理由が薄れていると言われる。が、三井不動産の発想は逆だ。出社しなくても仕事はできる時代だからこそ、オフィスにしかない価値を生み出す。ピックルボール大会はその象徴的な取り組みである。
「我々は入居していただいてからがスタート。企業の経営課題であるような産業創造や人的資本経営の取り組みに寄与するようなイベントを開催して、『行きたくなるオフィス』を作っていきたい」と山中氏は語る。
スポーツを軸にした街づくり。ウェルビーイングをキーワードにした働く環境の再定義。三井不動産が描く未来は、オフィスビルを“ただの箱”から“人が集う街の機能”へと進化させる挑戦だといえるだろう。
説明会のあとはいよいよ「企業対抗ピックルボール&BIZCUP」がスタート。ガラス張りのスカイロビーには2面のコートが敷かれ、ラケットを手にした参加者たちが次々に登場。EY新日本や旭化成、パナソニック オペレーションエクセレンス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンなど多彩な企業が顔を揃えた。
基本的なルールはテニスに近い。試合はダブルス形式で行われ、11点先取で勝敗が決まる。特筆すべきは、この日のために設けられた“3点ごとに選手交代を行う”というユニークなルールだ。特定の経験者が活躍し続けることを防ぎ、チーム全員が満遍なくプレーを楽しむための配慮である。また、どちらかのチームが6点を取った際にコートチェンジを行うなど、初心者でも飽きずに試合を楽しめる工夫が凝らされていた。
いよいよ試合が始まると、スカイロビーは熱気に包まれた。初めてラケットを握る人もいれば、経験者らしい力強いショットを放つ人もいる。軽快なボールの音とともに、参加者たちは笑顔でコートを駆け、時に真剣な表情でポイントを狙う。普段はオフィスで汗を流しているワーカーらが、スポーツウェアに身を包んで汗を流し、交流を深める姿はとても新鮮で印象的だった。
ピックルボールという新興スポーツを通じ、企業間の壁を越えたコミュニケーションを促進しつつ、ワーカーの幸福度向上にも貢献する。三井不動産という“お節介な大家”の取り組みは、今後さらなる広がりを見せていくに違いない。